2012 Fiscal Year Research-status Report
乳がん治療に合併する認知機能障害の諸因子の解明と認知リハビリテーション法の開発
Project/Area Number |
24790653
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
関口 敦 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 講師 (50547289)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 脳・神経 / 認知機能障害 / 乳がん / 内分泌療法 / 術後認知機能障害 |
Research Abstract |
本研究の目的は、乳がん治療に合併する認知機能障害の発症機序モデルの神経基盤を解明し、認知機能障害の適切な治療方法の開発を目指すことである。 東北大学腫瘍外科を新規受診する閉経後の乳がん患者を対象とし、手術前(ベースライン)、術後1週間以内、術後6カ月の時点での、認知機能検査(注意、記憶、作動記憶、実行機能、抑制能力、知能)、心理指標測定(うつ、不安、気分、性格傾向、QOL)、脳形態・脳機能測定(MRI検査てT1強調画像、 拡散強調画像、安静時の脳活動)を行った。患者群は、乳がん治療の内容により、①手術+内分泌療法、②手術のみの2群を対象とし、更に健常対照群を加えた3群による検討を行っている。研究協力者である、東北大学腫瘍外科に所属する佐藤千穂大学院生が患者群のリクルートを精力的に行っており、対象となる患者群を網羅的に声掛けすることが出来ている。 平成24年度は、31名の術前・術直後のデータ、15名の術後6か月のデータが収集できた。乳がん治療の内訳は、手術+内分泌療法18名、手術のみ8名、手術+化学療法4名、術後の治療方針未定1名であった。術前後のデータセットが一定数集まった時点で、年齢、BMI、学歴を統制した健常対照群20名(閉経後)を対象として、自然経過による脳形態変化および認知機能検査における学習効果を統制するために、手術イベントを挟まない1週間の縦断検査を行った。 健常対照群と、乳がん患者群の術前・術直後の28名分のデータセットを用いて、術後認知機能障害についての評価を行ったところ、4名に術後認知機能障害が認められた。脳画像解析の結果、術前後で右視床の脳灰白質量の減少が、注意の指標の低下量と正相関して右背外側前頭前野の脳灰白質量の減少が認めれれた。本結果は、平成25年4月に開催される、第113回日本外科学会定期学術集会にて発表する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究協力者である、東北大学腫瘍外科に所属する佐藤千穂大学院生が患者群のリクルートに留まらず、6か月後フォローアップ、健常群の募集などを精力的に行っており、非常に効率的にデータ収集が出来ている。現時点ではエントリーした31名中、28名が追跡できており、良好な追跡率と評価している。既に術後6カ月の追跡データも15名分収集できており、今後も継続的に患者群のリクルート、追跡を行うことが出来る体制を維持している。 また、乳がん患者群のうち、手術+内分泌療法群が18名と一定数集めることが出来たために、当初平成25年度に予定していた健常対照群のデータ収集を、前倒しして平成24年度中に開始することが出来た。それに伴い、当初計画では平成25年に行う予定であった術後認知機能障害の評価を行い、上述の結果が得られたことにより、平成25年4月の外科学会に演題を出すことが出来た。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度にエントリーした乳がん患者群において、手術+内分泌療法群が18名と順調に集まっているが、手術+化学療法群が4名と当初想定していたよりも少なかった。昨今の乳がん治療の変化から、研究計画を立てた時点で参考とした平成19,20年度の東北大学での治療実績に比して、術後化学療法を行う症例数が大幅に減り、術前に化学療法を行う症例が増えていることが原因と考えられる。 上記変化に伴い、当初計画にあった、化学療法+手術群は症例数が十分確保できない見通しとなった。化学療法による認知機能障害は、脳画像研究を含めて多数報告があり、新奇性に乏しいとの判断からも、化学療法施行群を対象とせず、術直後に化学療法を行った群の追跡は行わない方針とした。上記方針変更に伴い、術後6か月の検査は術後化学療法終了後のタイミングを想定していたのだが、術後化学療法群がなくなることから、術後6カ月と術後12か月とのデータの意味づけがあまり変わらないことから、良好な追跡率を維持することを優先して術後12カ月のデータ収集は行わない方針とした。 したがって、患者群は、乳がん治療の内容により、①手術+内分泌療法、②手術のみの2群を対象として行う方針とした。既に①が18名、②が8名エントリーしており、各群15~20名程度を目指して今後も継続して患者群のリクルートしていく予定である。更に、健常対照群の6か月後のデータ収集も行う予定である。 乳がん患者群を絞り込むことで、効率的に研究計画を推進することが見込まれ、平成25年度中に、各群15~20名のデータが収集できる見込みである。これら研究計画の前倒しに伴い、平成25年度中には、乳がん患者を対象とした認知リハビリテーション介入のパイロット研究を開始できる見込みである。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、継続的に乳がん患者群をエントリーし、各群15名以上を目指しデータ収集を続ける。また、平成24年度末に収集した健常対照群の6か月後の追跡データも収集する。 各群10名以上集まった時点で予備的な解析を開始する。群ごとに0カ月、1週、6カ月の3点での認知機能、脳画像データ、心理データの変化率を算出し、内分泌療法、手術による認知機能障害への影響を評価する。具体的には、認知機能障害を独立変数とし、脳画像データ・心理データを従属変数とした重回帰分析を行い、認知機能障害を来たす諸因子を特定する。更に、認知機能障害の発症機序モデルに各データを織り込みパス解析を行い、モデルの妥当性の検証も行う。 更に、認知リハビリテーション介入のパイロット研究の準備を進める。認知リハビリテーション介入プログラムとして、簡便性、汎用性を考え市販されている、『ニンテンドウ3DSLL』と『ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング(鬼トレ)』を用いた作業記憶トレーニングを採用する。準備段階として、数名の乳がん患者に対して鬼トレを施行し、患者群において、継続可能な介入期間、課題の選定、コントロール課題の選定を行う。 最終的には、認知機能の低下が認められた乳がん患者約30名を抽出し、被験者プロフィールなどを統制した上で2群に分け、クロスオーバーデザインによる認知リハビリテーション介入を行う。介入前後の評価系は前年度まで用いたものと同様の検査バッテリーを用い、認知リハビリテーションによる認知機能、脳機能・形態変化の回復を評価する。認知リハビリテーションにより、前頭頭頂ネットワークに関連する認知機能の改善が見込まれる。 これらデータおよび解析結果は、データ管理用ノートPCで管理し、外付けHDDに保管する。また、これら研究結果を、国内外の学会および学術雑誌にて発表を行う。
|
Research Products
(1 results)
-
[Presentation] 乳癌患者における術後認知機能障害の神経基盤の検討2013
Author(s)
佐藤千穂, 関口敦, 事崎由佳, 野内類, 竹内光, 瀧靖之, 河合賢朗, 多田寛, 石田孝宣, 川島隆太, 大内憲明
Organizer
第113回日本外科学会定期学術集会
Place of Presentation
福岡
Year and Date
20130411-20130413