2014 Fiscal Year Annual Research Report
グラフト鎖内での無機化合物の沈殿生成を利用する極低濃度のイオンの除去用材料の開発
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25289274
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
斎藤 恭一 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90158915)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅井 志保 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力基礎工学研究部門, 研究員 (10370339)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 放射性物質の除去 / セシウム / ストロンチウム / 繊維状吸着材 / フェロシアン化コバルト / チタン酸ナトリウム / 担持 / 放射線グラフト重合法 |
Outline of Annual Research Achievements |
東京電力㈱福島第一原子力発電所では,メルトダウンした核燃料の注水冷却が続いている。注水冷却に使用した水から逆浸透膜(RO)モジュールを使って淡水を製造し,注水冷却に循環使用している。循環している水に,毎日400トンの地下水が山側から原子炉建屋に流入し混ざるために,ROモジュールの濃縮側から,毎日400トンの汚染水(この汚染水をRO濃縮塩水と呼ぶ)が発生する。また,東電福島第一原発の1~4号機取水口前の港湾(長さ400 m × 幅80 m × 深さ5 m)内に,原子炉建屋から漏出した汚染水の一部が流れ込んで16万トンの海水が汚染されている。 RO濃縮塩水および港湾内汚染海水中の放射性物質を,吸着材を使って除去する作業が汚染水処理である。処理方式には,ポンプを使って吸着材充填装置に汚染水を流通させる方式と汚染水へ吸着材を直接投入後に回収する方式とがある。汚染水処理後には放射性物質を吸着した吸着材は放射性廃棄物として保管する必要があるので,減容できる吸着材であることが望ましい。 本研究では,さまざまな汚染水の処理に融通がきく吸着材の形態として繊維に着目した。2011年3月のメルトダウン事故の直後から,市販の6-ナイロン繊維(以後,ナイロン繊維)を出発材料にして放射線グラフト重合法を適用して,セシウムとストロンチウムの除去のための吸着繊維を作製してきた。セシウムの除去には,不溶性フェロシアン化コバルト担持繊維,ストロンチウムの除去には,チタン酸ナトリウム担持繊維を作製した。繊維表面にそれぞれの無機化合物が液中に欠落しない構造をつくれるような作製経路を見出した。また,市販の粒子状吸着材と吸着性能を比較し,「簡便,確実,しかも安全に」汚染水処理のできる吸着材であることを実証してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
福島第一原子力発電所の1~4号機取水口前の海水エリア(縦 80 m,横400 m,深さ5 m)の汚染海水を,汲み上げることなく,「簡便,確実,しかも安全に」除染するために,放射性物質に対して海水中で選択吸着性を示す吸着繊維を使う作業を本研究は提案している。吸着繊維を成型して組み紐にした繊維集合体を1~4号機取水口前の海水に投入・浸漬し,吸着が平衡に達したところで回収して,放射能遮蔽容器に保管するという汚染水処理システムである。汚染海水からセシウムを除去するための吸着繊維は,すでに2014年12月から福島第一原発の遮水壁開口分に試験的に設置され,2015年1月から二ヵ月おきに繊維に吸着した核種の分析が実施されている。 このように,大学の研究室で開発した吸着繊維の性能が認められ,ベンチャー企業での量産に移行し,最終的に,福島第一原発の汚染水処理の現場での試験採用に至っている点から,計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
海水中にはストロンチウムと同族のマグネシウムやカルシウムも高濃度で溶存している。特に,カルシウムイオンはストロンチウムイオンの最強の競合イオンである。カルシウムイオンに対してストロンチウムイオンの選択吸着性が高い吸着繊維を作製するには,ストロンチウム除去用吸着繊維であるチタン酸ナトリウム担持繊維の担持量を高める必要がある。また,汚染海水から放射性ストロンチウムを除去するには大量の(例えば,3600トン)の吸着繊維が必要になるため,量産の立場から吸着性能を低下させることなく,簡単な作製経路や温和な反応条件の探索が要請される。 これまでに,チタン酸ナトリウム担持繊維の作製には,つぎの2つの経路を提案してきた。(1)カチオン交換繊維にチタンカチオン種を吸着させた後,チタン酸さらにチタン酸ナトリウムへ転化する経路,および(2)アニオン交換繊維にチタンアニオン種を吸着させた後,チタン酸ナトリウムへ転化する経路である。グラフト鎖内に析出するチタン酸ナトリウムの表面電荷はマイナスであるので,グラフト鎖にプラスの電荷をもたせることができる後者の作製経路がチタン酸ナトリウムのグラフト鎖からの欠落は少なく有望である。 今後は,上記の作製経路(2)での最終工程の反応条件をより温和にすることをめざす。水酸化ナトリウム溶液の濃度およびその溶液中の水/メタノール混合比率を変えて,チタン酸ナトリウム担持繊維を作製し,海水中でのストロンチウム吸着性能を調べる。さらに,市販のストロンチウム吸着材であるSrTreatと海水中でのストロンチウム吸着等温線を比較して,吸着繊維の優位な点を明確にする。
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Research Products
(21 results)