2012 Fiscal Year Annual Research Report
社会性昆虫クロオオアリを用いた巣仲間認識機構の神経科学的解析
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24870029
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
渡邉 英博 福岡大学, 理学部, 助教 (90535139)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 社会性昆虫 / クロオオアリ / 巣仲間識別 / 触角葉 / キノコ体 / 体表炭化水素 |
Research Abstract |
社会性昆虫は社会を形成するために、同巣・異巣の個体を識別し、育児や巣の防衛などの社会行動を行う。本研究の目的はこの巣仲間識別機構の神経基盤を明らかにすることである。本年度は当初の研究計画に従い、以下の研究を行い、予想以上の成果を得た。 第一に、クロオオアリを用い、巣仲間識別の鍵となる体表炭化水素を揮発させ、嗅覚刺激として提示するダミーシステムを確立した。従来の研究では、クロオオアリは触角で同巣、異巣の個体に接触することにより、巣特有の体表炭化水素のパターンを識別し、同巣の個体には社会行動、異巣の個体には攻撃行動を示す。しかしながら、今までの研究より体表炭化水素を受容する触角の錐状感覚子は接触化学感覚というよりは嗅覚情報を受容する嗅感覚子の形態学的特性を備えている事が分かった。そこで、私はクロオオアリの体表炭化水素を揮発させて提示する実験系(ダミーシステム)を確立し、実際に異巣の体表炭化水素の揮発物質を提示した場合に攻撃行動が誘発される事を明らかにした。この実験結果は巣仲間識別機構が嗅覚情報処理系の一部として組み込まれていることを強く示している。また、この実験系は感覚系や中枢系での巣仲間識別の神経基盤を探る電気生理学実験にそのまま応用することが可能である。 第二に、免疫組織染色法を用いて、巣仲間識別に重要とされる脳領域を多種の膜翅目昆虫で染色し、その形態や分布を比較した。その結果、巣仲間識別の一次中枢である、触角葉の特定の糸球体群は進化系統学的にスズメバチに代表される狩りハチ類で最初に生じたことが分かった。また、これらの領域は寄生性のハチや単独性のハチでは見られないという事が示唆されている。この結果は膜翅目昆虫の社会性の獲得と巣仲間認識機構が密接につながっていることを示唆している。この研究は本年度も継続して行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請研究はおおむね順調に進展しているといえる。本研究は実験準備から行ったため、平成24年度実験成果は、ほとんどが準備段階のものであり、論文の作成や学会発表には至っていない。しかしながら、24年度の研究成果より発展性のある実験系が確立したので、今後の研究は円滑に進めることができる。この研究成果を応用し、電気生理学実験や解剖学実験に組み合わせていくことによって、実験の目的である、巣仲間認識機構の神経基盤や社会性の獲得機構が分かっていくものと期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究成果を受け、本年度は以下の点に注目した研究を行う。 (1)ダミーシステムを用いた電気生理学実験。平成24年度の研究で確立したダミーシステムを用いることにより、巣仲間識別に関わる体表炭化水素を嗅覚刺激として提示することができるようになった。このダミーシステムと体表炭化水素受容に関わる錐状感覚子からの細胞外記録を組み合わせることにより、触角感覚系で体表炭化水素の情報がどのように受容されるのか、またどのように符号化されるのかを解析する。 (2)クロオオアリを用いた嗅覚学習系の確立とその神経基盤の解析。クロオオアリの一次嗅覚中枢である触角葉や高次中枢であるキノコ体では巣仲間認識に関わる領域と通常の匂い情報処理に関わる領域が完全に分離していることが形態学的に示唆されている。そこで、通常の匂い情報処理機構を解析するために、クロオオアリを用いて吻進展反射を指標とした、嗅覚学習系の確立を目指す。この実験系はダミーシステムと組み合わせることも可能であり、同一個体を用いて嗅覚に対する応答と体表炭化水素に対する応答を異なる行動を指標にモニターすることができる。このため、破壊実験や薬理学実験と組み合わせることにより、これら二つの脳内経路の相互作用や独立性が検証できる。 (3)膜翅目昆虫を用いた脳内巣仲間認識領域の進化過程の解析。平成24年度に引き続き、シナプシン抗体とセロトニン抗体を用いた免疫組織染色法により、膜翅目昆虫における脳内の巣仲間認識に関わる領域の進化過程を調べる。特に、注目するのはクロオオアリで発見した触角葉とキノコ体傘部の特定領域であり、巣仲間情報処理にかかわっていることが形態学的に強く示唆されている。これらの領域を可視化することにより、より体系的に膜翅目昆虫で巣仲間認識機構の進化過程を探る。 上記の研究より得られた成果は随時、学会や論文で報告する。
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Research Products
(7 results)