2015 Fiscal Year Research-status Report
多剤耐性を克服できる新規抗HIV剤を開発するための構造基盤の解明
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24790049
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Research Institution | Iwaki Meisei University |
Principal Investigator |
鈴木 薫 いわき明星大学, 薬学部, 研究員 (90382788)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | HIV感染予防 / 抗HIV薬 / タンパク質 / 糖鎖 / レクチン / X線結晶構造解析 / 感染症 / 薬学 |
Outline of Annual Research Achievements |
アクチノヒビン(AH)と糖鎖との結合機構を解明し、AHをより効果的な新しいHIV感染予防薬として改良するための構造基盤を確立することを目的に、AHとHIV外殻糖タンパク質(gp120)との複合体の結晶化の実験に取り組んだ。これまで、AHとα-1,2マンノビオース(Man2)との複合体の結晶およびAHとα-1,2-1,2マンノトリオース(Man3)との複合体の結晶が得られ、結晶構造解析を行っている。AHの立体構造は、解析結果から3つの糖鎖結合ポケットからなる環状の構造を形成し、第一(M1)、第二(M2)、第三(M3)の糖が存在していることが確認されているが、M3についてはまだ結晶構造解析による電子密度の確認には至っていない。さらに、AHと各種糖との複合体の結晶化においても、結晶析出および解析にかなりの時間がかかっていることから、先ず標的分子であるgp120とAHとの結晶化を行って、構造解析を試みることとした。結晶化で使用するAHは、高純度のサンプルとして使用できるように、培養後はAHをイオン交換クロマト、ゲル濾過カラムクロマトに順次かけてAHの精製を行った。精製したAHは、サンプルの均一性を確認するために、既に得られているMan2やMan3との複合体の結晶化に使用したサンプルとの電気泳動による比較を行った。サンプルの均一性はほぼ確認されたので、このサンプルを用いて、AHとgp120との複合体の結晶化条件の検討を行った。 AHとgp120との結晶化では、AHの溶液とgp120と混合させた際に沈殿が生じてしまう。サンプル溶解溶液および結晶化溶液のpHを細かく振って、沈殿の生じない溶液のpHを検討する必要がある。本年度は、育児休業による中断期間から復帰し、試薬類の調達など研究の準備に時間を要したが、実験の準備を整えながら再度研究方法および手法等を検討して本研究を推進する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
AHと糖鎖との結合様式を解明するために、AHと種々のマンノース糖鎖(Man2,Man3,Man9)との複合体結晶の構造解析を行ってきた。AHとMan2との結晶化では、先端がメチル化されたMan2-oMeを用いて、またMan3についてはα-1-2,1-3Man3を用いてそれぞれ結晶化を行い、結晶が得られている。得られた結晶を用いて回折データを収集してX線結晶構造解析を行っている。AHと各種糖との複合体の結晶化については、糖複合体の結晶が得られており、結晶化の実験はほぼ計画通りに進んでいるものと思われる。結晶構造解析では、AHとMan2、AHとMan3との結晶では、構造解析が上手くいっているものの、一方で、高分解能の回折データが得られ場合においてもMan9など、他の糖との複合体結晶については構造解析が困難となっており、結晶構造解析については予想以上に時間を要している。 現在までに得られている種々の結晶析出条件を基に、AHとHIVの標的分子であるgp120との結晶析出条件の検索を行っている。AHとgp120との結晶化では、沈殿するものが多く、結晶の析出にも時間がかかるものもあることから、結晶化方法を再検討すると共に、精製法の確認やITC装置などを使用してAHとgp120との結合能を調べる必要があると思われる。 これまでの実験結果を確認して、上記に示した結晶化等の新たな問題点などを検討しながら、本研究を推進させていきたいと考えている。また、育児休業による1年以上の中断期間があり、試薬の準備、実験器具や装置の動作確認なども行っていることから、本実験の進行が遅れていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
AHをより効果的で副作用の少ない新しいHIV感染予防薬として改良するための構造基盤を確立することを目的に、AHと各種糖鎖(Man2, Man3, Man9)との糖複合体の結晶構造解析を推進させ、AHの立体構造を明らかにする。糖複合体の構造解析を行うと並行して、今後はAHとgp120との結晶化の実験を優先させる。AHとgp120との複合体の結晶化では、AHが酸性の溶液に溶解することからgp120と混合することで沈殿が生じており、AHとgp120ともに沈殿しない溶液を検討する必要がある。サンプル溶解溶液のpHを細かく振ること、結晶化の手法を検討すること、精製法の確認および精製後のサンプルの調製などを再検討する。さらに、AHとgp120との結合能についてITC装置などの分析学的手法を取り入れて、熱力学的データを得る。精製および結晶構造解析から得られる構造学的データと、熱力学的データを合わせて検討し、糖鎖との結合特異性を見出し、さらに特異性を向上させたAH改変体を調製するための分子設計を行うための知見を得る。AH改変体は、薬理学的、微量分析学的手法を用いて薬剤としての有効性および安全性を検討する。本実験により得られる研究成果を生かして本研究をさらに進展させていきたいと考える。
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Causes of Carryover |
育児休業による1年以上の中断期間を経て平成27年10月1日に研究再開した。復帰後は、先ずこれまでの本研究成果を確認し、今後の実験計画を再検討すると同時に、実験室の器具と装置、精製や結晶化などに使用する試薬について、使用できるものと新たに準備する必要があるものとの確認から始めた。新しく購入しなければならない試薬や器具類で使用する消耗品など、必要なものを確認しながら実験が行えるように準備をした。また、本研究中断前に行った結晶化についても、その結晶化プレート全てを結晶が析出しているかどうか、さらに回折実験に適した結晶かなどの確認をした。特に、試薬類の購入は研究の進行状況に応じていること、糖類およびgp120は高額である上に、海外のものを含めて各専門メーカーにおける精製純度を詳細に確認する必要があるためにその発注も慎重に行わなければならない。以上の理由から、次年度使用額が発生している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
育児休業による中断期間から復帰し、少しづつではあるが実験の準備が整ってきている。精製およびサンプル調製等で使用する試薬類、結晶化試薬と結晶化で使用する器具やその消耗品類、カラムクロマト用の各種ゲル、糖類およびgp120など今後購入しなければならないものが多数ある。これらのものの購入には、次年度使用額と今年度の配分額を使用する予定である。
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