2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24820066
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Research Institution | Osaka University of Arts |
Principal Investigator |
多田 純一 大阪芸術大学, 人文社会系研究科, 助手 (90635278)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 澤田柳吉 / 洋楽受容 / ピアニスト / ピアノ / 調和楽 |
Research Abstract |
平成24年度の研究計画は主に4つの柱を提示していた。以下に各件ごとの進捗状況を示す。 1.諸機関における澤田柳吉に関する出版楽譜の所蔵状況調査については、概ねその全容を把握することができ、申請時に判明していた16件のうち1件の除いて入手することができた。資料の入手については澤田の遺族から多くの協力を得ている。 2.明治学院大学付属日本近代音楽館所蔵の澤田柳吉に関する自筆資料の調査については、現在整理中の資料を特別許可にて閲覧している状況である。そのため様々な制約があり、綿密な調査には至っていない。所蔵資料の作品名、演奏形態については明確にすることができたが、さらに詳細な手稿譜のエディション研究には時間を要すると思われる。所蔵資料の一覧表を公開することについても許可されていない。 3.雑誌記事に見られる澤田柳吉に関する記述の収集およびデータ整理については、申請段階で調査が必要であった資料のうち『月刊楽譜』および『音楽新潮』の調査を終えた。また、澤田の遺族所蔵のアルバムには、澤田の死亡時期に発行された雑誌の切り抜きが集められており、このアルバムからも多くを知ることができた。 4.関西における澤田柳吉の音楽活動に関する記述の収集およびデータ整理については、大阪音楽大学音楽博物館所蔵のデータファイルより多くの情報を抽出することができた。またクリストファ・N・野澤氏および毛利眞人氏の協力により澤田が録音したSPレコードのうちソロ作品についてはすべての音源を入手することができた。大阪市立盲学校における音楽教育については大阪市立視覚特別支援学校所蔵の資料についての調査を行う予定であるが、今後の課題である。関西以外では台湾における音楽活動について現地調査を行い、明治42年から43年の1年間のみの滞在であったことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象である澤田柳吉の遺族と連絡が取れたことにより、図書館や博物館などの機関で入手することが不可能な資料を入手することができ、協力的な状況の中でインタビューも行っている。出版譜や澤田家に伝わるアルバム、澤田が所有していた楽譜などの貴重資料についても調査を終えており、予想以上の進展を見せている。また、台湾における音楽活動について現地調査を行い、明治42年から43年の間に台湾総督府国語学校および台湾総督府中学校にて音楽教育を行っていたことが明らかになった。このことにより、澤田の音楽活動の不明な1年間が埋められたことは重要な成果である。さらに東京藝術大学所蔵の東京音楽学校公文書資料の閲覧を許可されたことにより、澤田が東京音楽学校時代にどの教員にピアノを習い、どのような評価を受けていたのかを明らかにすることができた。 【研究実績の概要】に示した4点についてはおおむね順調に進展し、資料収集は進んでいる。明治学院大学付属日本近代音楽館所蔵の澤田柳吉に関する自筆資料の調査については、おおむねその実態が明らかになったものの、様々な制約から研究が進展しない。研究計画では平成24年度に資料の調査を行い、平成25年度には具体的な考察を行う予定であったが、計画通りには進展しないと思われる。ただし、この自筆資料を調査したことにより、澤田は楽譜としての出版だけでなく、自動ピアノのピアノロールを作成するための調和楽編曲を積極的に行っていたことが明らかになった。現在ピアノロールの所蔵を調査中であるが、秋田県立博物館および広瀬川美術館に所蔵されていることが明らかになった。いずれも現地調査を終えている。 研究成果については例年ワルシャワで行われるショパン国際学会にて研究発表することを目標としていたが、2012年は財政難のために一般公募が行われずポーランド人のみにて行われた。本年度の開催についても不明である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究計画は、1.澤田柳吉の音楽活動における作曲活動と楽譜出版の位置づけの考察、2.明治学院大学付属日本近代音楽館所蔵の澤田柳吉に関する自筆資料の調査および考察、3.雑誌記事に見られる澤田柳吉に関する記述の収集およびデータ整理の継続と分析、4.関西における澤田柳吉の音楽活動に関する記述の分析、5.東洋汽船音楽部における海外航路での活動の調査、の5つの柱を中心としていた。しかしながら前述のとおり、2.明治学院大学付属日本近代音楽館所蔵の澤田柳吉に関する自筆資料の調査および考察については続行が困難な状況である。そのため、エディション研究として行うのではなく自動ピアノのピアノロールの作製とその意義を考察する方針で進めたい。4.関西における澤田柳吉の音楽活動に関する記述の分析については不明な点が多く、調査を継続する。5.東洋汽船音楽部における海外航路での活動の調査については、澤田は大正2年に計4回渡米した記録を確認した。その4回の渡米にて現地で演奏会を行った可能性については現在調査中である。舞踊家の高木徳子についての研究では、現地で高木と澤田が知り合ったという記述もある。今後も調査を継続し、演奏会を行っているのであればその内容と現地における評価を考察する。 上記に加え、東京藝術大学所蔵の東京音楽学校公文書資料についてはさらに調査の必要がある。平成24年度の調査において澤田の遺族に加え、同窓生である久野ひさの遺族からも資料の使用許可を得ることができた。このことにより閲覧した資料を研究に使用することができるようになっており、同時の東京音楽学校で具体的にどのような教育が行われていたのかについても調査したいと考えている。 また、本年度は最終年度となるためアウトリーチ活動も積極的に行いたい。現時点では澤田が出版した声楽作品についてレクチャーコンサートを行う予定である。
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Research Products
(2 results)