2015 Fiscal Year Annual Research Report
カンボジア仏教の歴史・人類学的研究:国民・民族文化創生のダイナミズム
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25283016
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
笹川 秀夫 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 教授 (10435175)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 知 京都大学, 東南アジア研究所, 准教授 (20452287)
高橋 美和 愛国学園大学, 人間文化学部, 教授 (40306478)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カンボジア / 上座仏教 / 地域研究 / 歴史学 / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の3年目にあたる平成27年度は、研究代表者1名および研究分担者2名の計3名が、各自の調査を継続したほか、口頭発表、論文の執筆と刊行などを通じて、成果の公開に努めた。 笹川は、夏期休暇に3週間、春期休暇に2週間、カンボジアに赴き、国立公文書館および国立博物館図書室での文献資料収集を中心とする調査を行った。これらの調査で閲覧、複写した資料は、1940年代前半のタイ=仏印戦争や第二次世界大戦に関するもの、カンボジア版三蔵に見られる他国版との経典の名称の異同などである。第二次世界大戦期のカンボジアについては、2015年9月、ベトナム、ハノイに赴き、日本軍および民間人が戦時下のカンボジアにどのように関与したかをテーマに、国際シンポジウムでの口頭発表を実施した。 小林は、2015年7月末から8月中旬までカンボジアに渡航し、同国中央部に位置するコンポン・トム州の農村地帯の仏教施設計91カ所を訪問調査し、施設における活動の現状および歴史と、施設に止住していた僧侶・見習僧1,239名、在家男女235名のライフ・ヒストリーに関する情報を収集した。また、同州の宗教局において、2012年以降、現在までの施設別の僧侶・見習僧数に関する統計データを入手した。 高橋は、2015年8月の雨安居期に、カンボジア王国コンダール州内において、2009年、2010年に調査を実施したのと同一仏教施設に赴き、質問紙を用いた個別面談式の調査を行った。その結果、全49仏教施設、そこに止住する出家者1,204名、俗人修行者237名のデータを得た。また、プノンペン市内の1寺院における「論蔵学」教室の観察と、生徒の数名(俗人一般男性、俗人一般女性、ドーン・チー、出家者)への聞き取り調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、平成27年度内に、カンボジア王国の首都プノンペンにおいて、現地の王立芸術大学からの協力を得て、カンボジア人の研究者のみならず、僧侶や宗教省に勤務する関係者を招いてワークショップを開催し、研究成果を現地に還元することを目指していた。しかし、本ワークショップは、本研究課題の代表者および分担者、計3名全員が研究分担者として参加している科研費基盤研究A「<宗教=社会複合マッピング>からよむ大陸部東南アジア仏教徒社会の動態と変容」(研究代表者、林行夫、京都大学地域研究統合情報センター教授)からも協力を得ることが決まっており、この基盤研究Aの調査実施や調査成果の分析とも、歩調を揃える必要が生じている。そのため、打ち合わせを重ねた結果、本ワークショップは平成28年9月まで、開催を延期することが決定した。 このように、研究成果の現地還元という点では遅れが見られるが、平成27年度には、口頭発表および論文刊行という点で、成果の公開を進展させることができた。なかでも、代表者である笹川および分担者である高橋が、いずれも英文による査読付き論文を刊行できたことは、4年間の研究課題の3年目という段階を考慮すれば、順調もしくは当初の計画以上に研究活動が進展していると判断できる。 以上のように、研究成果の現地還元という点では遅れが見られるものの、口頭発表や論文刊行という形での成果公開は進展していることから、進捗状況は「おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」の欄にも記したように、平成28年9月には、王立芸術大学および科研費基盤研究A「<宗教=社会複合マッピング>からよむ大陸部東南アジア仏教徒社会の動態と変容」から協力を得つつ、プノンペンにて研究成果を現地に還元するワークショップの開催を計画している。代表者および分担者の計3名は、いずれも本ワークショップでの口頭発表を予定しており、その内容は単著もしくは共著による論文執筆という形につなげていくことを検討している。 各自の研究テーマに関しては、笹川は第二次世界大戦期における日本のカンボジア関与について調査を続けており、平成27年9月にハノイで発表した内容を、平成28年度中に英語論文として刊行することが決定している。この論文で扱った日本軍および民間人による関与に加え、日本の仏教界による戦時期のカンボジアへの関与についても、資料の所在が明らかになりつつある。平成28年度には、東京都内での文献資料収集などによって、こうしたテーマについても調査を行うことを計画している。 小林は、これまでのコンポン・トム州での調査から、世俗の領域での行動を活発に行う僧侶・見習僧が増えつつあることを見出している。そこで、地域における出家生活の変化の実態を調査する必要性を感じており、平成28年度も引き続きコンポン・トム州で補足的な調査を継続するほか、プノンペンの宗教省にて、近年の宗教制度について聞き取りを行う予定である。 高橋は、これまでの調査から、都市部を中心に論蔵の学習が少しずつ広がりを見せている点に着目しつつ、調査を継続する予定である。タイでの論蔵学校の動向と合わせ、「教える」「学ぶ」という行為に、聖・俗/ジェンダーの垣根が取り払われつつある状況を論点とすることを計画している。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」および「今後の研究の推進方策」の欄に記したとおり、本研究課題は平成27年度にカンボジア、プノンペンにおいて、現地の研究者に加え、僧侶や宗教省の職員を招いて成果を公開するワークショップを開催する計画を立てていた。このワークショップ実施が平成28年9月に延期されると決まったことから、平成27年度は、各自が最低限必要とする範囲で科研費を支出して調査を実施し、大きな支出を抑えたところ、「次年度使用」が生じる結果となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の通り、平成28年度にはカンボジア、プノンペンでのワークショップの開催を計画している。開催にあたっては、発表者の渡航費と滞在費のほか、カンボジアからの出席者を招聘する費用、通訳への謝金、会場費(王立芸術大学を予定)など、大きな支出が見込まれる。こうした事情から、平成27年度までに支出を抑えたことによる「次年度使用」分は、平成28年度に支出する計画を立てている。
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Research Products
(9 results)
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[Presentation] 第二次世界大戦期のカンボジアと日本の関与2015
Author(s)
笹川秀夫
Organizer
International Conference “Vietnam - Indochina - Japan Relations during the Second World War: Documents and Interpretation”
Place of Presentation
University of Social Sciences and Humanities, Hanoi, Vietnam
Year and Date
2015-09-18 – 2015-09-19
Int'l Joint Research
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