2014 Fiscal Year Annual Research Report
諫早湾における海水流動の変化が有明海奥部海域の環境と生態系に及ぼす影響の評価
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25281031
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
堤 裕昭 熊本県立大学, 環境共生学部, 教授 (50197737)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小森田 智大 熊本県立大学, 環境共生学部, 助教 (10554470)
門谷 茂 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (30136288)
一宮 睦雄 熊本県立大学, 環境共生学部, 准教授 (30601918)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 有明海奥部海域 / 諫早湾 / 貧酸素水 / 赤潮 / 成層構造 / 海底生態系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、諫早湾および有明海奥部海域における水質、海底環境、ならびに底生生物群集の分布とその季節変動に関する精密な調査を実施してきた。それら調査で得られた多岐におよぶ結果をまとめることにより、現在の有明海奥部海域においては密度躍層が湾央部を横断し、さらに諫早湾湾口部を横断する線を境界として、海底環境が大きく変化することを見出した。その境界より湾奥側には有機物含量が高く嫌気的な泥底、湾央側には酸化的な砂底が分布し、さらにそれに対応して、湾奥側には種多様性の低い底生生物群集が、湾央側には種多様性の高い底生生物群集が分布している。また、湾奥側では塩分成層が発達しやすく、その表層では赤潮や底層では夏季に貧酸素水が頻発し、海水構造、海底環境、底生生物群集の群集構造が相互に密接に関連して、現状の環境と沿岸生態系が形成され、季節的な変動を重ねていることがわかった。さらに、このような境界線が1989年時点では有明海湾奥部を縦断していて、その境界より東側では砂底が、西側では泥底が分布していた。このことは、この境界より東側の海域は潮流の流速が速く、泥が堆積しにくい状態が発生していたことを示している。一方、境界線より西側は潮流の流速が弱く、泥が堆積しやすい海域であったことを示している。この境界線の変化は1990年代~2000年代に発生し、現在の状態(有明海奥部および諫早湾奥部)は安定的に泥が堆積しやすい、潮流速が遅い、海水の成層構造が発達しやすい、つまり赤潮や貧酸素水が発生しやすい状態が継続している。有明海湾奥部における密度躍層の発達については、調査船を用いた定点観測を通して、密度躍層の発達に伴って海底への懸濁粒子の沈降過程と沈降物の物理化学的特性が変化し、それに伴って海底生態系への影響も変化することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究テーマとしては、諫早湾干拓地の潮受け堤防の水門が研究期間中に開門され、締め切り以前の諫早湾における海水流動がある程度回復する状態を想定して、研究計画を立案していた。しかしながら、水門は締め切られたままの状態が続いており、その開門が諫早湾および有明海奥部海域における海水構造や海底環境、海底生態系にどのような変化をもたらすかについては、調査によって結果を得ることができない状態が続いている。しかしながら、諫早湾および有明海奥部海域における現状の海水構造、海底環境、ならびに海底生態系に関する調査を精密に行う一方で、過去の文献に記載された海底環境に関する調査結果と比較することにより、1980年代末から現在における海底環境の変遷が明確となり、そのことから想定される海水構造の変化や底生生態系の変化を推定することが可能となった。また、1990年代後半~2000年代にかけて、このようなレジームシフトとも言える大きな変化が発生していることが明らかとなり、諫早湾潮受け堤防が締め切られた1997年と時期的に符合することが多く、両者の因果関係が強く示唆されることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
諫早湾干拓地の潮受け堤防の水門は2015年度中に開門される見通しはまったく立っていない。しかしながら、その締め切った状態が続いていることによって進行していると想定される諫早湾および有明海奥部海域の海底、海水構造、ならびに海底生態系の変化は存在する。この変化がさらに顕著に捉えられる可能性は高く、特に、夏季の貧酸素水発生時には、海水構造、海底環境、海底生態系の違いがもっとも顕著になることが予想される。そこで、夏季に諫早湾および有明海奥部海域において詳細な調査を継続することを計画している。
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