2012 Fiscal Year Research-status Report
農地の放射能汚染マップ作成モデル事業による風評対策と損害構造の解明
Project/Area Number |
24780207
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
小山 良太 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (60400587)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 放射能汚染問題 / 食品検査態勢 / 原子力災害 / 地域農業振興 / 農地の汚染マップ |
Research Abstract |
本研究は、放射能汚染地域における農産物の生産・流通段階の安全検査に関して、4段階検査モデル(①全農地汚染マップ、①農地・品目移行率、③出荷前本検査、④消費地検査)を提示し、緊急的復興課題としての「風評被害」対策と中長期的復興課題として損害構造(①フロー:域内生産物、②ストック:域内資源、③社会関係資本)の解明を目的ととしている。 土壌から放射性物質(主にセシウム)が作物に移行するリスクは、コントロール可能性を考慮した場合、ハウスや畑地で生産される園芸作物において最も基準値を超えるリスクが小さい。続いて、牧草地、樹園地の順にリスクが高くなり、最も管理が困難なのが水田農業である。 最もリスクの高い水田農業に関連して、福島県では、2012年度には米の全袋検査が実施されている。2013年度からは圃場管理方式への転換が検討されている。これにより、生産前の段階でリスクの高い農地を特定することが可能になり、汚染度合いに合わせた対策を事前に行うことができる。生産前の段階で農地の放射能汚染の度合いが把握できるならば、それを踏まえた生産時点で作物転換対策や吸収抑制対策を効果的に実施することができる。また汚染度の高い農地では吸収率の高い農産物を栽培しないことで、農産物に含まれる放射性物質が低減される。 より高い安全性を確保し、「風評」問題に対応するためには、食品検査態勢を、現在の出口対策から生産対策へ転換すべきである。転換のためには検査によって得られた膨大なデータを短時間で解析し、生産段階での対策(圃場管理、作付選択、土壌分析をもとにした吸収抑制対策)に繋げることが必要である。また、こうした対策を福島県のみが実施するのではなく、放射能汚染問題に直面する他地域においても同様に実施することが必要である。県域を越えての対策が必要であり、国として責任ある政策の構築が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
消費者の安心を確保するためには、放射性物質の検査に関する体系化と組織態勢の整備が必要である。本研究では検査態勢の体系化は基本的には4つの段階態勢が必要であることを示し、現実の政策・放射能汚染対策事業に反映させている。①第1段階:より精緻な農地の放射性物質分布の詳細マップの作成と農地認証制度の設計。②第2段階:移行率のデータベース化とそれに基づいた吸収抑制対策。③第3段階:自治体・農協のスクリーニング検査と国・県のモニタリング検査との連携。④第4段階:消費者自身が放射能測定を実施できる機会の提供である。この一連の流れを、生産段階から消費段階までの4段階検査態勢として構築することが進められている。このような検査態勢の構築・実施には、設備の面でも人的にも相当の費用がかかることが予想される。そのような投資に対する費用対効果についても、今後検討を行っていく必要がある。 小山良太・小松知未・石井秀樹『放射能汚染から食と農の再生を』社団法人家の光協会、2012年8月1日、pp.1-87.および小山良太「福島県における原子力災害の影響と農村・農業の再生」『地域経済学研究』日本地域経済学会、pp.25-47、2012年12月31日.において成果を公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
現行の福島県の「風評」問題への対策はリスクコミュニケーションを基本としている。これは消費者が実際に売られている農産物を買うか買わないかを判断ために必要な「安心」情報を提供するというものである。しかしこれには以下のような構造的な問題がある。 第1の問題は、米以外の農産物の検査はあくまでもサンプル検査である点である。サンプル検査における代表性を高め、検査の精度を高めるためには、農地の汚染状況の把握、および農産物ごとの移行率を体系的にまとめ、この体系に基づく検査態勢を構築することが必要である。 第2は地産地消が福島県で受け入れられていないもとで、農作物を県外に移出するという矛盾である。福島県内では生産者や住民(消費者)が県産農産物を食べないとか、福島県の学校給食では県産農産物を使用していないといった状況がなおあるにもかかわらず、福島県産農産物を首都圏等の被災地以外の学校給食に卸売したり、あるいはスーパー等に販売したいと思ったとしても、福島県外の住民(消費者、保護者)の理解を得ることは難しい。 第3は品目ごとの基準値と検査方法が同一であることに対する不安の問題である。土壌の核種別分析が可能な農産物と汚染状況の把握が困難な海産物とが、全袋検査をしている米とサンプル検査しかしていないキノコとが、畑で栽培された農産物と林地等で採取された山菜とが、米のような年間摂取量の多く日常的に食する農産物と累積摂取量が少なく季節的な旬の農産物とが、同一の基準で安全性が決められている。 「風評」問題対策は、消費者に対して情緒的な安心を求めるものではなく、放射性物質の分布マップの作成、移行率の確認を踏まえた合理的な検査態勢の構築といった生産段階からの根本的対策を講じ、農産物の安全性を消費者が客観的に確認できるような制度設計に向けて研究を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
具体的な事業モデルとして設計する。福島県内各協同組合組織が加盟する福島大学協同組合ネットワーク研究所(平成21年設置。事務局長:申請者)と共に福島県生協連、福島県内17JA及び全農福島を横断する協同組合間協同モデル内で4段階安全検査体制を組み込んだ産消提携モデルを構築する。重要なのは安全検査に消費者自身が関わる体制づくりと認証制度の構築である。安全検査と生産・流通・消費体制については、平成23年10月に実施したウクライナ・ベラルーシ調査(団長:福島大学清水修二副学長、福島県、生協、農協関係者も含め計37人参加)を踏まえ、更に詳細な実態調査(特に消費地検査)を行う。 原子力災害に伴う損害構造の解明に関しては、2年が経過する計画的避難地域の農家を対象とした意向調査の実施と地域資源、社会関係資本の復旧可能性について検討する。
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Research Products
(21 results)