2014 Fiscal Year Annual Research Report
原発事故によるストロンチウムー90汚染検査用βーγ弁別型ベータ線検出器の開発
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25287045
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
織原 彦之丞 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 名誉教授 (00004432)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
酒見 泰寛 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授 (90251602)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 原子核のベータ崩壊 / β線エネルギースペクトル / 大震災と原子力発電所事故 / 137Cs放射能汚染 / 90Sr放射能汚染 / β線検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年計画の本研究において25年度には検出器の開発並びに 製作を行い、実験室でのβ線の検出に成功しました。さらに、平成26年度には実験室の外でも測定可能な装置をめざし、2000Vの高電圧発生器を含めパルス整形、情報収集・解析までを含めた一体集積回路を製作して、縦50 cm横50 cm 縦20 cmで厚さ3mmのアルミ板製のスーツケースに格納して可搬型としました。重さは13 kg 程度です。これで100 V、70 Wの電力があれば何処ででもβ線の測定は可能となりました。ケースの外張りとした3mmのアルミ板はバックグラウンドとなるβ線の遮蔽として重要な役割を果たします。 なお、被検体サンプルは40 x 40 mm 平方で厚さは検出対象試料自身によるβ線の自己吸収を防ぐため、50 ミリグラム毎平方cmとします。意味のある結果を得る測定時間は、20kBq毎kgの試料について10分程度、宮城県の通常の土壌である2kBq毎kgの試料について30分、国の食物に対する規制値以下の数十Bq毎グラムの魚の骨に対しては1昼夜かかります。測定対象となる土壌なり、食品には主な物では134Cs、137Cs、並びに90Srが含まれます。実際に測定したデータをこれら3個のベータ崩壊核種からのβ線をスペクトル上でアンホールドし、90Srの成分を注出する手法は本研究の中で確立されました。 β線のエネルギースペクトルは連続分布であるため、混在する137Cs等からのβ線と区別して90Sr由来のβ線を測定することは磁気分析装置を使わない簡便な装置ではこれまで困難でしたが、137Cs と同じような分布となる90Srからのβ線と、永続平衡にある長く高エネルギー側に尾を引く90Yからのβ線を使い、さらにγー線測定によって137Csからのβ線を寄与を差し引き、90Srの放射能密度を得ることが出来るようになりました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の最大の課題は、実験室レベルで既成のNIMモジュール等の電子部品を使用して達成された”検出限界10 Bq/kg"の性能”がモバイル化された検出器システムに引き継がれるかどうかでありました。検出器の製作並びに光電子増倍管に印可する2000Vの高圧系まで組み込んだ電子回路集積系の設計製作を担当した応用光研工業の努力にもより、昨年10月に計画通り可搬の検出器一式が納入されました。 36Cl並びに137Cs、更に90Sr等の標準線源を対象にしたβ線のスペクトル測定・解析を行いシステム検証を行い、各々のβ線放出核種に対応するβ線のスペクトルを表現する理論式と観測されたスペクトルが一致するか否かの検証を行いました。その結果理論と実験の一致が極めて良く、β線が通過する遮光膜による損失やβ線通過信号を発生するためのシンチレーターでの損失も十分に小であることがわかり、システム全体の性能に合格点がつきました。また数日に及ぶ安定性の検査も行いました。以上の結果を受けて、宮城県内各地で採取した土壌、農作物、海産物の放射能濃度の測定を開始しました。これら、初期的であっても本格的なデータであり、このデータを元に成果を公表すべく学術雑誌への投稿論文(英文)もまとめられました。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで2年間は順調に研究実施計画が進行して参りましたが最終年度に当たり、永年平衡にある90Sr-90Yの関係を使った90Srの放射能の算出法等核物理学の上での成果もあり、早急に学術雑誌等に公表し、広くβ線計測の現状を学会と社会に知っていただくこと、特に、文部科学省で進めている「学校給食モニタリング」制度にそって市町村教育委員会に本研究の結果と意義を伝え、食品の放射能検査がγ線計測だけで無くβ線放出核種に対しても十分な体制で実行できることを各市町村にも伝えてもらいます。 次に、算出可能な計数やアンホールドの誤差は簡単でいわゆる統計誤差として算出できその値は多くても10% 程度です。しかし、システム全体の誤差を、見積もることは容易ではありません。特に全環境から僅か0.1グラムを切り出しBg/kgを算出する訳ですから、試料の水分含有量や重量そのものの軽量の不確定さ等がなど数十%の誤差を生む可能性がここにあります、この装置並びに方法論が内包する系統誤差と言われる不確定さを推定するためには、同一資料を同一条件で数多く測定することを、汚染密度の多少に分けて何種類 か用意して数多くの測定を行い、測定値群の標準偏差を求め測定の不確定さとして提示したいと計画しています。
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Causes of Carryover |
β線、γ線の検査態勢が揃い、土壌の放射能濃度の測定など実際に現地に出向いて行う事になりました。この場合、測定試料の個別差、地域差が 0.01~40 kBq/kgに広がることが予想されます。このため、市販の放射線サーベイメーターが必要になります。この機器の購入は前年度から考えていたのですが、実行できずに残っていました。最終年度には是非必要になります。 さらに、土壌、農・海産物の放射能濃度の測定は順調に進むことと思いますが、測定値の絶対値の信頼性を確保することが重要です。科学研究費の趣旨から言ってトレーサビリティーの確保は重要と考えます。このため、日本アイソトープ協会とも協力しいくつかの強度の137Cs、90Sr標準線源を購入してこの目的を達成したいと計画しています。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の目的を果たすため、*β線サーベイメーター*2 kBq 137Cs-β線線源、137Cs-0.2 kBq β線線源 *2 kBq 90Sr-β線線源、 90Sr-0.2 kBq β線線源などの購入を計画しています。
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Remarks |
戦艦「陸奥」鉄材による“バックグラウンド放射線”遮蔽の効果によって、本研究の目的である食品などのストロンチウム汚染を明らかにするために必要な、対象食品に共存する137Cs等の成分を見積るためのγ線計測の精度が抜群に向上し、結果として90Srの放射化量が求まります。
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Research Products
(2 results)