2012 Fiscal Year Annual Research Report
中国の「世界の工場」時代は終わるのか?―沿海部産業集積の定量定性分析
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24830024
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 亜聖 東京大学, 社会科学研究所, 助教 (60636885)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 中国経済 / 産業 / 空間 / 産業移転 / 中国 / 華南 |
Research Abstract |
平成24年度の研究では中国製造業をミクロな産業組織とマクロな産業立地の両面から分析を加えた。研究の背景にあるのは、2000年代に「世界の工場」と呼ばれた中国が、急速な賃金上昇によってこれまでの低コスト優位性を失いつつあるという仮説である。2000年代の中国産業の競争力とその持続性にアプローチすることが本研究の目的である。 研究計画では、中国沿海部での定性調査、データ整理、政策動向の整理を行うとしたが、おおむね計画通りの進捗を得られた。主要な研究成果は、定性調査を基にした論文1本、統計データと政策動向を盛り込んだ論文を2本執筆したことであり、これらの研究成果は合計3回の国際学会報告を行うことで、専門家からのチェックとコメントを得ることができた。 具体的には、下記2点が新たな知見として挙げられる。①マクロ産業データを用いた立地分析の結果、中国産業は、2004年から2010年にかけて、沿海部から中西部へとマクロな立地が変化しており、その要因は産業ごとの資本労働比率、賃金の影響を受けている。同時に沿海部をはじめとして、既存の産業が規模的に集中立地している地域では、正の集積の経済性も観察された。すなわち、中国国内で産業立地の再編と高度化が同時に観察された。②ミクロな現地調査による産業集積の分析結果、近年の環境変化の前で、当該産業が既存のオープンな取引構造での競争力を発揮しつつ、近隣地域に立地を拡張させ、またより高付加価値な新製品の開発や中間財の導入といった取り組みを行っていることが確認された。確かに賃金上昇は現地企業に大きなコスト圧力を与えているが、同時に一部工程の機械化の推進や、国内市場の開拓により産地として成長を続けている事例が確認された。 上記の成果の重要性は、2000年代の「世界の工場」中国がその内部で立地と産業構造を変化させつつあることを提示している点にあると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画である①定性調査、②データ整理、③政策動向の整理を実現できたため、おおむね順調だと考えられる。 定性調査については、中国広東省の2か所の産業集積で、現地政府、企業関係者からの聞き取りを行うことができた。データ整理については、産業レベルのデータをもちいた記述統計の整理と計量モデル推計による結果を得た。またミクロデータについてデータのクリーニング・結合と記述データの整理を行うことができた。政策動向の整理については、中国の中央及び地方政府発布の政策文書にさかのぼってリストアップを行うことができた。これらの作業により、本研究の目的である中国製造業の近年の立地変化と企業パフォーマンス、そして政策動向に接近することができたため、おおむね計画通りに進捗していると評価することができる。なお、産業データのモデル推計ができた点では一部計画よりも進んだ面もある。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度から継続し後述する三方面での実証研究を進める。 第一に、現地調査については沿海部産業が移転する国内での受け入れ地域である中部地域での現地調査を行う。これまで実施してきた沿海部での調査は補助的に実施する。現地調査では、地域産業の形成のプロセス、取引関係、主導企業の有無、沿海部からの企業移転の有無などを聞き取りの主な課題とする。 第二に、定量分析については前年までで整理したデータを活用し、産業移転の要因や企業レベルのパフォーマンスを分析する。具体的にはまず産業レベルのデータを用いて、地域間での生産額シェアの変化要因を分析する。また同時に、企業レベルのデータを用いることで、より詳細なミクロレベルでのパフォーマンスの向上や変化がどのように生じているか分析する。中国の企業レベルデータについては、企業レベルのデータ継続性の問題からパネルデータを構築することが難しいため、主にクロスセクションの分析を行う。 第三に「世界の工場」説に関する研究レビューを行う。第一と第二の点については、前年度からの研究の延長線上にあり、すでに一部分析結果が得られている一方、第三の点については、初年度の研究の結果、新たに検討が必要な課題だと判明したために追加的に実施する。特に「世界の工場」時代が終わるという見方と同時に、更に産業の高度化を実現しつつあるという意味で「世界の工場2.0」説も登場しており、2000年代の研究動向をレビューすることの意義は大きい。 また本研究課題の最終年度であるため、研究成果のアウトプットにも力を入れる。すでに研究結果の一部は学会誌に投稿しており、更に学会発表と論文の形式で、また多言語(英語、日本語、中国語)で成果公表を行う。
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Research Products
(10 results)