2015 Fiscal Year Annual Research Report
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25220802
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大須賀 篤弘 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80127886)
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Project Period (FY) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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Keywords | ポルフィリン / ヒュッケル芳香族性 / メビウス芳香族性 / 金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
i) 完全共役したポルフィリン-ヘキサフィリン-ポルフィリンの亜鉛およびニッケル錯体の励起状態の超高速レーザー分光を行い、詳しい励起状態ダイナミクスの解明に成功した。 ii)巨大環拡張ポルフィリンの1つである[50]ドデカフィリン(1.1.0.1.1.0.1.1.0.1.1.0)をMSAによってプロトン化することで、明確な50π芳香族性を示すことがわかった。この分子は、構造の明確なヒュッケル芳香族性を示す世界最大の有機化合物と認定され、権威あるアメリカ化学会発刊のChemistry & Engineering Newsにおいて、“Molecules Of The Year 2015”に選ばれた。さらなる構造固定化手法の開発や、分子内架橋型環拡張ポルフィリンの開発を継続中である。 iii) サブポルフィリンメゾオキシラジカル種およびメゾ-アリール置換メゾオキシポルフィリンラジカルが化学的に安定なラジカルであることを発見した。これらはπ共役系へのスピン非局在化により安定化されており、また金属錯体の種類によってポルフィリン環の歪みが異なり、分子間での磁気的相互作用も大きく異なることが磁化率測定により明らかになった。これら一連の研究により、ポルフィリノイド骨格における安定ラジカル種の合成という新たなコンセプトを確立することができた。 iv) ポルフィリニルグリニャール反応剤やポルフィリニルリチウム反応剤を世界に先駆けて開発した。これらの反応剤を利用して、ポルフィリンに直接、窒素やホウ素やケイ素やリンを縮合させたヘテロ原子縮環ポルフィリン類の合成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ポルフィリノイドのπ電子系は非常に柔軟であり、外部摂動に対し敏感に応答し、新しい物性や反応性を示す。こうした点に着目して、我々は世界に先駆けて新規なポルフィリノイドの開発を行ってきた。申請者のポルフィリノイド開発は世界のトップレベルにあり、これまでに、ポルフィリンのメゾーメゾ結合反応やそれを利用した世界最長単分散分子、世界最小のHOMO-LUMO Gapを持つ中性分子、環拡張ポルフィリン、メビウス芳香族分子、サブポルフィリン、ポルフィリンピンサー分子などを次々に開発してきた。これらの研究の学問的意義や独創性の高さは国際的に高く認知、注目されており、国際誌ACIEのHighlightで7度も取り上げられている。近年、われわれの研究に刺激されて、共役、縮環、変形、環拡張ポルフィリノイドの化学が世界的に急速に広がりつつあるため、我が国での関連研究を戦略的に推進する必要がある。また、最近では空気中で安定に取り扱える開核系分子の開発も精力的におこなっている。これらもポルフィリノイドのπ電子系の柔軟さを反映した分子群であるといえ、ポルフィリン化学に留まらず、有機ラジカル化学にも大きな波及効果をもたらしつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
研究は概ね順調に進行しており、大きな計画変更はない。当初の目的であった環拡張ポルフィリンの化学、環縮小ポルフィリンの化学、ハイブリッドテープの化学に加えて、ポルフィリノイドにおける安定ラジカル種の化学やヘテロ原子縮環ポルフィリンの化学が予想以上に進行しているため、これらの探求も積極的におこなう。世界最大の芳香族化合物の更新に加えて、メビウス三重ねじれ分子の合成に向けて、巨大環拡張ポルフィリン類の合成には一層精力的に取り組む。近年進展が著しいC-H活性化反応を用いることで、サブポルフィリンやポルフィリン周辺部の高度な変換反応にも取り組む。歪んだ三次元構造をもつπ共役分子や多段階酸化還元可能な分子を創出し、新奇なπ電子系の開発に取り組む。
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