2012 Fiscal Year Annual Research Report
希土類化合物における新奇な量子臨界現象と幾何学的フラストレーションの研究
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24840003
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
壁谷 典幸 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70633642)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 量子臨界現象 / フラストレーション / 強相関電子系 / 希土類化合物 / 圧力下物性測定 / 元素置換系 |
Research Abstract |
平成24年度における研究によって、次の項目を達成した。1.Yb2Pd2Sn及びYb2(Pd1Ni1-x)2Snの単結晶試料の育成、2.Yb2Pd2Snの圧力下における量子臨界点近傍への到達、3.ヘリウム3温度域での比熱測定装置の開発 以下に具体的な内容を記す。 【1.Yb2Pd2Sn及びYb2(Pd1Ni1-x)2Snの単結晶試料の育成】Yb2Pd2Snのパラジウム原子をイオン半径の小さいニッケル原子で一部置換することにより、格子定数が減少し磁性が発現する。本年度における研究では、ニッケルの置換量5%及び8%の試料を育成し、試料評価を行った。 【2.Yb2Pd2Snの圧力下における量子臨界点近傍への到達】上で述べた元素置換による格子定数の制御とは別のアプローチとして、圧力印加による格子定数の制御を行った。ピストンシリンダー型圧力セルを用いて1GPa程度の圧力印加を行ったところ、約40mKの極低温において磁性の発現と考えられる異常を見出した。これは目的としていた量子臨界点のごく近傍へ到達出来たことを意味する。今後は量子臨界点を特徴付ける揺らぎの情報を得るために電気抵抗及び磁化測定などの物性測定を行う予定である。 【3.ヘリウム3温度域での比熱測定装置の開発】 比熱はエントロピーと結びつけられ、物質の秩序と密接に関係した物理量である。本研究においては絶対零度近傍における秩序及び揺らぎに注目する必要があり、高精度な比熱測定は必要不可欠な手段である。今年度の研究ではヘリウム3冷凍機を用いた比熱測定装置の開発を行い、参照物質を使った評価を行った。その結果、零磁場下において0.5Kから室温までの比熱測定が可能となった。今後はこの装置を改良し、17Tまでの磁場中における測定を可能とする計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度における研究計画は次の項目であった。1.純良単結晶育成方法の確立、2.圧力下における多種輸送特性同時測定技術の確立。これらの項目に対してはかなりの進展が見られた。これらに加え、3.ヘリウム3温度域での比熱測定装置の開発を行うことが出来た。よって本年度における研究は当初の計画以上に進展したと評価できる。 以下に具体的な達成項目を示す。 【1.純良単結晶育成方法の確立】Yb2Pd2Snの試料育成を行い、単相の単結晶を得ることに成功した。また、パラジウム原子をニッケル原子で一部置換した試料を複数作成を行った。X線を用いた格子定数の評価を行い、期待通り格子定数が減少していることを見出した。 【2.圧力下における多種輸送特性同時測定技術の確立】圧力下おいては実験の種類が制限される他、物性測定そのものが難しくなる。そのため、一旦圧力を適切にチューニングした状態で複数の実験を行えることが望ましい。本研究では、電気抵抗及び熱起電力の同一セットアップ測定の開発を行っており、本年度の研究においては熱電対の校正装置の開発を行った。また、圧力下で比熱を測定するための交流法比熱測定装置の開発も推進した。 【3.ヘリウム3温度域での比熱測定装置の開発】本年度当初の研究計画を超えて、比熱測定装置の開発を行うことが出来た。現時点で0.5Kから室温までの試料の比熱を測定すること可能である。開発した比熱測定装置を用いることで、Yb2Pd2Snのニッケル置換試料における量子臨界点の臨界現象に迫る研究がよりいっそう推進すると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度における研究の推進方策は以下の通りである。1.Yb2Pd2Sn基底状態の解明、2.量子臨界点へのアプローチ。以下に具体的な方策を示す。 【 基底状態の解明 】 物質の基底状態を明らかとするためには、磁化、比熱などの基本的な熱力学的な物理量の測定が不可欠である。Yb2Pd2Snにおいては、常圧で非フェルミ液体的振る舞いが観測され、また高圧相の非秩序相がどのような状態であるか分かっていない。本年度で作成に成功した単結晶試料及びそのニッケル置換試料を用いて、物性測定を行い、基本的な性質を明らかとする。具体的には本年度の研究で開発した輸送特性測定、比熱測定に加え、磁化測定を計画している。また本年度の研究から、ニッケル置換により格子定数が減少することを確認できたが、この効果が圧力と等価であるかは自明ではないため、Yb2Pd2Snの圧力下における物性測定も併せて行う。これに関しても、本研究の成果である圧力下輸送現象測定(電気抵抗、熱電能、ホール効果)を用い、加えて、交流磁化率測定を予定している。 【 量子臨界点へのアプローチ 】 本年度の研究から、Yb2Pd2Snにおける圧力下測定を行い、量子臨界点のごく近傍へ圧力をチューニングすることに成功した。この量子臨界点はイッテルビウム化合物で典型的に現れる量子臨界点と予想される。この圧力において電気抵抗測定などの物性測定を行い、この量子臨界点を特徴付ける揺らぎに関する情報を得る。さらに高圧力領域においては、もう一つの量子臨界点が現れるとの報告があるため、圧力とニッケル置換を併用することで、この量子臨界点への到達を試みる。高圧力を目指すほど試料空間は小さくなり実験は難しくなると予想されるため、必要な技術の開発も引き続き行う。こちらの量子臨界点近傍においても前者の量子臨界点と同様の測定を行い、これら2つの量子臨界点の特徴と起源に迫る。
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Research Products
(1 results)