2013 Fiscal Year Annual Research Report
階層性と頑健性をもつ生命動態システムの解析基盤構築
Project/Area Number |
25287105
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小松崎 民樹 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (30270549)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
李 振風 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (90397795)
寺本 央 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (90463728)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 相空間幾何学 / 化学反応理論 / 1分子計測 / エネルギー地形 / 状態遷移ネットワーク / カオス / データ駆動型数理モデリング / 時空間階層 |
Research Abstract |
基礎研究では、力学系理論における標準形理論と呼ばれる方法に基づいて、反応座標(不安定な方向)が二つ以上存在する高次ランクサドル(2自由度系に対しては、一次ランクサドル=峠、二次ランクサドル=山頂)近傍のダイナミクスを評価し、それまで一次ランクサドルで成功していた標準形理論が、特に、高次ランクサドルでは標準形理論が反応の過去と将来の状態を分かつ遷移状態が正しく抽出できない場合があることを初めて明らかにした。化学反応、蛋白質の構造変形などのダイナミクスを理解し予測するためには、相空間中の流れの骨格を成し、摂動に関して頑健である安定(不安定)多様体の概念が極めて有用であることが、近年、明らかになってきた。しかしながら、その多次元空間中での構成は必ずしも容易ではない。定常ラグランジェ協同構造という新規な概念を導入し、背後に存在する運動方程式の形が未知の場合であっても、安定(不安定)多様体を抽出することを可能とする非摂動論的な構成法を新規に開発した。 応用研究では、1分子計測はS/N比が悪く、データの解釈に解析上のアーティファクトが現れる危険性がある。観測量と計測したい物理量の間には一般に非線形関係が存在するため、ノイズの非線形性を考慮に入れ、観測量から背後に存在する物理量の任意の関数を不偏推定する解析理論を開発した。キモトリプシン酵素加水分解反応、アデニレートキナーゼの分子認識の1分子FRET観察の光子パルス列のデータに適用し、その有用性を示した。分子の時系列データから、考え得るすべての状態遷移ネットワークにおいて、観測されたデータが保証していない情報がどれくらい組み込まれているかを定量化する新しい指標を考案し、その指標を最小化するネットワークを時系列データから抽出するデータ駆動型数理モデリング手法を開発し、一分子酵素反応の時系列データに応用し、その有用性を示すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基礎・応用研究を担当していた特任助教が10月に転出したため、平成25年度に計画していた基礎研究の一部の遂行が遅れがちであるが、その部分を除くと、概ね順調に進展しており、論文も着実に発表できた。また、平成26年度に予定していた、ハミルトニアンを直接知ることなく、運動方程式の時間発展演算子であるKoopman演算子と呼ばれる演算子の固有値、固有モードに基づいて、多次元時系列データから状態変化を支配する非線形モードを抽出する方法論の準備研究も進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
基礎研究では、多次元時系列データから水中における生体分子の状態変化を支配する非線形モードを抽出する方法論を開発し、抽出されたモードを通して構造変形に際して、反応を促進する場合、阻害する場合に特徴的な水のダイナミクスを調べる。また、応用研究では、光子統計誤差などの内因性ノイズを除去しつつ、時系列データから準安定状態(反応ネットワークの部分領域、モジュール)における局所平衡の成立の可否を検定し、ノイジーな蛍光共鳴エネルギー移動一分子計測データから背後に存在する状態遷移ネットワークを構築し、多重経路の存在を考慮に入れつつエネルギー地形を構成する方法論を構築する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
任期が切れるポスドクに対する人件費3,000,000円を予定していたが、ポスドクが転出できたこと、夏に転出が決まってからポスドクの公募を実施したが、公募時期がずれていたため、適任者が見つからなかった。結果として、3,162,399円が次年度使用額として生じた。 次年度使用額3,162,399円は9月に博士号を取得する予定の博士課程の院生を第一候補とし、ポスドクを雇用する経費に計上する。
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