2012 Fiscal Year Research-status Report
Brook転位を基盤とするカスケード型反応の開発とその応用
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24790008
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
湊 大志郎 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 助教 (80610914)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | Brook転位 / Wittig反応 / カスケード反応 / ホスフィン / 炭素間結合形成反応 |
Research Abstract |
本研究の目的は、Brook転位を鍵とする有機分子の構造変換のための新たな方法論確立である。 シリル基が分子内で炭素上から酸素上へ容易にアニオニック転位を起こす反応は、Brook転位としてよく知られており、これにより発生するカルバニオンをうまく活用することができれば新規な分子変換法の開発に繋がると考えられる。 今回、ホスフィン求核剤を用いることで、シリル移動を鍵とする新たなカスケード型炭素間結合形成反応の検討を行った。これにより、β-シリル共役オレフィンとアルデヒドからシリルジエノールエーテルを高収率で与える新規カスケード型反応の開発に成功した。すなわち、β-シリル共役オレフィンに対してホスフィン求核剤を用いる際、Brook転位が起こることで対応するホスホニウムイリドを強塩基を用いる事なく生成でき、続くアルデヒドとのWittig型反応が連続的に進行するような、これまでにない新しいタイプの反応である。また、鍵となる分子内シリル移動により一方のオレフィン部位のE/Z選択性は完全に制御できており、このことは反応の新規性を特徴付けていると言える。さらにこの方法論は、ホスフィン求核剤が単に基質の活性化に寄与するだけでなく、1,4-Brook転位によりイリドを直接形成する事ができ、n-BuLi等の強塩基が不要であるため-78℃という低温条件を用いることなくWittig型反応を進行させる事ができるという特徴を有している。 本反応について、ホスフィンや反応温度などの検討を行うことにより最適な反応条件が得られ、様々なシリル基を持つ共役オレフィンやアルデヒドを用いた一般性の検討を行う事ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である、Brook転位を鍵とする有機分子の構造変換のための新たな方法論確立を目指して検討を行った。 平成24年度の計画のひとつとして、シリル転位を鍵とする新たなカスケード型炭素間結合形成反応の着想を基に、反応条件の精査を行う事で方法論の一般性確立を目指していた。これにより、β-シリル共役オレフィンに対してホスフィン求核剤を用いる際に、シリル移動が起こる事で対応するホスホニウムイリドが生成し、続くアルデヒドとのWittig型反応が起こることでシリルジエノールエーテルを与える、といった反応機構に関する知見を得る事ができた。また、このような1,4-Brook転位/Wittigカスケード型反応では、アリールアルデヒドだけでなくアルキルアドデヒドでも対応するシリルジエノールエーテルを与える事が分かり、広い基質一般性を有することが示された。 また、Wittig型反応の段階で形成されるもう一方のオレフィン部位のE/Z選択性を改善目指した検討として、用いるホスフィンや溶媒及び反応温度等の条件検討を行ったところ、現在までに選択性の改善という点では良好な結果は得られていないものの、収率を向上させる事ができた。 一方で、開発した1,4-Brook転位/Wittigカスケード型反応により得られるシリルジエノールエーテルを用いた連続的分子変換反応の検討も平成24年度の計画である。現在、単離したシリルジエノールエーテルを用いた反応条件の最適化を行っているところである。また、新規カスケード反応は温和な条件下進行し、反応後の系中は生成物とホスフィンオキシドのみであるという特徴から、続く反応を1ポットで行う事が可能と考えている。そこで、新規カスケード反応系から、連続的に次の反応が進行するような1ポット型の手法の開発を目指し検討を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究計画として、まずは新規1,4-Brook転位/Wittigカスケード型反応により得られるシリルジエノールエーテルを用いた連続的分子変換反応を1ポットで行うための条件検討を引き続き行っていく。 一方で、1,4-Brook転位/Wittigカスケード型反応により得られるシリルジエノールエーテルから、さらに続く分子内反応が連続して進行すれば、多官能性有機分子を与える非常に有意義な手法となる。すなわち、シリルジエノールエーテルという構造の特徴から鑑みて、シグマトロピー転位が進行するような基質を設計する事で、続く反応が連続して起こるものと考えられる。 具体的な検討例としてまず想定した反応は、1,4-Brook転位/Wittigカスケード型反応の後、Claisen-Ireland型のシグマトロピー転位が起こる連続反応が進行するというものである。一般的なClaisen-Ireland転位反応は、シリルエノールエーテルを形成するために低温条件下強塩基を用いる必要があるが、新規カスケード型反応を利用した場合では、比較的温和な条件下強塩基を用いずにシリルエノール構造への変換が可能である。 また、新規カスケード型反応の後、Aza-Claisen転位が起こる連続的に進行する反応系も可能であると考えている。例えば、ピペリジン環に光学活性なビニル基を持たせた基質に対して新規カスケード反応の条件に付した後にAza-Claisen転位が起これば、他の環構造と比べて形成が容易ではない中員環の立体選択的な構築と同時に、環上にビニル構造を一段階で導入することが可能になると考えている。 さらに、上記の検討を行うとともに、見出された新規カスケード反応を活用することで、続く反応により多様な分子構造へと導くための新たな方法論の検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費については、おおむね研究が順調に進展した中で、生じた残額が446円と少額であったため、次年度に繰り越すこととした。 新たに請求する研究費については、主に、有機合成における方法論を確立するための、有機合成試薬類および有機合成溶媒等に使用する予定である。また、器具類については、クロマト管やフラスコ類等の消耗品の整備が必要とされる。消耗品以外の実験設備備品(減圧濃縮機、ポンプ、秤量天秤など)は、既存の実験室設備を利用する予定である。 反応検討を進めていくとともに、有機化学及び医薬品化学系の学会での発表や専門の国際学術誌への論文投稿等を行うため、消耗品費に加え研究成果発表に係る旅費等の経費も必要である。
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