2016 Fiscal Year Annual Research Report
相対論的電子を有する有機導体へのキャリア注入と量子伝導現象
Project/Area Number |
25287089
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
田嶋 尚也 東邦大学, 理学部, 准教授 (40316930)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西尾 豊 東邦大学, 理学部, 教授 (20172629)
森成 隆夫 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (70314284)
須田 理行 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (80585159)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 有機導体 / ディラック電子 / 量子輸送現象 / 接触帯電法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、有機ディラック電子系α-(BEDT-TTF)2I3へキャリア注入する方法を確立し、量子効果観測からディラック電子の特徴的な性質を見出すことを目的にする。以下が本年度の成果である。 ・田嶋(研究代表者):本研究では、接触帯電法によるこの系へのキャリア注入に成功し、低温で明瞭な量子磁気抵抗振動と量子ホール効果を観察することに成功してきた。次のステップとして、この質量ゼロのディラック電子系は、圧力-温度相図上で電荷秩序絶縁相に隣接していることに着目した。この物質を舞台に強相関ディラック電子の物理展開が期待できる。本研究では、正孔注入した薄片試料で相境界近傍の電荷秩序絶縁相で量子磁気抵抗振動を調べた。結果、この系は圧力で「質量をもつディラック電子系」と「質量が無いディラック電子系」を行き来することを見出した。 ・西尾(分担者):質量ゼロのディラック電子系の熱的性質を明らかにするために、圧力下比熱測定システムを構築した。今年度は、有機導体α-(BEDT-TTF)2I3の比熱の圧力依存性から、電荷秩序絶縁相から質量ゼロのディラック電子系への変化を調べ、絶縁体転移温度近傍で電子比熱の大きな消滅を観測した。 ・須田(分担者):PENとPC基板の表面電荷の不均化を極力小さくしたデバイスを昨年度に続き作製した。 ・森成(分担者):磁場下でのバレー自由度の分裂について理論的解析を行った。特に、ドープした有機導体におけるディラック電子系では、ゼーマンエネルギー分裂を考慮すると磁場下でのランダウ準位エネルギーが交差することが示唆されている。この点についてバレー分裂に関係する平均場を導入して、状態密度とエンタングルメントエントロピーの計算を行った。その結果、準位交差付近で、縮退したランダウ準位のディラック電子間で互いに強くエンタングルした状態が可能であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・田嶋(研究代表者):良質なPEN基板デバイスで試料に正孔を注入し、電荷秩序絶縁相と質量ゼロのディラック電子系との相境界近傍で、ディラック電子の質量を制御することに成功した。質量制御は電子デバイス等へ展開するのに大変重要な要素となる。 ・西尾(分担者):非常に困難であると思われていた、圧力下比熱測定を実現した。 ・須田(分担者):良質なPENとPC基板デバイスを作成した。 ・森成(分担者):ディラック電子系におけるエンタングルメントの可能性を理論的に提案した。
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Strategy for Future Research Activity |
・田嶋(研究代表者):PC基板デバイスを作製してα-(BEDT-TTF)2I3に電子ドープし、電荷秩序絶縁相と質量ゼロのディラック電子系との相境界近傍で、明瞭な量子ホール効果を観測する。この系の電子‐正孔対称性を調べることを計画し、強相関ディラック電子系の物理構築を目指す。さらに、イオン液体を組み合わせたハイブリッド型電界効果トランジスタを作成し、キャリア注入の制御を行う。 ・西尾(分担者):α-(BEDT-TTF)2I3の圧力下比熱測定から、強相関ディラック電子系の物理展開を計画する。 ・須田(分担者):測定結果をフィードバックしてそれぞれの基板の最適化を行う。 ・森成(分担者):昨年度は磁場下でのバレー自由度の分裂について、エネルギーが比較的高いランダウ準位についての解析を行った。今後は,エネルギーゼロのランダウ準位とそれに隣接するランダウ準位について解析を行い、面間磁気抵抗におけるバレー自由度とスピン自由度の効果について理論的に明らかにする。特に,磁気抵抗の解析から示唆されている相転移の起源を、バレー分裂の描像に基づいて理論的に解明する。
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Causes of Carryover |
