2013 Fiscal Year Research-status Report
多剤耐性を克服できる新規抗HIV剤を開発するための構造基盤の解明
Project/Area Number |
24790049
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Research Institution | Iwaki Meisei University |
Principal Investigator |
鈴木 薫 いわき明星大学, 薬学部, 客員研究員 (90382788)
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Keywords | HIV感染予防 / 抗HIV薬 / タンパク質 / 糖鎖 / レクチン / X線結晶構造解析 / 感染症 / 薬学 |
Research Abstract |
昨年に引き続きAHと種々の糖鎖との結晶化の実験を行い、AHとα-1,2-1,2マンノトリオース(Man3)との糖複合体の結晶を得ることに成功した。既に解析しているAH単体、AHとα-1,2マンノビオース(Man2)との糖複合体に加えて、今回新たに得られたAHとMan3糖複合体の構造の比較からAHと糖鎖との結合状態を解析した。AHの立体構造は、これまでの解析結果同様に3つの糖鎖結合ポケットからなる環状の構造を形成し、第一の糖(M1)は環状構造周辺の溶媒領域に配置され、第二の糖(M2)はAHと結合した配置をしていた。今回、AHとMan3との糖複合体の結晶では高分解能1.0Åのデータが得られたにもかかわらず、第三の糖(M3)については、M3と思われる電子密度を明確に確認することはできなかった。 AHと糖鎖との結合特異性を向上させたAH改変体を調製するには、M3の結合様式を確認する必要がある。そこで研究方法を再検討し、AHとMan3の試料は結晶化時に随時精製して調製した新しいサンプルを使用すること、糖鎖の種類については先端がメチル化されたMan2(Man2-OMe)、α-1,2-1,3Man3とMan9を用いることとした。この内、AHとMan2-OMeおよびAHとα-1,2-1,3Man3では結晶が得られ、解析を進めている。さらに、国際宇宙ステーションで行う高品質タンパク質結晶生成実験への参加により、AHとMan3との糖複合体の結晶化を超微小重力場でも行っており、回折データが向上されればM3の電子密度も確認できるものと期待される。 本年度は研究方法を再検討したことに加えて妊娠の為の体調不良により予定していた研究実施計画を遂行することが困難であった。来年度から産前産後および育児休業による中断となるが、復帰後は解析実験を進めると共に、研究方法および手法等を再検討して本研究を推進する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
AHと糖鎖との結合様式を解明するために、これまでにAHと種々のマンノース糖鎖との結晶を用いて構造解析を行ってきた。AHに結合する3つの糖鎖結合ポケットの内、第一の糖M1と第二の糖M2は解析により結合状態を確認することができているが、第三の糖M3については電子密度の状態をはっきりと確認することができていない。そこで、Man2については先端がメチル化されたMan2-OMe、Man3についてはα1-2,1-3Man3、高マンノース糖鎖であるMan9を用いて結晶化を行い、AHとMan2-OMeおよびAHとα1-2,1-3Man3との結晶化では結晶が得られ、解析を進めている。AHとMan9との糖複合体の結晶については、結晶は析出しているが、回折実験に可能な結晶を得るために結晶化条件の最適化を行っており、AHと各種糖鎖との複合体の結晶化実験はほぼ研究計画通りに進んでいるものと思う。しかし、Man2、Man3、Man9のいずれを用いた糖複合体の結晶化においても結晶が析出するまでに時間がかかっていること、タンパク質と糖を含めた複合体での構造解析においても解析データの処理が困難なこと、結晶の種類によっては高分解能の回折データが得られても構造解析が上手くいかない場合もあり、予想以上に時間を要している。 本年度は、種々の結晶析出条件を基に、AHとgp120との複合体の結晶化を行うと共に、これまでの構造解析の結果から得られた糖結合様式の構造学的データを基にAHと糖鎖との結合特異性を向上させるための分子設計を行ってAH改変体の調製を進める予定であった。上記に示したように構造解析における遅れから研究方法を再度検討したことに加えて、妊娠のための体調不良もあり、研究の目的に向かって本実験は進んでいるが、本年度予定していた実施計画通りに実験を行うことができなかったことから多少の遅れがあるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
AHと糖鎖との結合機構を解明し、AHをより効果的な新しい感染予防薬として改良するための構造基盤を確立することを目的に、先ずは各種糖鎖(Man2、Man3、Man9)におけるAHとの結合様式を明らかにする。これまでの研究からAHと糖複合体との結晶化および構造解析における難点を克服するために、以下に示す再検討した研究方法および手法を用いて実験を進める。AHは精製標品をさらに高純度となるようにゲル濾過カラムクロマト等による処理を施し、さらに結晶化ではこれまでに得られている結晶析出条件に加えて数種類の組成の異なる結晶化スクリーンキットなどを用いて高範囲での結晶化を行う。また、各種糖鎖についてもできるだけ精製純度の高いものを使用し、先端の異なる糖鎖の結晶から得られる構造解析のデータを比較することで、糖鎖の種類の違いによる結合様式の相違について検討する。さらに、構造解析により得られる構造学的データと、AHと種々のマンノース糖鎖およびgp120との結合能についてITC(等温滴定型熱量測定)などの分析学的手法による解析によって得られる熱力学的データを合わせて検討することで、糖鎖との結合特異性を向上させたAH改変体を調製するための分子設計を行うための知見を得る。 標的分子であるgp120とAHとの複合体の結晶化と構造解析を進めるとともに、AH改変体の改良研究とその抗HIV活性を測定し、薬剤として有望なAH改変体についての検討を行う。選定した改変体については、薬理学的、微量分析学的手法等を用いて有効性および安全性を検証する。これらの薬理学的実験等については経験のある本学薬学部の先生方の協力を仰ぐ。研究成果をまとめ、HIV/AIDS予防・治療薬としての実用化に向けての構造基盤を確立することを目指して本研究を推進させ、今後も得られた研究成果を生かして本研究をさらに進展させていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、AHと種々のマンノース糖鎖との結晶化およびその結晶構造解析において、結晶が析出するまでに時間がかかっていることや、高分解能のデータにおいても構造解析が困難なこともあり、この実験段階において予想以上に時間を要した。培養や精製等の実験における消耗品などは、予め購入して使用することが可能であるが、結晶化やサンプル調製等で使用する試薬類については、できる限り新鮮なものを使用して行わなければならず、研究の進行状況に応じての購入となっている。その為、本年度使用額の大半を占める糖類およびgp120については、高額である上に海外の専門メーカーから購入していることもあり、特にgp120は非常に高額であるので標品の純度などの確認もあることから発注においても慎重に行っている。さらに、研究代表者の妊娠による体調不良もあり、予定通りに実験を行うことが困難となり進行が遅れたこともあり、次年度使用額が生じている。 産前産後の休暇又は育児休業による中断による中断期間から復帰後は、中断前までの研究成果と中断後析出した結晶とその構造解析等による実験結果から研究計画を検討して研究を進めていきたいと考えており、1年目で1,100,231円、2年目では最終年度の配分額を使用する予定である。
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