2013 Fiscal Year Research-status Report
木質文化財の現場調査を目的とした新規手法の基礎的研究
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24780169
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田鶴 寿弥子 (水野 寿弥子) 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (30609920)
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Keywords | 樹種識別 / NIR / 木彫像 / カヤ |
Research Abstract |
木質文化財の樹種調査においては、多くの場合に遊離片の採取が禁じられており、このことが、木質文化財の調査の格差、ひいては知見の格差を生んできている。中でも木彫像における樹種や年代調査は、特に困難な分野となっている。そのような背景を鑑み、オンサイトかつ非破壊で樹種識別ならびに年代調査が可能となる、新規手法の確立を目的とした。そのために、ポータブル型FT-NIRによる現場でのオンサイト調査を可能とするべく、まずは卓上型FT-NIRによる検討を行ってきた。 研究代表者が所属する京都大学生存圏研究所材鑑調査室所蔵の有用樹種標本を活用し、FT-NIRによる樹種・年代解析を行うべく、現生材ならびに歴史的古材のFT-NIRスペクトルデータの蓄積を行ってきた。特に、古代の木彫像に使用されていることが多かったカヤやヒノキ、スギ、アスナロといった針葉樹をはじめとして、クスノキ・ケヤキ・ハリギリといった広葉樹、ならびに建造物にも使用されるアカマツ・クロマツについてもデータの蓄積を行ってきた。その結果これまでに現生材では計10種におけるFT-NIRスペクトルの判別分析により、樹種ごとの分類が可能となった。一方、アカマツ・クロマツについては、現生材については検量線の獲得も成功し、方法論・解析法の深化も可能となったものの、その検量線を歴史的古材には適用できない、すなわち古材の識別には適用できないことも判明したことから、樹種それぞれについての、経年変化によるFT-NIRスペクトルの挙動変化と原因追究を重点的に行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
材鑑調査室に保存されている標準試料および歴史的古材のNIRデータの獲得・蓄積については、順調に進んでおり、特にヒノキ・カヤ・アスナロなどをはじめとした木彫像に使用されることの多い樹種については、判別分析に成功している。ニヨウマツ類における樹種識別については共同研究者との論文もほぼ投稿できる段階にまできている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、現生材についてはある程度NIRスペクトルを用いた判別分析が進んできたことから、ポータブル型NIRの導入を進める。一方、未だ検量線モデルが確立できていない歴史的古材については、経年変化に応じたスペクトル変化の要因を突き止めることで、NIRによる識別を検討する。その進展に合わせて、実際の博物館といったオンサイトでのポータブル型NIR装置の活用を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度は、ポータブル型NIRによる樹種識別に向けて、従来より研究室に設置してあった卓上型NIR装置を用いた、標準試料の基礎的データの獲得と蓄積、ならびに解析が主な研究内容となったことから、当初予定していた予算よりも低い金額での業務の遂行が可能となった。 次年度以降は、初年度に獲得した基礎的データを活用して、あたらに導入する予定のポータブル型NIR装置を用いた樹種識別がメインとなってくる他、歴史的古材における基礎的データの蓄積に向けた実地調査やサンプリング、ならびに試料精製の補助を手伝ってもらうための人件費などに予算をあてることで、飛躍的な研究を進めていきたいと考えている。ポータブル型NIR装置での古材の樹種調査を可能とした上で、これまでに協力体制を築いてきている各地の博物館へ出向き、オンサイト調査を順次進めていく予定である。
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