2012 Fiscal Year Annual Research Report
高キュリー温度を持つ磁性半導体における磁性機構の解明とその制御
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24860014
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
秋山 了太 筑波大学, 数理物質系, 助教 (40633962)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 酸化膜 / 電界効果 / 磁性半導体 / カルコゲナイド / 磁性 / 界面効果 / 磁気異方性 |
Research Abstract |
本研究課題では高キュリー温度をもつ強磁性体について、その磁性の変調を意図してデバイスを作成し、評価を行った。磁性の変調は物性物理学的にも興味深く、現在盛んに行われている。強磁性体が半導体か金属かでその変調の機構は大きく異なる。半導体の場合は主に強磁性を媒介しているキャリアを制御することで、磁化が制御できることが示されている。また金属系の場合は、様々な機構が考えられるが、ひとつは界面における遷移金属の平均電子数を変化させることで磁化を変調させられると考えられている。 本課題では、まずは薄膜で垂直磁気異方性を持つCrTeにおいてデバイス作製と磁化制御を試した。作成したデバイスはn-GaAs基板/CdTe:I/CrTe/Al2IO3/Auという構造がベースであり、バッファ層上に成長したCrTe薄膜(数nm)の磁性をゲート電界によって制御することを計画した。Al2O3膜は自作のALD装置において製膜し、成膜条件の最適化などを行った結果、膜特性としては良好な絶縁性を示した。作成したMOSデバイスの評価としてはSQUID磁気測定装置を用いた。デバイスに電界を印加したまま磁化を測定することで直接的に磁化の変化を捉えることができる。磁場ー磁化測定を8K-130Kまでの範囲で行った結果、130Kに於いては負電圧0.5MV/cmの印加によって、2Tにおいて磁化が5%ほど増加することが分かった。CrTe膜の磁気異方性が変化した可能性、あるいはAl2O3との界面付近のCrの電子数の変化によってスピンの大きさが変わって変調を受けた可能性などが考えられるが詳細は現在解析中である。 今後、更にゲート電圧依存性や面内・面直に対してどのように磁化が変化を示すかを測定することで、磁化変調の起源に迫りたいと考えている。そして、よりTcの高い物質や新奇なスピン偏極物質においても同様の実験を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題開始から現在までに、達成している項目としては以下のとおりである。 1.CrTe超薄膜における強磁性発現のためのMBEにおけるヘテロ構造、膜厚、成長温度などの成長条件の最適化、及び発現する強磁性の磁性解析。2.CrTe超薄膜上におけるAl2O3などの絶縁膜の自作ALDを用いた成膜の最適化及び絶縁膜の絶縁破壊測定やC-V測定による物性解析。3.上部の金電極を薄くすることでAu膜内伝導性を確保しながら、なおかつMCD実験をするのに必要な反射光量の確保のためのAu蒸着技術開発。4.MOS型電界印加構造の作製。5.磁化測定装置(SQUID)を改造することで、試料に電界を印加しながら磁化を測定できるような環境を整備した。6.CrTe超薄膜に電界を印加しながら磁化を測定したところ、特に130Kにおいて0.5MV/cmの電界で2T下で5%ほどの磁化の増大を観測した。 これらから、おおむね計画通りの進展を見せていると考えられる。しかしながら磁化変調の起源がまだ不明確である点や、強磁性層を薄くして界面効果を際立たせることや、絶縁膜の選定・条件だし等による、より大きな変調のための工夫、強磁性材料の選定など課題も多く、今後更に加速的に集中して研究を進めていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針としては、常温で動作する新たなスピンデバイスの実現という目標のもと、よりTcの高い物質で室温近くにおいて電界効果によって磁化を制御したいと考えている。また、CrTe系において見られた磁化の変調の原因を、磁気異方性、ゲート電圧依存性、膜厚依存性などの系統的な測定によって明らかにしたいと考えている。そして、材料をCrTeに限らず色々と試行しながら最適な物質の探索、及び酸化膜など誘電体の探索、電界効果デバイスの構造の再構築など、更に大きな変調を得るにはどうしたら良いかを探って行きたい。展望としては、イオン液体とポリマーによる電気二重層を強磁性層の上に堆積し、大きな電界効果を利用して強磁性層の磁化を制御することが挙げられる。また、精緻な磁化測定のためにはボンディング・コンタクト技術を工夫する必要があり、微量な不純物も混入しておらず、さらに低温でも超伝導転移しない電極の選定、加工など、厳しい条件での材料の選定と測定への応用技術が必要である。また、制御する物質系を強磁性体に限定せず、表面において高移動度・スピン偏極の両方を実現するトポロジカル絶縁体なども、スピン偏極物質としての枠で捉え、積極的に導入したいと考えている。トポロジカル絶縁体の場合は、SQUIDによる磁化測定は適さないことから、代替手段によって変調を捉えることを考えている。
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