2014 Fiscal Year Annual Research Report
世界遺産・知床の自然を脅かす気候変動とダム:冷水性サケ科魚類の応答と保全策の提案
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25281055
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
河口 洋一 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 准教授 (20391617)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関島 恒夫 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10300964)
谷口 義則 名城大学, 理工学部, 准教授 (30316145)
卜部 浩一 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, さけます・内水面水産試験場, 研究主任 (30442669)
鷲見 哲也 大同大学, 工学部, 准教授 (50303673)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 温暖化 / 温度ストレス / ヒートショック蛋白 / オショロコマ / 砂防・治山ダム / スリットダム |
Outline of Annual Research Achievements |
高水温がオショロコマ 1. 個体 2. 個体群 3. 河川生物群集に及ぼす影響評価 水温制御水路で10~26°Cの温度条件下でオショロコマ幼魚の採餌と生残に及ぼす影響を定量化した.幼魚は22°Cに達するまで採餌し続け24°Cで急激に低下し,20°Cで死亡が起こり始め,致死水温は26°Cと判断された.幼魚は成魚より高水温条 件下で採餌できるものの,より低い水温で死に至ることが明らかになった.ダム設置・非設置河川から各6河川選び,1河川に 3調査区設置し魚類・藻類・底生動物と物理環境調査を行った.オショロコマ密度はダムによる瀬 淵構造の変化や生息場の分断化より,水温の影響が大きいことが示された.ダム区間で藻類食者の密度が高く,藻類量についても低い傾向だった. 4. 温度ストレスの定量化 熱ストレスに対するオショロコマの防御応答を明らかにするためHsp(ヒートショ ック蛋白)を分子指標として高温暴露実験によるHsp70の発現量を定量評価した.14℃18℃22℃の3つの曝露条件で実施し,曝露後96時間にわたるHspの発現量を定量した.22℃の曝露条件でHsp発現量が上昇し,曝露24時間後にHsp発現量が最大になった.一方で,14℃と18℃の曝露条件においては,Hsp発現量の有意差は認められなかった. 5. 水温形成に関する調査 ダム密度の高い砂防堰堤の連続する区間において,水温上昇と気象・流況・浸透交換などとの関係性について連続観測を行った.堰堤直上流部は広く浅い流れと,落差直後は滝落ち部において容量を持つ2つの部分があり,日射が強い間は浅い水路部での水温上昇はその強さに応じて上昇し,その度合は理論的に整理し得られる式と同型となることがわかった.日射が弱くなるすぐに水温上昇が戻ることから,基底となる水温は日射によって得る熱量と滝落ち部での混合作用によって決まることが推測された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高水温がオショロコマ 1. 個体 2. 個体群 3. 河川生物群集に及ぼす影響に関する野外調査と室内実験は,全て実施した.1. 個体への影響に関する実験結果については,一部の結果をまとめ国際学会で報告した.2. 個体群への影響に関する 調査結果についても,データを整理してモデル解析を行い,生態学会で速報を報告し、現在モデルの精度向上を行っている.3. 河川生物群集に及ぼす影響に関する調査で採集した水生昆虫や藻類のサンプル処理は終わり,現在オショロコマ密度や水温など環境要因との関係性について解析している. 4. 温度ストレスの定量化に関する調査についても予定していた野外サンプリングと室内実験を行い,温度ストレスの定量化(ヒートショック蛋白)手法が確立した.一部の結果についてオレゴン州立大で開かれた国際学会で報告した.5. スリットダムによる水温上昇の抑制効果の検証については,ダム密度が高く高水温河川において,水温上昇と気象・流況・浸透交換などとの関係性について連続観測を行い,水温計性のプロセスが解明された.
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Strategy for Future Research Activity |
1. 高水温がオショロコマ個体群に及ぼす影響評価(担当:河口) 夏季,ダム密度の高い高水温河川とダムがない低水温河川で,オショロコマが利用するマイクロハビタットを調査する. 2. 高水温がオショロコマを頂点とする河川生物群集に及ぼす影響評価(担当:河口) ダム密度が高い高水温河川とダム密度が低いあるいはない河川において,底生動物と付着藻類の採集を行い,底生動物はソーティングを終え摂食機能群に分類した.藻類量の計測も終えた.今年度は両者の関係に,オショロコマの密度との関係を加えることで,砂防・治山ダムがもたらす高水温が三者間に及ぼす影響について解明する. 3. 温度ストレス(ヒートショック蛋白)の定量化(担当:関島、河口、谷口) 昨年に引き続き実験個体と野外個体のHsp70を定量化する .肝臓に加え胸鰭や尾鰭のHsp70そしてHsp30やHsp90も計測し,部位間や各Hspの関係いについて検討する.野外で採集したオショロコマのHsp70と水温データを整理 しそれらの関係性を明らかにする. 4. 改良型ダム(スリット化)による水温上昇の抑制効果の検証(担当:鷲見、卜部、河口) ダムのスリット化の計画のある河川を対象に,ダム区間で水の流動と熱環境を捉えるために澪筋に沿って表流水位・水温の計測をロガー式水温計・ 水位計を各4-5点設置して15分間隔で数日計測 する.堆積土砂中の伏流水の水位・水温の計測を,ペンダント水温ロガーと自作の水位計測器で面的に配置し15分間隔で数日計測する. 5. GISによる情報統合と温度生息環境の変化によるオショロコマの分布予測(担当:河口) 各河川におけるオシ ョロコマ密度を目的変数に,現地調査による環境要因やGISから抽出する景観要因を説明変数として,GLMやGL MM解析から,知床半島におけるオショロコマ の生息適地モデルを作成し,気温や水温の寄与率を明らかにする. これまでの研究成果をまとめ複数の国際学会で発表する.
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Causes of Carryover |
温度ストレス(ヒートショック蛋白)を定量化するためHsp70に関する試薬を購入しているが,Hsp70以外のHsp計測も検討しており,そのためサンプル処理に予定より時間がかかり,試薬の購入が翌年に繰り越された.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
温度ストレス(ヒートショック蛋白)の定量化を行うための試薬に使用する予定.
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] Thermal Habitat Degradation of Dolly Varden in the Shiretoko Peninsula, Hokkaido, Japan2015
Author(s)
Taniguchi, Y., Y. Kawaguchi, Y. Takegawa, H. Urabe, K. Shimoda, D. Kishi, T. Sumi, T. Sekijima
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Journal Title
Bulletin of the Faculty of Science and Technology, Meijo University
Volume: 20
Pages: 印刷中
Acknowledgement Compliant
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