2013 Fiscal Year Annual Research Report
二〇世紀東アジアをめぐる人の移動と社会統合に関する総合的研究
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25245060
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
蘭 信三 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (30159503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上田 貴子 近畿大学, 文芸学部, 准教授 (00411653)
松浦 雄介 熊本大学, 文学部, 教授 (10363516)
飯島 真里子 上智大学, 外国語学部, 准教授 (10453614)
柏崎 千佳子 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (30338222)
小川 玲子 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 准教授 (30432884)
外村 大 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (40277801)
高畑 幸 静岡県立大学, 国際関係学部, 准教授 (50382007)
原山 浩介 国立歴史民俗博物館, 研究部, 准教授 (50413894)
福本 拓 宮崎産業経営大学, 法学部, 准教授 (50456810)
田村 将人 札幌大学, 学術交流オフィス, 専門員 (60414140)
坂部 晶子 名古屋大学, 国際開発研究科, 准教授 (60433372)
花井 みわ 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 准教授 (70578476)
西澤 泰彦 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (80242915)
URANO Edson 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (80514512)
野入 直美 琉球大学, 法文学部, 准教授 (90264465)
八尾 祥平 早稲田大学, アジア研究機構アジア研究所, 助手 (90630731)
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Project Period (FY) |
2013-10-21 – 2018-03-31
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Keywords | 国際社会 / エスニシティ / 人の国際移動 / 帝国以後の人の移動 / 歴史的グローカルシティ / ポストコロニアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研は二〇世紀東アジアにおける人の移動の総合的研究を目指している。二〇世紀東アジアの人の移動は、帝国化、帝国崩壊、戦後秩序の再変化、冷戦、グローバル化等々に規定され、それらが密接に絡んでおり、そのメカニズムを総合的に明らかにすることが本科研の課題である。ただ、後期に採択されスケジュール調整が難しかったので、以下の4点を中心に研究遂行した。 (1)本課題に関連する先行研究の批判的検討を行った。本科研に先立った共同研究の成果である拙編著(2013)『帝国以後の人の移動 グローバリズムとポストコロニアリズムの交錯点』に関する書評シンポジウムがタイムリーな機会となったが、そこで人の移動の経路依存性、その経路としてのポストコロニアリズムとグローバリズムの連関が再確認された。同時に、マクロな視点を主としつつ個人のライフヒストリーを重視する視点の課題を明確にする必要性が確認された。 (2)2002年以来継続的にフィールドとしている歴史的なグローカルシティである長野県飯田市での調査をインテンシブに行った。まず、外国籍市民へのアンケート調査、ついで日本人市民へのアンケート調査、継続的にエスニックコミュニティやその支援者へのロングインタビューを行い、飯田における戦前の満洲移民から戦後の引揚げ、日中間の国交正常化後の帰国者の定住化、ブラジル人他の定住化の歴史と現状からその可能性を明らかとした。これまでワークショップ他での報告を数回行っており、報告書・単行本の刊行が望まれる。 (3)本研究チームは日本帝国の崩壊によって生じた戦後の引揚げや送還といった大規模な人の移動研究を基点としている。その点では、前著を含めて少なからず成果を出している。しかし、それは世界史的にユニークなものなのかという問題意識から、帝国崩壊後の人の移動(引揚げ・送還・追放)の西欧と東アジアにおける国際比較研究に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は後期開始で、かつ研究グループの規模が国内で40名程度、海外の研究協力者も10名程度と規模が大きく、ネットワークの再構築など研究活動の始動が難しかった。しかし、前の科研グループのコアメンバーが継続して参加しており、そのネットワークが有効に働き、出発は遅れたが、ほぼ予想どおりの活動ができた。 とりわけ、拙編著(2013)『帝国以後の人の移動 グローバリズムとポストコロニアリズムの交錯点』に関する書評シンポジウムでは、20世紀前半の東アジアをめぐる人の移動が、帝国化、帝国崩壊と戦後秩序の再編によって大きく規定されつつも、それに抗う人々の生活世界の論理が重要であることが確認され、本科研にとってじつにいいタイミングであった。 また、長野県飯田市での調査は、2002年来の継続的な同市での活動のおかげで行政との信頼・協力関係がすでに構築されており、大規模なアンケート調査が速やかに実施できた。その結果、従来の多文化共生に関する地域調査としては誇れるデータ収集が実現した。現在、データ分析中であるが、飯田特有な特徴と他の地域との共通性が見られる興味深い発見が多い。従来はグローバル化による研究が主であったが、飯田調査はポストコロニアルな面とグローバルな綿とが密接に関連する事例で、本課題にふさわしい事例であることが明らかとなった。 そして、引揚げの国際比較研究においては、東アジアの事例と西欧の事例とを比較する基本的枠組みの検討がなされたことは最初の大きな一歩であった。ついで、ヨーロッパにおける19世紀末から20世紀前期における民族的少数者の移動のメカニズムが明らかにされ、アジアにおける樺太からの引揚げの状況、韓国における引揚げと送還に関する研究が明らかにされた。 それ以外の研究課題は研究チームの組織化と研究課題の明確化の途上にあるが、展開の方向性は見えてきつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
二〇世紀東アジアにおける人の移動の総合的研究を目指す本研究は、8つの作業課題に関する8つのサブグループの組織化と研究活動の発足を予定していた。今年度は、基本的な枠組みが確認され、飯田調査グループと引揚げの国際比較グループの研究活動が軌道に乗り、それに基づくフィールドワークが確実に進んでいる。とりわけ、飯田調査班は新しい視点による地域総合調査によって、伝統地域社会における多文化共生調査が深められている。また、引揚げの国際比較は分析枠組みの検討といくつかの事例研究のなかで、今後の研究課題が明確になりつつある。 そこで、来年度は、この二つの研究グループの活動にならい、それ以外の研究グループを組織し、その研究活動を発足していく予定である。具体的には、1930年代の環太平洋において展開された人の移動を、日米中の三つの帝国の狭間で展開された人の移動の連関性に着目する研究である。ついで、それと関連して同時代の「満洲」をめぐる人の移動に関する研究グループの組織化である。さらには、朝鮮半島と沖縄をめぐる人の移動に関する研究グループの組織化である。 環太平洋班に関しては、日本の研究者を中心としながらも、海外の研究所のネットワークが模索されてきたが、そのネットワークがほぼ構築されつつあり、また満洲に関する研究組織も確定しつつある。したがって、この二つの研究課題の作業グループが動き出せば、4つの作業グループが動き出し、本研究課題の作業が本格的に動き出すことになる。朝鮮半島と沖縄をめぐる人の移動に関する研究グループに関しては、先行研究の検討を踏まえて、次年度にテーマと研究ネットワークに関する根本的な見直しを進めて、研究グループをネットワーク化する予定である。 上記のような作業を進めていけば、当初の研究計画のかなりの程度が推進されていくのではないかと考えている。
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