2013 Fiscal Year Annual Research Report
タジキスタン拝火教遺構の発掘調査及び阿弥陀仏の起源としてのミトラ神についての研究
Project/Area Number |
25300041
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Section | 海外学術 |
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
蓮池 利隆 龍谷大学, 仏教文化研究所, 客員研究員 (50330022)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 至弘 龍谷大学, 理工学部, 教授 (30127063)
佐野 東生 龍谷大学, 国際文化学部, 教授 (60351334)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 国際研究者交流 / タジキスタン / ゾロアスター教 / 阿弥陀仏信仰 / トハーラ |
Research Abstract |
タジキスタンのカラ・イ・カフィルニガン遺跡における5月の発掘調査では、城砦址の外壁を確認するために遺跡の北西側を発掘した。その結果、外壁遺構は確認することができず、カフィルニガン川側に向けて東に下降する緩やかな斜面を検出することができた。この斜面層は7から8世紀の床面と同じものと見られる。このことから城砦は川の増水による氾濫で削られたことが想定できた。もとの城砦は現在の遺跡の範囲より川岸に向けて広がっていたようで、遺跡全体が川下の南方向へ傾斜し、南西部分の小高い丘の手前に溝状に窪地があることも氾濫の痕跡と考えられる。 この城砦址において、2007年度から2013年度までに十数体の小型塑像と2点の塑像型を得ることができた。2013年度末のタジキスタン国立博物館における調査では12体の小型塑像と2点の塑像型を3Dスキャナーで計測し、詳細なデータを入手した。具体的には、ネクスト・エンジン社の3Dスキャナーを使用し、資料一点につき縦横2面を各22.5度の十六方向から測定した。レザー測定の速度は最も遅い高精度の設定で実施したため、一体につき約3時間を要した。理工学部との連携作業によって、3Dで表示できるPDFファイルに変換して広く公開する予定である。これまでの調査ではカラ・イ・カフィルニガンの都城遺跡を発掘してきたが、今年度より新たに仏教僧院遺跡とみられる場所に移動して発掘調査を継続することとなった。2・3月の調査ではヒサールの城砦遺跡周辺に位置する石窟寺院を視察し、周辺の遺跡との関連性についても検討をおこなった。玄奘三蔵『大唐西域記』にも若干の記述が見られる遺跡であり、当時の仏教文化の一端を明らかにすることができるものと期待される。現在、来年2014年度内の完成を目途に、2007年から2013年までのカラ・イ・カフィルニガン遺跡で実施した調査に関するカタログを作成中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
カラ・イ・カフィルニガン遺跡では1970年代の発掘調査で仏教寺院址が発見されており、7世紀前後に中央アジアの仏教がどのような文化的背景の中で展開してきたかを明らかにすることができるものと期待されていた。そして、これまでの発掘によって仏教とゾロアスター教の習合を明らかにすることができた。2007年以降、3ヶ所の遺構を発掘する中で、ゾロアスター教施設の存在、及びそこで信仰されていた神像を検出することができた。中心に基壇がありその周囲に回廊を伴ったゾロアスター教方形拝殿(チャルタク)からは複数の炉址を検出し、それに付属する施設である厨房や居住空間、水浴施設などからなる複合施設(コンプレックス)を構成していることが明らかとなった。この拝殿の発見により、1970年代発見の仏教寺院遺構が同じく回廊を伴う方形の構造であり、ゾロアスター教施設から転用されたのではという従来から提起されていた仮説を裏付けることとなった。また、2007年度から2013年度までに十数体の小型塑像と2点の塑像型を得ることができた。これらの資料を検討した結果、ミフル神(インドではミトラとして知られる神格)とヴァルナ神に相当する二つの神格を確認することができた。幸いなことに、2点の塑像型はそれぞれ両神格を表すものと考えられる。ミフル神はクシャーン朝コインの歴代王の刻印に類似するポーズをとる。片手を拝火壇に差し伸べる姿である。ヴァルナ神は片手に半月を掲げたポーズである。インド神話においてはミトラとヴァルナは双子のアスラ族であり、それぞれ日天と夜天を司る。インド・イラン語族に属するイランにおいてもこの双子の神は主要な神格として展開したと考えられており、仏教とゾロアスター教の交渉を考えるうえでも重要な発見である。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年までのカラ・イ・カフィルニガン遺跡発掘調査を終了して、今年度よりドシャンベから西30キロ・メートルほどにあるヒサールへと現場を移動する。昨年度末には現地の視察調査を実施している。カラ・イ・カフィルニガン遺跡に比較すると、ドシャンベからの行程はほぼ半分であり、車で40分程度の距離である。ヒサールは19世紀ころに城砦都市として栄え、現在ではその遺構がタジキスタンでも有名な観光名所として知られている。城の前にはイスラーム寺院が博物館として改装され、隣接してキャラバンサライ(宿泊施設)の遺構もある。歴史的に遡れば、玄奘三蔵『大唐西域記』第一巻に記録されるトカラの故地の一つであるシュマーン国であったと考えられている。玄奘三蔵はトカラの故地27カ国について記述しているが、その中の8カ国がタジキスタン国内に位置し、その中の愉漫(シュマーン)国については「愉漫国は東西四百里、南北百余里。国の大都城は周十六、七里。其の王系は素と突厥なり。伽藍二箇所。僧徒寡少。」と記されている。視察調査の寺院遺構は城砦遺跡から南西へ2~3キロ・メートルほどの場所であり、市街地から遠からず近からずの位置である。周辺にはクシャーン朝の墓地跡や中世ころにイスラーム寺院に改築されたゾロアスター教寺院などがあり、都市周辺の宗教施設群の特徴を示している。崖に洞窟として掘り込まれた遺構が二箇所あり、すでに昨年より発掘を始めている。それぞれ幅4メートル前後で奥行きは10メートル前後、かまぼこ型の窟で、一番奥には半円形のニッチ構造が認められる。幅20~30センチ・メートル、高さ50センチ・メートルほどの基壇が設けられている。新たな発掘現場でもあり、測量の基準点となる三角点を調査して、衛星写真との照合も行いたい。また、発掘前の地形を測量して基礎的地形図の作成もしておきたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究分担者である岡田教授の支出が少なかったことによる。 円安にともなう海外謝金への補填に使用する予定。
|
Research Products
(10 results)
-
-
-
[Journal Article] 敦煌文書の科学分析2013
Author(s)
岡田 至弘
-
Journal Title
2013 3rd International Symposium on Conservation of Cultural Heritage in
Volume: 1
Pages: 23-26
Peer Reviewed
-
[Journal Article] 初唐の上質麻紙について2013
Author(s)
岡田 至弘
-
Journal Title
2013 3rd International Symposium on Conservation of Cultural Heritage in
Volume: 1
Pages: 256-257
Peer Reviewed
-
-
-
-
-
-