2012 Fiscal Year Research-status Report
タイトジャンクションが乳腺腺胞細胞の乳汁分泌能を調節する機序の解明
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24780281
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 謙 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30449003)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | タイトジャンクション / 乳腺 / 乳汁 / クローディン / プロラクチン / リポ多糖 / コルチコイド / 乳房炎 |
Research Abstract |
乳腺の腺胞上皮細胞は妊娠中に増殖・分化して乳汁分泌能を獲得し、分娩後に乳汁を分泌する。しかし、乳腺胞上皮細胞の乳汁分泌能は離乳にともなって消失し、やがて乳腺胞細胞自体も消失する。この一連の流れの中で乳腺胞上皮細胞間に存在するタイトジャンクション(TJ)の構造や機能が変化することが知られている。しかしながら、乳腺胞TJを調節する因子や乳腺胞TJと乳汁分泌能の関係など、いまだ不明な点が多い。そこで本研究では、畜産酪農の分野に貢献する知見を得ることを目的として、乳腺胞上皮細胞の乳汁分泌能とTJの関係について調べている。 これまでの研究結果から、泌乳に関連するホルモンであるプロゲステロン、コルチコイドおよびプロラクチンがTJ構成タンパク質であるClaudin(CLD)の発現量を調節していることがin vitroの実験から明らかになった。特にコルチコイドとプロラクチンはCLD-4の発現を各々促進、抑制するという相反関係であった。また、CLD-4は分娩前に増加し、泌乳とともに減少するCLDであることを以前に報告していることから、生体においてもコルチコイドとプロラクチンが、泌乳期前後のTJの変化を誘導していると考えられた。 乳汁分泌能の低下は乳房炎の際にも認められる。そこで大腸菌性乳房炎の内毒素の一つであるリポ多糖(LPS)が乳腺胞のTJと乳分泌能に及ぼす影響について調べた。その結果、LPSは投与3時間以内に乳腺胞のTJを構成するCLD-3とCLD-7の脱リン酸化を誘導し、TJの構造的、機能的変化を引き起こすことが明らかになった。また、投与12時間後にはCLD-1とCLD-4の発現も亢進しており、離乳後のものと類似したCLD組成を示した。乳成分の合成量や分泌量も低下していたことから、LPSは乳腺胞のTJと乳分泌能の変化を離乳時に近い状態に誘導していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の「研究の目的」として、①TJ構成タンパク質であるCLDに着目して乳腺TJの構造的・機能的変化を誘導する生理活性物質を同定し、②その後に同定された生理活性物質に端を発する乳腺TJを介した乳汁分泌調節機序について明らかにする、と交付申請書に記載した。また、同申請書の「研究計画・方法」では、前者の①を中間目的として、後者の②を最終目的として設定しており、①の研究を平成24年度以内に達成する計画を明記した。この計画に対する達成度は“おおむね順調に進展している”に相当すると自己評価する。 評価の理由として、CLDを介して乳腺TJの構造的・機能的変化を誘導する生理活性物質として、前述したプロゲステロン、コルチコイド、プロラクチンおよびLPSを同定していることが挙げられる。また、炎症性サイトカインであるIL-1beta、IL-6、TNF-alphaを乳腺上皮細胞の培地に添加すると細胞膜頭頂部におけるCLDの局在が一部で消失し、TJの機能性が低下することも確認している。すなわち、乳腺TJの構造的・機能的変化を誘導する生理活性物質として、現時点において7種類の成分を同定したことになる。特にLPSによる乳腺胞TJの構造的・機能的変化に関しては、乳腺胞上皮細胞の頭頂膜におけるLPSレセプターの発現、LPS刺激によるNFkappaBの活性化などのデータと合わせて”PLOS ONE”に掲載された。他の因子についても現在1報を国際誌に投稿して審査中であり、他2報も執筆中である。以上のことを総合的に判断して、自己点検による評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
“本研究課題の今後の推進方策”は、基本的に交付申請書に記載した計画内容に従う予定である。研究のゴールは同定した生理活性物質に端を発する乳腺TJを介した乳汁分泌調節機序の解明であり、この研究を進めるために交付申請書の平成25年度の研究計画・方法に記載した実験を行う。まず、乳汁成分の分泌経路に着目し、①膜輸送タンパク質を介した分泌(イオン、カルシウム、水等)、②漏出分泌(カゼイン、ラクトフェリン等)、③離出分泌(脂質、脂溶性成分)、④経細胞輸送機構(免疫グロブリン等)、⑤傍細胞経路を介した成分漏出(間質成分)の各経路から分泌される乳汁成分が、平成24年度で同定したTJ調節因子によってどのように変化するかを調べることで、ターゲットとするべき分泌経路を絞り込む。続いて、絞り込んだシグナル経路の阻害剤、あるいはCLDをターゲットとした既知のTJ阻害剤(siRNAおよびCLD-3と-4の細胞外領域に結合するクロストリジウム由来ペプチド)を用いて、最終的に乳腺TJを介した乳汁分泌能の調節機構を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究達成のためには、乳汁分泌量の測定として赤外分光多分析測定、ELISA、Bradford法、real-time PCR、乳汁分泌に関わるシグナル経路を調べるために免疫染色やウエスタンブロッティングなどを行う必要がある。そのため、これらの実験に用いるマウス、消耗品および試薬を購入する予定である。また、シグナル経路を同定するために用いる阻害剤は研究の進行状況に合わせて効率よく購入する方針である。さらに、得られた成果を学会発表、投稿論文として公表する為、交通費、英文校正費、投稿料にも研究の予算を使用する予定である。
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Research Products
(3 results)