本研究では、高圧力下で実現する分子性ディラック電子系での量子輸送現象を調べることを目的に、この系をチャネルとしたデバイス作製を計画した。既に、接触帯電法を用いてこの系へのキャリア注入と量子ホール効果等の観測には成功しているが、キャリア注入量を制御することはまだできていない。H28年度は、前年度に続けて接触帯電法を用いてこの系の量子輸送現象を詳細に測定したが、後半ではその研究と平行して新たなデバイス作製を試みた。しかし、新デバイスの設計はできたが、その製作までは至らなかった。結果として、その材料費約8千円の残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H28年度の残額は新たなデバイス製作に使用することを計画する。 なお、H29年度の全予算を以下のように使用計画する。「田嶋(研究代表者):液体ヘリウム再凝縮装置(共用設備購入)の新設、デバイス材料費、国内外研究発表旅費、打合せ旅費」、「西尾(研究分担者):圧力セル作製、国内研究発表旅費、打合せ旅費」、「須田(研究分担者):デバイス基板・材料、有機溶媒、打合せ旅費」、「森成(研究分担者):国内研究発表旅費、打合せ旅費」
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Research Products
(22 results)
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[Journal Article] Charge Transport in Antiferromagnetic Insulating Phase of Two-Dimensional Organic Conductor λ-(BETS)2FeCl22016
Author(s)
S. Sugiura, K. Shimada, N. Tajima, Y. Nishio, T. Terashima, T. Isono, A. Kobayashi, B. Zhou, R. Kato, and S. Uji,
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Journal Title
J. Phys. Soc. Jpn.
Volume: 85
Pages: 064703-1-6
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] α-ET2I3の熱的性質2017
Author(s)
高須康弘, 大嶋一樹, 田嶋尚也, 梶田晃示, 西尾豊, 内藤俊雄, 加藤礼三
Organizer
日本物理学会第72回年次大会
Place of Presentation
大阪大学(大阪府・豊中市)
Year and Date
2017-03-17
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[Presentation] 正孔ドープした分子性ディラック電子系におけるランダウ準位交差2017
Author(s)
秋田百合香, 坪井瑛里紗, 林頌也, 小川健太郎, 田嶋尚也, 川椙義高, 須田理行, 山本浩史, 加藤礼三, 西尾豊, 梶田晃示
Organizer
日本物理学会第72回年次大会
Place of Presentation
大阪大学(大阪府・豊中市)
Year and Date
2017-03-17
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[Presentation] 正孔ドープした分子性ディラック電子系におけるクーロン相互作用2016
Author(s)
秋田百合香, 坪井瑛里紗, 林頌也, 小川健太郎, 田嶋尚也, 川椙義高, 須田理行, 山本浩史, 加藤礼三, 西尾豊, 梶田晃示
Organizer
科研費基盤研究(A)「ディラック電子系物質におけるマルチフェロイクス開拓」 第2回研究会
Place of Presentation
名古屋大学(愛知県・名古屋市)
Year and Date
2016-11-17
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[Presentation] 多層ディラック電子系における層間磁気抵抗の角度依存性2016
Author(s)
小川健太郎, 林頌也, 秋田百合香, 田嶋尚也, 川椙義高, 須田理行, 山本浩史, 加藤礼三, 西尾豊, 梶田晃示
Organizer
科研費基盤研究(A)「ディラック電子系物質におけるマルチフェロイクス開拓」 第2回研究会
Place of Presentation
名古屋大学(愛知県・名古屋市)
Year and Date
2016-11-17
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[Presentation] 分子性ディラック電子系におけるクーロン相互作用2016
Author(s)
林頌也, 小川健太郎, 秋田百合香, 田嶋尚也, 川椙義高, 須田理行, 山本浩史, 加藤礼三, 西尾豊, 梶田晃示
Organizer
科研費基盤研究(A)「ディラック電子系物質におけるマルチフェロイクス開拓」 第2回研究会
Place of Presentation
名古屋大学(愛知県・名古屋市)
Year and Date
2016-11-17
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