2014 Fiscal Year Annual Research Report
内湾における無酸素水塊規模の将来動向予測と縮小へのシナリオ分析
Project/Area Number |
25289152
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 淳 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (50292884)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 崇之 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 准教授 (90397084)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 国際情報交換 / 東京湾 / 無酸素水塊 / 硫化物 / 環境再生 / 数値モデル / モニタリング / 底質 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年7月下旬から10月初旬まで東京湾奥部において,硫化物を含む無酸素水塊と底質に関する現地調査を実施した.平成26年度の夏期は無酸素水塊の発達が弱く,平場および浚渫窪地における硫化物濃度はあまり高い値をとっていなかったが,浚渫窪地においては相対的に高い値をとる等,空間分布を把握した.また,表層底質中の硫化物含有量,有機炭素・有機窒素含有量および含水比を測定し,湾奥部における平面分布を把握した.さらに,底質コア採取を実施し,過去30年スケールの底質堆積状態の把握を試みた.浚渫窪地は擾乱が小さく過去の堆積状態を把握するのに好都合と考えていたが,埋め戻しの影響と思われる不連続の堆積層が見られる等,課題もでてきた.一方,湾奥中央平場では予想通り連続的な堆積状況が捉えられた. 研究代表者らが開発している3次元流動・水質・生態系モデルTEEMをベースとした水底質長期予測システムのプロトタイプを構築した.開発した底質モデルは底質を多層に分割し,シルト・粘土粒子と懸濁態有機物の底質堆積過程を再現するものであり,底質中間隙水中の栄養塩や底質有機物含量,底質中含水比を含めた再現を目指したものとなっている.鯉渕ら(2000)による1999年の東京湾における水質モニタリング結果と比較することで水柱における水質再現性を検証し,両者の整合性を確認した.また,1999年の境界条件を50年間にわたって積分することで,底質形成過程を再現した.表層底質中の含水比や有機炭素含有量の平面分布に関して,計算結果と調査結果を比較することでモデルの検証を行い,両者の整合性を確認した.一方,数値モデルの課題として,底質からの栄養塩溶出が過小評価となることや,水柱における有機物生産のさらなるチューニングが必要なことが挙げられる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は平成25年度における手法の検討を踏まえ,東京湾における硫化物を含む無酸素水塊のモニタリングを実施し,データセットを構築することができた.また,表層底質採泥およびコア採泥に基づく底質分析も順調に実施することができ,表層採泥については含水比,有機炭素含有量,有機窒素含有量,および硫化物含有量に関して,東京湾奥部における平面分布を把握することができた. 予定していた,3次元流動・水質・生態系モデルTEEMをベースとした水底質長期予測システムのプロトタイプを構築することができた.既往の1年分の水質データセットとの比較を通した検証を踏まえ,1年分の境界条件ではあるが,それを50年間にわたって積分することで,底質が形成されていく過程を定性的には再現することができた.また,底質に関する現地調査結果との比較を通し,計算結果と観測値の整合性を確認しながら,課題を抽出することができた.
|
Strategy for Future Research Activity |
東京湾において,硫化物を含む無酸素水塊に着目した,貧酸素水塊の時空間動態モニタリングを平成26年度に引き続き継続する.平成27年度は東京都内湾における無酸素水塊についても調査を行う予定である.調査に際しては,千葉県水産総合研究センターの貧酸素水塊予測システムを活用することで,調査日における無酸素水塊発生域を予測し,効率的な調査手法を確立する.さらにエクマンバージ採泥器による表層採泥と柱状採泥器を用いた底質コア採泥を継続して実施し,その有機物含有量や放射能等を把握する.これにより,過去数十年スケールの底質変動の把握を試みる. 水底質に関する既往データや知見を収集し,過去数十年スケールの水底質変動に関するデータセットの構築を進める.さらに,河川流量等の河川に係わる諸量,海象変動に関するデータを収集整理し,水底質変動との関係について解析を進める.その結果として得られる知見と底質コアから得られる情報を整理統合することで,底質形成の時空間変動とその要因についての解析を進める. 研究代表者らが開発を進めている,シグマ座標系を採用した,3次元流動・波浪・水質・生態系・底質統合モデルTEEMの研究開発を進めていく.平成26年度までに開発したプロトタイプモデルをベースとし,プロセスベースの底質形成過程に関するモデル開発を進め,底質中の有機物含有率分布の再現や長期的な底質形成過程の再現を試みる.また,硫化物過程に関するモデル化を改良することで,平場における硫化物発生を含む,貧酸素・無酸素水塊の時空間動態に関する数値再現性を高める.これに加え,z座標系モデルをベースとした流動・水質・生態系モデルに簡易な底質系モデルを組み込むことで,浚渫窪地を主な対象とした硫化物や貧酸素・無酸素水塊時空間動態の再現が可能なモデルの開発を進めていく.
|
Causes of Carryover |
今年度は数値モデルのプロトタイプの開発に目処を付けたが,数値計算は一定程度の段階に到達するまで途中段階での成果発表が困難であった.そのため本格的な成果発表が次年度に持ち越しとなったため,研究成果発表に係わる経費が見込みより少なくなった.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は成果発表に係わる経費の支出が多くなる予定であり,その分を次年度使用額を当てることでまかなう予定である.
|