2014 Fiscal Year Annual Research Report
仲間識別感覚の分子基盤と社会階級・社会形態による行動特性の形成
Project/Area Number |
25291073
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
尾崎 まみこ 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00314302)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐倉 緑 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (60421989)
尾崎 浩一 島根大学, 生物資源科学部, 教授 (90194539)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 動物行動 / 神経科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
高度な社会の形成・維持には個体間の綿密なコミュニケーションが不可欠である。本研究では社会性昆虫であるクロオオアリを用いて、様々な社会行動を示す働きアリと目立った社会行動を示さない雄アリの間で差が認められる化学コミュニケーションに関わる遺伝子の網羅的な発現解析を行い、個体間コミュニケーションを支える機能分子を特定することで、動物社会の形成を分子レベルで解明することを目的とした。 平成26年度は、クロオオアリのドラフトゲノムを解読し、配列情報から化学感覚関連遺伝子を網羅的に探索した。また、主要な化学感覚器である触角のRNA-seq解析を行い、雌雄間の発現比較から個体間コミュニケーションに関わる遺伝子を抽出した。さらに、qRT-PCR, in situ hybridization等により、抽出した遺伝子の発現動態をより詳細に解析するとともに、アフリカツメガエリルの卵母細胞発現系をもちいた電気生理実験やリコンビナントタンパク質をもちいたリガンド結合実験により、各遺伝子の機能的同定を目指した。 次世代シークエンサーを用いて得られたクロオアリのドラフトゲノムに対し入念なマニュアルアノテーションを行っタ結果、約500の化学受容体遺伝子と約30の匂い結合タンパク質遺伝子を同定することができた。RNA-seq解析より、雄と比べて雌の触角に多く発現している嗅覚受容体(ORs)150遺伝子を見出し、それらの分子系統解析の結果、雌で多く発現するORsはハチ目で特徴的に多様化したクレード内に含まれることがわかった。これらORsの合成cRNAをアフリカツメガエル卵母細胞に注入し電気生理実験を行ったところ、雌に多く発現するORsはアリの個体間コミュニケーションに重要な体表炭化水素の受容体である可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クロオオアリの巣仲間識別に関わる特有の感覚子に注目した本研究で、次世代シーケンサデータの入念な解析を行い、匂い受容体486遺伝子を同定することができた。さらに雌雄触角での発現量解析から、このセンサ内で発現する匂い受容体候補として150遺伝子を見出した。また候補遺伝子の全長クローニング、cRNA合成を行い、アフリカツメガエルの卵母細胞発現系をもちいた電気生理学実験法を確立した。このような基礎固めが功を奏して、今後電気生理学実験を精力的に行うことで、識別センサ内で働く受容体遺伝子を機能的に同定するとともに、センサユニット内の神経細胞における各受容体遺伝子の発現様式を明らかにすることで、生物が持つ多重化学成分識別機構の解明を目指す事ができる段階に達している。 このように、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究で、獲得したゲノムおよびRNAseqデータをより詳細に解析することで、量質ともに、これまでに発表されている他の昆虫のNGSデータに引けをとらない、配列・発現データを得ることができた。今後の展望として、得られた正確なNGSデータから着目すべき各遺伝子の合成cRNA、リコンビナントタンパク質をもちいた機能解析に本格的に取り掛かることができるようになり、本研究は新たなステージへと着実に進みつつある。今後は分子進化および機能解析を中心に研究を進めていく予定である。 平成26年度を中心に解析した化学感覚タンパク質の分子進化・発現解析のデータを原著論文としてまとめ、現在国際誌に投稿中である。この論文を公表した後、今年度中に遺伝子の同定と解析結果、in viv, in vitiroの電気生理学滝実験結果、免疫組織染色あるいはin situ hybrifizationによる発現局在の解析結果を含め、化学受容タンパク質の論文をまとめていく予定である。
|
Causes of Carryover |
当初、備品としてクリーンベンチの購入を考えていたが、研究室内に設置する床面積が確保できないことが分かり断念した。必要な時には他研究室のクリーンベンチを借用している。また、当初、培養細胞に受容体遺伝子を発現させカルシウムイメージングによって各受容体の機能評価を行う装置の整備を考えていたが、同等の実験をアフリカツメガエル卵母細への遺伝子導入に切り替えて実施することにしたため、カルシウムイメージング用の整備費はかからずにすんだ(ただし卵母細胞実験用のクランプ装置が必要だったのでこれは購入した)。さらに、クロオオアリ巣仲間識別関連の受容体遺伝子候補の同定を確実に行いたかったので、その分研究計画が遅れ気味になり、抗体作成などに必要な費用が次年度使用へ回された。現在、目的の遺伝子候補を確実に同定できたので、次年度に計画の遅れを取り戻すことができると考えている。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
クロオオアリ巣仲間識別関連の受容体遺伝子候補を150同定できたので、有力な候補分子を標識する抗体作成費(約50000円/抗体)に使用する予定である。
|
-
-
-
-
-
-
-
[Presentation] “Sensory system for nestmate-nonnestmate discrimination of ant, Camponotus japonicus: Receptor molecules and neurons2014
Author(s)
Ozaki M, Takeichi Y, Hojo M, Ishii K, Sakura M, Shigenobu S, Ozaki K, Yasuyama K, Miyazaki N, Murata K
Organizer
11th International Congress of Neuroethology
Place of Presentation
Sapporo, Japan
Year and Date
2014-07-29 – 2014-08-01
-
-
-