2015 Fiscal Year Annual Research Report
製鉄の起源と展開に関するフィールドワークに基づいた実証的研究
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25257011
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
村上 恭通 愛媛大学, 東アジア古代鉄文化研究センター, 教授 (40239504)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大村 幸弘 公益財団法人 中近東文化センター, アナトリア考古学研究所, 所長 (10260142)
安間 拓巳 比治山大学, 現代文化学部, 教授 (40263644)
槙林 啓介 愛媛大学, 東アジア古代鉄文化研究センター, 准教授 (50403621)
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Project Period (FY) |
2013-10-21 – 2017-03-31
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Keywords | 古代製鉄 / ユーラシア大陸 / 起源 / 伝播 / 製鉄技術 / 技術変容 |
Outline of Annual Research Achievements |
フィールド調査はカザフスタン、ハカス共和国(南シベリア)、モンゴル、中国で実施した。カザフスタンでは中部地域サリャルカ地方にあるアラト遺跡の発掘調査資料調査および現地踏査を実施した。再度、紀元前12世紀をさかのぼる製錬滓の存在を確認し、詳細な地表調査のうえ次年度の発掘予定地を決定した。ハカス共和国ではシラ州トルチェヤ遺跡の本調査を実施し、A.B2区の調査区を設定して発掘を進めた結果、合計16基の製鉄炉を検出できた。1960年代に故Yu.I.スンチュガシェフ氏が残した発掘記録にある製鉄炉の特徴を追認し、さらに新たな情報を得ることができ、とくに製鉄操業に関わる重要な所見を得た。時代はタシティク文化期に属する。また調査期間中に実施した踏査によって、トルチェヤ遺跡の北東部約2kmに同時期の土器散布地を発見し、集落の可能性がある。このほかモンゴルでは新たな匈奴時代の製鉄炉を確認し、また中国では四川省成都平原北部において、戦国時代における製鉄遺跡と鉱山址を対象とした踏査を実施した。 製鉄技術復元については、中近東の最古級の銅製錬炉を復元し、転用炉として製鉄実験を行った。この実験において、羽口の設置位置に関して重要な所見が得られ、トルチェヤ遺跡の製鉄炉における地下補助孔の必要性が理解でき、次年度本所見を活かした復元実験を実施することとした。 成果発表については、9月にハカス共和国アバカン市においてハカス国立言語・文学・歴史研究所と共催で『サヤン・アルタイとその周辺地域における金属生産』と題する国際会議を開催し、ロシア、モンゴル、韓国、日本からの発表者を得た。また12月には大阪で国際会議『世界の古代製鉄研究の現在』を主催し、連合王国、ロシア、カザフスタン、ハカス紀要和国、中国、日本の参加者を得、各国の製鉄研究の動向を基に鉄の起源と伝播について議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
製鉄の起源地の一角であるトルコにおける発掘調査、南シベリア、モンゴルにおける発掘調査も順調に進み、製鉄炉および技術復元が可能な段階にまで達した。またまた東アジアにおける製鉄の開始を考えるうえで最も重要な地域である中央アジアにおいても中部カザフスタンのアラト遺跡の資料を調査することができ、紀元前12世紀以前にさかのぼる鉄滓の存在を明らかにでき、最終年度に発掘調査する機会を得ることができた。中国最古の製鉄とをつなぐミッシングリンクはカザフスタンにあると想定しながらも有望な遺跡は限られていたため、この点に関しては予想を遥かに上回る進捗を遂げている。 既発掘資料による製鉄研究のフィールドである南アジア、東南アジア、そしてロシア(ウラル地方)、黒海沿岸地方においても各国の研究協力者が調査を進め、製鉄のエビデンスを十分に収集している。アフリカ北部については、国情の問題により研究の進展が危ぶまれたが、ロンドン大学カタール校の協力を得て、資料を蓄積しつつある。 折しもカウンターパートの一つであるハカス国立言語・文学・歴史研究所の依頼もあり、北アジア、中央アジアの製鉄研究の成果を集約する国際シンポジウムを共催でき、また日本国内でも研究協力者とともに国際会議を開催することができ、最終年度の前年に本研究の課題を改めて明らかにすることができた。 製鉄技術復元についても国内における復元実験を通じて、ユーラシア大陸における最古級の製鉄技術に関して見通しができ、さらに黒海沿岸地域から東伝する技術の特質について新たな課題を把握することができた。 以上のように発掘成果、復元実験成果ともに製鉄の起源から各地への技術伝播を議論する上で重要な所見を蓄積しており、また国内外の分担研究者、研究協力者とともにその内容を共有し、最終年度の調査と総括に移行することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
発掘調査については中央カザフスタンのアラト遺跡で実施し、製鉄炉の検出を目指す。発掘調査はできないが地表調査が可能な地域で枢要な地域がカザフスタン東部(カスピ海東岸)、モンゴル・アルタイ地方、ロシア・アルタイであり、ここでは踏査あるいは既発掘資料の調査を実施する。これらの実地調査により、予定していた地域全域における製鉄関連資料の調査が完了することとなる。 前年度の国際会議における議論で明らかとなった課題を各分担研究者、研究協力者が再度精査し、その成果を集約する。 製鉄復元については、特にスキタイ系の製鉄技術に関して、遺跡の発掘成果をもとに春期と秋期に実験と記録を実施し、復元実験からみた製鉄技術に関する報告をまとめる。 成果については、今年度末までに報告書にまとめて刊行し、また愛媛大学東アジア古代鉄文化研究センター主催の国際会議をはじめ、愛媛県外で開催するシンポジウム等で報告する。
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Research Products
(17 results)