2015 Fiscal Year Annual Research Report
市民のニーズを反映する制度構築と政策形成の政治経済学
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25220501
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田中 愛治 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (40188280)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川出 良枝 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10265481)
古城 佳子 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30205398)
西澤 由隆 同志社大学, 法学部, 教授 (40218152)
齋藤 純一 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (60205648)
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Project Period (FY) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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Keywords | 世論調査 / 熟議型世論調査 / 討議型世論調査 / ミニ・パブリックス / CASI型世論調査 / Web調査 / 実験室実験 / 政治経済学実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、CASI世論調査を実施するとともに、MP(ミニパブリックス,市民討論会)を実施するための準備を開始する年度であった。年度当初に議論を重ねた結果、CASI調査・MPのテーマ、即ち市民に熟慮もしくは熟議を促すテーマを、「外国人労働者受け入れ政策」とすることにした。また、全国を対象とするよりも1つの県を対象とする方がより効果的な調査が可能になると判断し、静岡県を研究の対象地域とすることにした。熟慮/熟議の効果を検証するにあたり、全国の有権者を対象とすると、対象者の社会経済的属性や外国人労働者に対する既存の態度に関するばらつきが大きくなるため、効果の測定が困難になることが想定される。その点、都市規模や産業構造のバランスも取れていることから、「日本の縮図」として市場調査の対象となることも多い静岡県に対象を絞れば、過度なばらつきを抑制でき、熟慮/熟議の効果をより厳密に測定できると考えられるためである。 熟慮・熟議を促すために提示する「外国人労働者受け入れ政策」に関する客観的情報を作成し、CASI調査に向けたパイロット調査として平成27年8月と11月に2度Web調査を実施した。これらの準備を経て、静岡県の全有権者から無作為抽出した2,000名を対象に平成28年1月9日から3月13日にかけてCASI調査を実施した。有効回答が得られた870名の意見分布を、「公共圏における市民の意見」として、平成28年6月に実施するMPで参加者に提示し、それが熟議に及ぼす影響を検証する予定である。 MPの準備として、静岡県の全有権者より無作為抽出した10,000名に郵送調査を実施し、MPの参加者の募集の過程に入った。この郵送調査への有効回答者4,279名を対象に、次年度(平成28年度)にMPの案内を送る計画である。これにより代表性を備えた参加者をMPに集めるための準備が整えることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
根拠として次の3点が挙げられる。第1に、世界的に非常に重要なテーマについてCASI世論調査とMPを行うことにしたという点である。双方に共通のテーマとして選択した「外国人労働者受け入れ政策」は、日本では、今後重要度が高まることが予想されるものの、少なくとも現在のところはさほど争点化していない。しかし世界に目を向けると、喫緊の課題となっており、世界各国の政治学において重要なテーマとして研究が進められている。このため、比較政治学的に意義のある貢献を果たすことが期待できる。 第2に、静岡大学との共同研究の体制を整えたという点である。調査対象を静岡県とすることを決めた後、静岡大学の井柳美紀教授を研究協力者としてお迎えした。地元の静岡大学との共同研究としてCASI世論調査を実施することで、本研究の「信頼度」が上昇し、多くの県民のご協力をいただくことができた。事実、静岡県の全有権者から無作為抽出した2,000名を対象に行ったCASI世論調査の43.5%という回収率は、過去に我々が行ったCASI世論調査の実績を上回っている。 第3に、静岡新聞にCASI世論調査と郵送調査を取り上げる記事が掲載されたという点である。このことは、本研究の社会的意義を客観的に示していると言える。また、第3の点と同様、本研究の「信頼度」の上昇に寄与したとも考えられる。平成28年度に予定しているMPへの参加者をリクルートすることを主たる目的として実施した、静岡県の全有権者から無作為に抽出した10,000名を対象とした郵送調査の回収率も、郵送調査としては高い部類に入る42.8%を記録した。我々の期待を大きく上回る4,279名の方々から回答をお寄せいただいたということは、代表性のある参加者によってMPを開催する上で、非常に重要な成果である。 これらの点から、現在のところ「当初の計画以上に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年1月から3月に実施した、静岡県の全有権者から無作為抽出した10,000名を対象とした郵送調査の有効回答者4,279名に対して、同年6月に実施するMPへの参加の意向を尋ねるアンケートを4月から5月にかけて行い、参加者を募る。 MPは、平成28年6月18日(土)・19日(日)・25日(土)・26日(日)の4日間、静岡大学静岡キャンパスで開催する。各日、午前と午後の2回実施する。参加希望者の都合を勘案しながら、いずれかの日のいずれかの回にご参加いただくよう割り振る。参加者は、各回40名、各日80名、4日間で約320名となる。各回、約8名の参加者から成る5つの小グループをランダムに作り、小グループ内で外国人労働者受け入れ政策に関する熟議を行っていただく。なお、ランダムに選んだ半分のグループでは、1月から3月に実施したCASI調査の結果を「公共圏における一市民の熟慮の結果」として提示し、それについても熟議していただく。 このMPでは、前半60分、後半75分の熟議の前後に、CASI形式によるアンケート調査も行う。これにより、熟議の前後で外国人労働者の受け入れをめぐる市民の意識がどのように変化したかを測定することができる。 平成28年10月から12月にかけて、静岡県の全有権者から無作為抽出した3,000名を対象としたCASI世論調査を再度実施する。その目的は、MPで得られた結果を「熟議空間における市民の熟議の結果」として、CASI世論調査の対象者に示すことの効果を測定することにある。CASI世論調査の回答者は「公共圏で一人で熟慮する」市民であるので、「熟議空間で熟議した」市民であるMPの参加者の意識の変化を知ることで、何らかの影響を受ける可能性がある。このようにMPの結果とCASI世論調査の結果とを作用させることで、熟議・熟慮の効果を詳細に検討することが可能になる。
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Remarks |
早稲田大学政治経済学術院の政治学研究科と経済学研究科は過去20年間協働作業を続けてきたが、特に2003-07年度の21世紀COE拠点「開かれた政治経済制度の構築」と2008-2012年度のグローバルCOE拠点「制度構築の政治経済学」において、熟慮を導入できる世論調査の方法としてCASI世論調査方式を世界で最も全国調査として実施し、確立した。
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Research Products
(18 results)