2012 Fiscal Year Annual Research Report
両眼立体視の個人差―左右眼間距離と学習の影響についての検討
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24830079
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
田谷 修一郎 大正大学, 人間学部, 講師 (80401933)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 両眼立体視 / 個人差 / 両眼間距離 / 両眼網膜像差 / 絵画的手がかり / 手がかり統合 / 知覚学習 / 視覚情報処理 |
Research Abstract |
両眼網膜像差(右眼と左眼の網膜像のわずかなズレ。以下、網膜像差)は,2次元網膜像から外界の3次元構造(奥行き)を復元するための強力な情報源(手がかり)であるが,奥行き知覚における網膜像差の寄与率(重み付け)には個人間で大きなばらつきがあることが知られる。本研究の目的はこの重み付けの個人差が何に起因するのか明らかにすることである。 本研究では,重み付けの個人差を生み出す先天的要因として両眼間距離に着目し,その重み付けに及ぼす影響を検討する。さらに後天的要因として学習による重み付けの変化とその持続期間を検討する。 本年度の研究成果は次の3点に要約できる。(1) 奥行き情報の重み付けに個人差のあることが確認された。(2) 個人差の分布は3次元空間における刺激平面の傾き方向に影響を受けることが示された(異方性)。(3) ステレオグラムを繰り返し観察することによる重み付けの学習効果は持続せず,後天的要因では個人差を説明できない可能性が示唆された。以下詳細を示す。 実験では,網膜像差と線遠近法手がかりを用いて3次元傾斜をシミュレートしたステレオグラム平面を視覚刺激とし,これらふたつの奥行き情報に対する重み付けを,健常な立体視力を有する19名の被験者について計測した。この結果,網膜像差に割り当てられる重み(信頼性)に個人間で大きな違いがあることが示された。また,水平軸周りの傾斜面と垂直軸周りの傾斜面では,前者の傾きを見積もる時の方が網膜像差に割り当てられる重みが小さくなることがわかった。 さらに,網膜像差の信頼性が高くなるように画像を操作したステレオグラムを繰り返し観察すると(学習),学習の直後に網膜像差に割り当てられる重みが上昇することが示された。しかしこの学習効果は長期間持続せず,学習が終了してから24時間後に重み付けは学習前の水準に戻ることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
視知覚の個人差を生み出すメカニズムを明らかにすることを目的とする本研究では,数多くのサンプルを得ることが必要である。現在までに19名のデータを得ているが,個人差のメカニズムを検討するためにはまだサンプル数が十分ではないと考えられる。 計画の進行がやや遅れている理由として,これまで本学に知覚心理系の研究室が無かったため,実験のための環境を構築し,一定数の被験者を集めるために予想以上に時間がかかったこと,および本学科の建物改修工事のため実験室の確保に時間がかかったことがあげられる。 一方で学習の影響の検討についてはほぼ計画通りに進行している。また,手がかり重み付け分布の異方性という,視知覚研究の文脈において重要かつ新規性のある知見も得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の検討対象である重み付け個人差の発現には様々な要因が関わっていると予測され,そうした多数の要因から両眼間距離の影響を抽出するためには多くのサンプルが必要であると考えられる。このため今後はコンスタントに一定数の被験者を確保できるように,ウェブサイトを利用して被験者募集・実験スケジュールの管理を行える仕組みを構築し,より効率的に被験者を集め,計画を遂行できるよう工夫する。 本年度の実験に参加した被験者は全員健常な立体視力を有していた(網膜像差を利用してステレオグラム平面の傾きを知覚することができた)。しかし立体視力の精度(どれくらい小さな網膜像差から奥行きを知覚できるか)と両眼間距離の関係はまだ不明である。このふたつの指標の間の相関,および立体視力と網膜像差に対する重み付けの間の相関についても検討を行う。 また,本年度の実験結果により,学習効果は長期間持続しないことが示唆されたが,その原因として学習フェーズが短かったことが考えられる。日常生活における重み付けの学習は,日々の視覚経験の積み重ねによって成立するものなのかもしれない。一定期間持続的に学習を続けることにより学習効果が定着するかどうか,引き続き検討を行う。 なお,本年度の結果から,ステレオグラム平面の回転軸の方向が網膜像差に対する重み付けの個人差の分布に影響することが示された。今後はこの異方性も考慮に入れて検討を行っていく必要があると考えられる。
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Research Products
(6 results)