2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25282128
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 希美子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00323618)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安藤 譲二 獨協医科大学, 医学部, 教授 (20159528)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 流れずり応力 / 血管内皮細胞 / 細胞膜 / コレステロール / カベオラ |
Research Abstract |
これまで血管細胞が血流に起因する流れずり応力を感知して応答する分子機構を研究してきたが、その中で流れずり応力のメカノトランスダクションの特徴として細胞膜に存在する多様な分子・ミクロドメイン(イオンチャネル、増殖因子受容体、接着分子、カベオラなど)を介し、その下流で多岐に渡る情報伝達経路を活性化することを見出した。この特徴を説明できる機構として細胞形質膜の物理的性質が流れずり応力で変化し、それが様々な膜分子の活性化に繋がる可能性が考えられた。そこで、培養血管内皮細胞に流れ負荷装置で定量的な流れずり応力を作用させたときの細胞膜リン脂質の相状態(脂質分子の秩序性)の変化と膜流動性の変化を解析した。その結果、流れずり応力を作用させると即座に細胞膜が無秩序液体相に変化し、膜の流動性が増加することが判明した。この変化はコレステロールやスフィンゴ脂質に富む細胞膜の小さなフラスコ状陥凹構造物であるカベオラが集積する部位で顕著であった。これらの所見は流れずり応力がカベオラの集積する細胞膜を秩序液体相から無秩序液体相もしくは液晶相に変えること、それに伴って細胞膜の流動性が増加することを示している。これは流れずり応力が細胞膜物性である相状態に影響を及ぼすことを初めて明らかにした研究成果である。更に、以上の流れずり応力に伴う膜の相状態および流動性の変化は人工脂質二分子膜で作製した巨大リポソームでも同様に観察されたことから、細胞の膜タンパクや細胞骨格、生物活性などの変化を伴わない物理現象であることが証明された。細胞膜流動性の変化は様々な膜分子を活性化することが知られており、流れずり応力よる膜流動性の変化が内皮細胞のメカノトランスダクションに重要な役割を果たすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では血管内皮細胞の流れずり応力の感知機構を探るため流れずり応力作用下の細胞膜物性の変化を感受する蛍光プローブのLaurdanと二光子レーザー顕微鏡を用いて解析した。その結果、流れずり応力が内皮細胞膜のリン脂質二分子膜の秩序を低下させる現象を世界で最初に画像化することができた。また、Laurdan測光と光褪色後蛍光回復法を組み合わせることにより、同一細胞で脂質膜の相状態と脂質分子の流動性を測定し対比することに成功したが、こうした実験は他に類をみない。この実験で特にコレステロールが集積している細胞膜の小さなフラスコ状陥凹構造物であるカベオラ膜が流れずり応力に敏感に反応してその物理的性質(細胞膜相状態と流動性)を変えることが明らかになった。更に、同様の現象が人工脂質二分子膜で構成される巨大リポソームでも観察されたことから、流れずり応力に伴う膜の変化は物理現象であることが証明された。このことはカベオラが流れずり応力のメカノトランスダクションに関与する機構を理解する上で有用な情報を提供すると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的を達成する為に、以下の計画に基づき膜分子の力学応答の解析に関する研究を実施する。我々はこれまで流れずり応力の強さの情報が細胞外カルシウムの細胞内への流入反応に変換されて伝達される機構が存在することを明らかにしてきた。また、この機構に血管内皮細胞に優勢的に発現するATP作働性カチオンチャネルのサブタイプであるP2X4プリノセプターが中心的な役割を果たすこと、このP2X4の活性化には流れずり応力依存性に内皮細胞から放出されてくる内因性ATPが必須であることを見出した。さらに、細胞膜カベオラ/ラフトに存在するATP合成酵素がATPの放出反応に深く関わっていることを突き止めた。そこで、本研究では流れずり応力による1)P2X4チャネルを介したカルシウムの流入反応、2)内因性ATPの放出反応、3)細胞膜カベオラ/ラフトのATP合成酵素の活性化のメカニズム、について解析する。さらに、4)流れずり応力の情報伝達に関する研究を行う。さらに、培養血管内皮細胞に流れ負荷装置で定量的な流れを作用させたときの細胞膜の流動性および膜リン脂質の相転移の変化を解析すると共に、膜脂質のリアルタイムイメージングや、形質膜組成の定性・定量解析を行う。
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