2014 Fiscal Year Annual Research Report
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25293154
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
矢野 栄二 帝京大学, 大学院公衆衛生学研究科, 教授 (50114690)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 石綿 / 肺がん / クリソタイル / トレモライト / 繊維サイズ / 電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中国重慶の石綿工場における30年以上にわたる追跡調査の結果を用いて、石綿の発がん性における、3つの論点Amphibole Hypothesis, Textile Mystery, Chrysotile/Tremolite Paradoxを検討するものである。 第1の石綿のAmphibole Hypothesisについては、ほとんどChrysotileだけの曝露であるにもかかわらず、577人の作業者の計17,507人・年の観察で全がん96人、肺がん53人、悪性中皮腫2人が観察され、石綿の発がんをAmphiboleだけに帰するこの仮説は否定されると考えた。ただ、特に悪性中皮腫が対肺がんでは少なく、肺がんと中皮腫の発生メカニズムの差、特にプロモータとしての喫煙の両疾患における役割が問題になると考えられた。 第2に石綿繊維工場と原料の石綿鉱山では同程度の曝露レベルであっても、繊維工場の方でがんが多いということについては、先行する米国や英国からの報告と同様のTextile Mysteryが成立したが、高曝露群においては両者の差がみられずいずれも高い率でのガンの発生が確認された。ここには作業環境の曝露濃度を石綿繊維本数ではなく作業環境中の粉じん重量濃度から一定の係数を用いて石綿等価本数濃度に換算して評価に用いているが、こうした換算が妥当であるという保証はない。 第3のChrysotile/Tremolite Paradox、すなわち専らChrysotileのみを取り扱っており作業環境中にはほとんど観察されないAmphibol系のTremoliteが、作業者の肺組織中では圧倒的な比率を占め、逆にChrysotileはほとんど観察されないという現象は当該工場でも見られた。この点については現在論文を投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
石綿研究は、論点2Textile Mysteryに関して2年目の終了までには外国人である研究代表者や作業感染測定チームが直接鉱山に入っての調査ができず、中国側の協力研究者に任せるしかないという困難があったが、引き続き交渉を続ける予定である。それ以外の現地での調査の実施可能な内容はすべて終了した。現在残されたことは、上の石綿鉱山に赴いての、現場での確認と石綿のサイズ種別分析の論文を再投稿により学術誌に掲載発表することである。一方、背景情報を整理するために始まった大気中粒子状物質濃度についての研究は引き続き進行しており、東京の20年以上にわたる浮遊粒子状物質濃度やPM2.5濃度の推移とその減少の原因の分析、海外との比較に加え、中国からのPM2.5の越境汚染や火山灰の問題など、次の発展につながる研究課題が明らかになってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在研究全体をまとめる総説論文を執筆中である。論点の3番目であるChrysotile/Tremolite Paradoxに関連して、電子顕微鏡による作業環境中の石綿繊維のサイズと種別解析は論文を再度投稿中である。 また派生的に始まった一般大気環境の粉じん=粒子状物質の濃度についての研究は都市部の測定局データを用いた研究に加え、噴火が持続している鹿児島県桜島での現地での測定を行い、喘息患者などハイリスク集団への影響と対策のための予備的調査も開始する予定である。本研究により、効果的な石綿防護策も開発できることと考える。
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Causes of Carryover |
引き続きであるが、中国石綿鉱山訪問と作業環境中石綿濃度測定、中国側研究者との打ち合わせや確認が先送りになっている。また、投稿論文の査読、掲載決定に予定以上の時間がかかっており、掲載料、別刷りの支払いが繰り越しになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度中に当初計画は完遂するとともに、次の段階の研究を準備する予定である。
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Research Products
(4 results)