2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25221105
|
Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
松林 嘉克 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00313974)
|
Project Period (FY) |
2013-05-31 – 2018-03-31
|
Keywords | 翻訳後修飾 / ペプチドホルモン / 受容体 / 形態形成 / 環境応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の最大の成果は,全身的な窒素吸収制御に関わる長距離移行ペプチドシグナルCEPとその受容体CEPRの発見であり,Science誌に掲載された.植物は地中から窒素を主に硝酸イオンとして吸収しているが,自然界での硝酸イオンの地中分布は,極めて不均一である.そのため,植物は根の一部が局所的な窒素欠乏になった時に,その情報を他の根に伝え,相補的に硝酸イオン取り込みを促進させるしくみを持っている.しかし,systemic N-demand signalingと呼ばれるこの巧妙なしくみの分子メカニズムは解明されていなかった. 我々は,様々な構造的特徴を指標に,シロイヌナズナにおいて複数の新規短鎖翻訳後修飾ペプチドシグナル候補群を見出していた.そのひとつであるCEP(C-terminally encoded peptide)ファミリーについて,本研究で確立した受容体発現ライブラリーを用いて直接結合を指標に受容体を探索した結果,2個のCEP受容体が見出され,これらの受容体を欠損させるとsystemic N-demand signalingが失われることを明らかにした.すなわち,根の一部が局所的な窒素欠乏を感知すると分泌型ペプチドCEPが生産され,道管を移行して地上部の受容体CEPRに認識される.受容体が活性化されるとその下流で未知の2次シグナルがつくられ,師管を介して根に移行し,離れた根での硝酸イオン取り込みを促進して,窒素不足を補填している.この発見は,変動する環境に対する植物の巧みな適応能力の一端を分子レベルで明らかにしたものとして大きく注目された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新しいシグナルの同定という研究は,同定できるかできないかの2者択一であるが,今年度は全身的な窒素吸収制御に関わる長距離移行ペプチドシグナルCEPとその受容体CEPRの同定という予想を超える成果に結びついた.2014年10月にScience誌に掲載された論文は,現時点での被引用件数が既に26件に達し,被引用件数上位 0.1 % にランクされるホットペーパーとなっている.また,本論文は,Science誌のPERSPECTIVEに解説記事,Science Signaling誌のEDITORS' CHOICEに紹介記事が掲載され,特にインパクトの大きい論文をとりあげるF1000Primeにも選出されるなど,国際的に高く評価された.これまでペプチドシグナルの研究は形態形成の視点を中心に行なわれてきたが,環境応答における長距離移行ペプチドシグナルの重要性が明らかになったことで,アメリカ植物生物学会で長距離シグナリングのシンポジウムが開かれたり,環境応答における長距離シグナリングを研究の柱のひとつとした新学術領域研究が発足しており,世界の環境応答研究に新しい潮流が生まれつつある.
|
Strategy for Future Research Activity |
全身的な窒素吸収制御に関わる長距離移行ペプチドシグナルCEPとその受容体CEPRの発見など,当初の予想を上回る成果が出ているため,今後の研究計画に大きな変更はない. (1)新しい短鎖翻訳後修飾ペプチドシグナルの探索.当初は翻訳後修飾酵素の欠損株の表現型を参考にペプチドシグナルの探索を進める予定であったが,シロイヌナズナタンパク質データベースからin silicoスクリーニングによって新規候補群を見出し,さらに受容体発現ライブラリーを用いて受容体を決定して,両側から機能解明を進める手法の有効性がCEPシグナリングの発見により実証されたため,今後は後者の手法を中心に研究を進める.4種類の新規ペプチドの解析が進行中であり,さらなるペプチドシグナルの発見につながる可能性がある. (2)ペプチドシグナル群の受容体および情報伝達機構の解析.シロイヌナズナ受容体キナーゼを個々に発現させたライブラリーが確立できており,今後もこの発現ライブラリーを用いて,直接的結合を指標にペプチドシグナルの受容体を決定していく.現時点で,2種類の機能未知ペプチドシグナル候補について,特異的受容体が同定済みである.受容体下流の情報伝達機構の解析も重要ではあるが,受容体決定の精度と速度が向上したため,よりインパクトの大きい新規ペプチド-受容体ペアの同定と機能解明を優先することにしている.
|
Research Products
(9 results)