2012 Fiscal Year Annual Research Report
『日記』から読み解くゴンクール兄弟における衣服と織物の表象研究
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24820045
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
高井 奈緒 日本女子大学, 人間社会学部, 講師 (50631975)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | フランス文学 / 服飾 / 絵画 / ゴンクール兄弟 / 日記 / 小説 / 描写 / 19世紀 |
Research Abstract |
平成24年度は、ゴンクール兄弟の小説から衣服に関する記述を抽出し、それらの記述を、男性の衣服に関する記述、女性の衣服に関する記述、さらに階層別、衣服の種類別に分類し、それらの記述に一貫した価値判断やコノテーションを読み取ることができるかどうかを考察した。 結果として、『日記』においても記述の多かった衣服(特に黒服、フランネルのベスト、白ネクタイ、チュールなど)が、小説の中でも同様に何度も喚起されていることが明らかになった。このことによって、『日記』と小説には衣服の記述においても綿密な相関関係があること、及び、特定の衣服に対して、『シャルル・ドゥマイー』から最後の小説『シェリ』まで、ゴンクール兄弟が小説の中でも一貫してある意味を与え続けていたことが分かったことに大きな意義があった(研究の第2部)。 また、海外調査として、1月にパリで開催されていた『印象派とモード』展と『Fashioning Fashion』展、2月末から3月にかけてはリヨン織物装飾芸術博物館とロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館を訪れ、18、19世紀の衣装を実際に目にすると同時に、モードの変遷についても理解を深めることができた。このことは、布地に敏感で、18世紀以降のモードと衣装に深い知識と興味を持っていたゴンクール兄弟の感性を理解するのに大いに役立った。パリではフォルネー図書館及びフランス国立図書館にて19世紀のモード雑誌の閲覧をはじめ、その他衣装に関する資料の収集を行い、リヨン織物装飾芸術博物館でも同様に衣装に関する資料を収集することができた(研究の第1部)。 平成24年度の研究成果はまだ発表には至ってないが、平成25年度中に2度フランスで学会発表を予定している。また論文としても、平成25年度中にさらに進める考察を踏まえて成果をまとめたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究計画はおおむね順調に進展している。特に、ゴンクール兄弟の小説から衣服に関する記述のある個所については一度すべて抽出することができた点において、順調に進展しているといえる。これは、少しずつ小説を読み進める計画を立てたことが功を奏した。そしてこの作業から、『日記』の中で衣装に関する記述について以前抽出した際に特に繰り返しが多かった「黒服」「白ネクタイ」「フランネルのベスト」「チュール」に関して、小説にも多く類似した記述があることが明らかになり、これは本研究の仮定を裏付けるものであった。そして、「黒服」「白ネクタイ」「フランネルのベスト」についてはいずれもブルジョワの凡庸さを表す記号として用いられているのではないかという考えに至ったが、さらなる慎重な検討が必要であるため、結論づけることは現在保留にしている。その他「チュール」などの衣服にゴンクール兄弟が与えた意味についても、平成25年度に本格的に行う服飾史と『日記』や小説との関連の研究で読み解くことが必要であろう(研究の第2部)。 服飾史については平成24年度中に少し取り掛かり始めることができた。これもほぼ予定通りである。特に、パリ、リヨン及びロンドンで18、19世紀の衣装を実際に目にすることができ、そして資料調査でモード雑誌を閲覧したことによって理解を深めることができた。モード雑誌の閲覧においては、とりわけ「エステティック・ドレス」に関して記述があるかどうか、エドモン・ド・ゴンクールがフランスにおけるこのドレスの流行について言及している1885~1894年に、フランスで発行されたモード雑誌を中心に調査をおこなったが、これまではその痕跡を発見することができなかった。これについては、引き続き平成25年度も調査を行いたい(研究の第1部)。 全体としては、平成24年度の達成度は80パーセントといえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度も、計画通り研究を推進する予定である。上記の「黒服」「白ネクタイ」「フランネルのベスト」「チュール」に関して服飾史ではどのような記述があるかを調査し、そのうえで、ゴンクール兄弟によるこれらの衣服に対する意味づけの特性を判断する。 7月頃からは研究の最後の第3部にとりかかる。ここでは、親しく付き合っていたモードや衣装をよく描いていた画家たち(ガヴァルニ、ラファエッリ、ド・ニッティス、ラ・ガンダラ)から、ゴンクール兄弟が衣装を愛好したり、描いたりする上でどのような影響を受けていたかを、これらの画家について書かれた本や、彼らの絵画作品、そしてゴンクール兄弟の衣装の描写から明らかにする。次に、ゴンクール兄弟が、鑑賞した絵画の衣服を想起しながら『日記』でその描写を行う場合の特徴について、『日記』と実際の絵画作品を比較しながら考察を行い、さらに『日記』の中で実際に目にした衣服や織物を絵具のようにして描写する場合、そこにどのような特徴があるのかを明らかにする。最後に、晩年兄のエドモンがこだわっていた室内装飾において、織物が果たしていた役割を、『日記』や小説の記述から明らかにする。 平成25年度は、9月と2月にパリのフォルネー図書館とガリエラ美術館付属図書館において、19世紀のモード雑誌およびモードに関する書籍を閲覧し、特に、フランスでの「エステティック・ドレス」の流行について記述がないかを引き続き調査する。9月は、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の付属図書館においても「エステティック・ドレス」の他国への影響について調査をおこなう。ガリエラ美術館付属図書館とヴィクトリア・アンド・アルバート博物館付属図書館では、研究員に直接話を聞く機会も持ちたいと考えている。 このようにして、ゴンクール兄弟にとって、衣服や織物とは何を意味していたのか、最終的に結論を出したいと考えている。
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Research Products
(2 results)