2013 Fiscal Year Research-status Report
迅速骨結合性、高強度骨結合性、歯肉上皮接着性を併せ持つチタンインプラントの創製
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24792122
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山添 淳一 九州大学, 歯学研究科(研究院), 共同研究員 (30452717)
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Keywords | 水熱カルシウム処理 / チタン / 間葉系幹細胞 |
Research Abstract |
インプラント治療における長期経過後の臨床トラブルは、咬合や清掃など臨床的な原因かインプラント治療の技術的限界として不可避な問題とされ、研究の対象とはなってこなかった。しかし我々は、インプラント周囲で生じるトラブルの多くが、インプラント周囲で起こる慢性的な炎症に基づくと考え、その予防方法を見つけることとした。本実験ではインプラント周囲へのMSCの予防的投与である。また投与されるMSCはチタン上をNicheとして培養され、チタンの存在する環境を「正常」と教育されたものである。このような方法はMSC研究の最前線でこそ生まれる概念であると考え、またその単純さから達成も容易であると考える。 現段階ではin vitroにてチタンをNicheとしそこで教育されたMSCを作製。さらにin vivoでインプラント周囲での組織安定性を図ろうとするものであり、実際にその段階には到達している。すなわちラット大腿骨骨髄から採取した骨髄細胞からチタン上でMSCを選択的に培養、それをラット口腔内へのインプラント埋入時または埋入後に添加するものである。そして実験の最終段階としてはインプラント周囲における軟組織および硬組織の慢性炎症の消失と、動物実験でも6割以上生じるインプラント周囲上皮深部増殖の抑制を組織形態的かつ生化学的に評価することにある。現在はその段階を行っており、残り1年で結果が出ると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は歯科インプラントの口腔内での長期維持のため、インプラント周囲における上皮封鎖性の向上を目指す。ただしその方法は従来のような生体親和性の高い材料の開発ではなく、インプラント周囲組織からの親和性、「チタン親和性」組織の誘導である。すなわち通常は異物として認識されうるチタン製インプラントを、幹細胞の初期培養環境の一部とすることで、幹細胞にインプラント自体を生体の一部と認識させる。このような応用法は免疫干渉能を持ち、細胞微小環境を形成する間葉系幹細胞(MSC)を用いてのみ出来るものである。さらにこの治療法は概念としての独創性だけで手技的には簡易であり、歯科だけでなく人工物を使用するすべての医療にも応用可能な技術と考えられ,将来的には幅広い分野への貢献を期待する。 現段階では材料に水熱カルシウム処理の有効性を十分に示し、現在論文を作製中である。また共同演者として国内外の学会発表のサポートも行った。
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Strategy for Future Research Activity |
現在インプラント治療は歯の欠損部を補填する優れた治療法として広く歯科医療に応用されている。しかしその成功率は非常に高いものの、治療後数年でインプラント脱落、炎症,退縮などの症状が生じる可能性は未だに高い。このような長期経過後の臨床的トラブルはインプラント周囲における軟組織が深く関係していると考えられる。インプラント周囲軟組織は治療の長期予後を左右する重要な要素として数多く議論されている(Welander 2007等)。 また間葉系幹細胞(MSC)は組織再生を促す切り札として急速に研究が進められている。自己免疫疾患のように過剰な免疫作用や癌や皮膚の瘢痕化のような過剰な細胞増殖を「正常」な状態に戻す細胞レベルでの制御能力を有する。いわゆるMSCによる細胞治療であり、薬物治療のような副作用もない万能に近い理想の治療法として注目されている。これらMSCによる治療は未だ研究段階ではあるが、すでに臨床応用でも大きな成果を挙げている(Miura 2007)。また2010年ロサンゼルスで開催された国際幹細胞学会(ISSCR)でも、その演題数から再生治療に並び細胞治療への関心の高さが示された。 その中にあって、次なるステップとして本研究では動物実験までを到達目標とする。後述する「チタン上Niche」で教育されたMSCを、インプラントモデルラットに注入し、インプラント周囲の組織変化を長期間観察・評価する。その詳細については研究計画・方法の項にて記載するが、使用するMSCも骨髄や歯肉由来を用い、より有効なものを検索する。この結果をもって大動物、臨床への基礎データとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度までと同様の手技を用い上記条件で実験を行う。 現在MSCによる細胞治療は世界的に注目され、実際良好な治療結果を掲げる論文も多数報告されている。そのため予想以上に研究の幅が広がり研究をもう1年行う必要が生じた。 「チタン周囲Niche」に適したMSCとして長幹骨骨髄、粘膜だけでなく顎骨骨髄、歯肉や膵臓などからも採取し評価する必要がある。各MSCでその働きが異なるからであり最適なものを検索する。投与する細胞濃度や投与回数などの条件にも検索が必要であろう。また前年度の実験内容で修正可能な部位が見つかれば、随時方法を改善しデータの蓄積を行う。先にも述べたとおり本実験の最終目標はヒトへの臨床応用である。そのためヒトMSCなどの使用も検討する。
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