2012 Fiscal Year Annual Research Report
アンドレ・ブルトンの美術論とアルバレス・ブラボの写真の相互影響について
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24820063
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
長谷川 晶子 京都産業大学, 外国語学部, 助教 (20633291)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | アンドレ・ブルトン / シュルレアリスム / メキシコ / 美術論 / アルバレス・ブラボ |
Research Abstract |
本研究は、フランスの美術批評家アンドレ・ブルトンとメキシコの写真家アルバレス・ブラボの1938年から40年の交流をとりあげ、この交流が両者の創作活動に及ぼした審美的影響を確定することを目指す。この目標を達成するために、今年度はアンドレ・ブルトンのメキシコ論における超現実と「プリミティフ」という語の用法の解明を行った。 「メキシコの思い出」をはじめとするブルトンのメキシコに関する5つのテクスト分析によって、ブルトンが地理的にも文化的にもヨーロッパから離れたこの土地を描写する際に、「光と闇=生と死」という二項対立の原理を軸として彼が超現実と呼ぶものを表現したことを解明した。写真と切り離せないこの光と闇という二項対立は、アメリカの写真家マン・レイの仕事を評価する際も用いられていたが、マン・レイ論ではオブジェを作り出すのに有効な手段として捉えられていた光と闇が、ブラボ論においては、メキシコという土地の性質を表す生と死と結びつけられる。ここから、ブルトンがブラボをメキシコの本質を捉えた写真家とみなしていたことが明らかになった。 つづいて、ブルトンの先史芸術論を通じて「プリミティフ」とは何かを考察した。メキシコ滞在以前は非西洋世界を「プリミティフ」と形容することを避けていたブルトンは、メキシコについて初めてこの語を用いた。メキシコで出会った風景や作品は彼の自然観とその表現方法に変化を及ぼした。厳しい「他者」としての自然が表現されるようになった。ブルトンにおいて「他者」でもあると同時に「祖先」でもある先史芸術論を分析し、メキシコ展の「序文」における「プリミティフ」の用法との違いを明らかにした。ブルトンの先史芸術論における芸術の誕生に関する研究の成果は「バタイユとブルトン―イメージと芸術の誕生をめぐるふたつの思考」と題する論文でまとめた(2013年夏に刊行される『水声通信』に収録の予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アンドレ・ブルトンとアルバレス・ブラボの邂逅が両者の創作活動に及ぼした影響を画定することを目指す本研究は、(1)アンドレ・ブルトンのメキシコ論の分析と資料収集(2)アンドレ・ブルトンとアルバレス・ブラボの交流に関する調査(3)アルバレス・ブラボのメキシコの写真の分析と資料収集の三部から成る。 今年度は、(1)アンドレ・ブルトンのメキシコ論の分析を手掛け、ブルトンがメキシコについて執筆したテクストの読解作品の分析と、ブルトンにとって芸術の価値とは何かを解明する研究を行った。平行して、(2)アンドレ・ブルトンとアルバレス・ブラボの交流に関する調査(3)アルバレス・ブラボのメキシコの写真の分析と資料収集に関連する資料収集(ブラボの人生と写真作品に関する資料、ブラボの暮らしたオアハカの文化や歴史に関する資料、ブルトンの訪れた場所に関する資料、ブルトンがメキシコで目にしたと考えられる作品や〈メキシコ展〉に展示された作品のリスト作り)を計画的に行い、次年度の実地調査の準備を整えた。 初年度はブルトンの作品の分析と書簡や展覧会資料の調査を行い、第二年度は1938年から40年のブルトンとブラボ両者の創造活動と交際に関する調査を行ったのち、ブラボの作品の分析を行うという当初の予定通りに進行している。ただし、今年度は、テクスト分析に十分な時間を割いたため、パリにてメキシコ展に関する資料収集と調査を行うことができなかった。そのため来年度の12月頃に渡仏し、必要な資料を手に入れる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成25年度では、平成24年度に行った(1)アンドレ・ブルトンのメキシコ論の分析と資料収集の研究成果を踏まえて、(2)アンドレ・ブルトンとアルバレス・ブラボの交流に関する調査(3)アルバレス・ブラボのメキシコの写真の分析と資料収集を行う。 (2)アンドレ・ブルトンとアルバレス・ブラボの交流に関する調査:ブルトンがメキシコに滞在した半年間の活動と同時期のブラボの創作活動を再構成するために、1940年にメキシコ芸術画廊で行われた〈シュルレアリスム国際展〉の資料、二人の友人の伝記や証言、彼らが応じた新聞や雑誌のインタビューと講演の記録を、メキシコのアルバレス・ブラボ写真センターや国立図書館、中央図書館やアメリカ議会図書館で入手する。またポポカテペトル火山をはじめブルトンの訪れた土地、半年間暮らしていたサン・アンヘルとメキシコ市に関する調査も同時に行う。メキシコにおける実地調査の結果を(1)とあわせて論文を執筆し、所属研究機関の紀要『京都産業大学論集』に投稿する。 (3)アルバレス・ブラボのメキシコの写真の分析と資料収集:ブルトンが近代メキシコ芸術のなかで高く評価したのはアルバレス・ブラボと女流画家フリーダ・カーロである。ブルトンのテクストとブラボの写真の関係をメキシコの自然の「記録」という観点から分析し、それぞれの表現方法の差異に留意しながら、ブラボの写真における対象の切りとり方や白黒のコントラストの効果をブルトンがどのように評価し、そして彼のテクストの自然観にどのような変化がもたらされたのかを論じる。その後、ブラボの20年代と30年代の写真分析をつうじて、技法、モティーフ、構図の変化を解明し、ブラボのキャリアのなかでシュルレアリスム的手法の果たした役割を確認する。この研究結果に関する学術論文を学術誌(『水声通信』など)に投稿する。
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Research Products
(1 results)