2014 Fiscal Year Annual Research Report
タジキスタン拝火教遺構の発掘調査及び阿弥陀仏の起源としてのミトラ神についての研究
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25300041
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
蓮池 利隆 龍谷大学, 仏教文化研究所, 客員研究員 (50330022)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 至弘 龍谷大学, 理工学部, 教授 (30127063)
佐野 東生 龍谷大学, 国際文化学部, 教授 (60351334)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / タジキスタン / ゾロアスター教 / 阿弥陀仏信仰 |
Outline of Annual Research Achievements |
8月の発掘調査では、昨年度2・3月に予備調査をおこなったタジキスタンのヒサール城砦遺跡周辺、城砦から南西へ2~3Kmほどの場所に位置する石窟遺構の測量と隣接する空き地(イスラーム墓地)の発掘調査を実施した。ヒサール城砦はブハラ・ハン王国(16C~20C)の遺跡とされているが、それ以前から交通の要衝として栄えていた。今回の調査中にも城砦内の泉周辺の沼地からヘレニズム様式の直径70cm、高さ100cmの柱頭部分が出土し、ヒサール遺跡の起源が紀元前後のグレコ・バクトリア期にまで遡ることが明らかとなった。 前述の二つの石窟遺構は、両者とも崖面の南西斜面に入口があり、方向角55°で6mの間隔、横断面がカマボコ状の半円形で、床部分が幅3m、高さ約2mである。奥行は、北にある窟が約20m、もう一つの窟が約25mで、全体的にわずかに奥の方が高くなるように開鑿されている。壁画などは残されていず、仏像を安置するための中心柱も見られないが、一番奥には高さ70cmと80cm、奥行約50cmの壇が設けられ、その上は半円形の龕となっている。この壇と龕による構造は西域北道の石窟寺院の後室と同じである。中心柱はイスラーム期に撤去された可能性もあり、石窟寺院の伝播を考える上での重要な遺構として評価できる。 石窟遺構の周辺にある空き地はイスラーム期以降、墓地として使用されているが、クシャーン朝期やトハーラ時代の遺跡であったと考えられ、僧院址であった可能性も指摘されている。4900㎡と1200㎡の二か所で地形図作成のための測量を実施した。前者で1100、後者で320の測点を観測し、等高線の自動算定ソフトで地形図の基本的部分を完成させている。それぞれの空き地で3m×6mの試掘溝を地表より2m程度の深さまで掘り下げた。衛星写真との照合のため、衛星写真で確認可能な電柱などの目標物の座標もあわせて記録する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究では、タジキスタンから出土したテラコッタ小像の中にトハーラ期において信仰された二つの重要な神格が描かれていたことを明らかにした。それからの発展的研究として、年度末に平成29年度科研費からの前倒しでオープン・キューブ社の積層造形法3Dプリンター(SCOOVO-X9)を導入。全ての3Dデータは理工学部の岡田教授に処理を依頼し、PDFファイルとしてインターネットに掲載していたが、より具体的なレプリカとして提示したいと考えたからである。レプリカによって二つの神格が太陽と月に深く係わっていたことがより明確に理解できると考えている。 この二つの神格は、当該研究題目「タジキスタン拝火教遺構の発掘調査及び阿弥陀仏の起源としてのミトラ神についての研究」で検討しなければならない文献資料との比較・対照においても重要な意味を持つ。研究代表者は阿弥陀仏信仰発祥の地と考えられる中央アジア現地調査と並行して文献資料についての研究も進めてきた。阿弥陀仏信仰の基礎的文献資料である梵文『無量寿経』を、既存の研究に束縛されない形で通読し、その文化的背景と深くかかわる表現内容を検討してきたのである。その中でも先ず、使用語彙約4200語の中でプルシャという言葉に注目した。サンスクリットにおいても、プルシャはアーディトヤと呼ばれる一群の神格であり、太陽や月と深いつながりがあることが知られている。一方、これまでの『無量寿経』解釈では人間を表わす言葉として、ナラ、マヌシャ、プルシャが考えられており、プルシャについては「丈夫」という漢訳が当てられてきたものの、ほぼ同じ人間を表わすものと解釈されてきた。しかし、梵文『無量寿経』を通読するの中、プルシャは神格としての特質を持つことが示唆されていることが分かった。タジキスタンの習俗についても国際文化学部佐野教授と連携して、先に述べた二つの神格との係わりを考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
中央アジア調査は当該研究においてすでに第三次になる。平成17年から平成20年までが「中央アジア(タジキスタン)における仏教と異思想の交渉に関する調査・研究」、平成21年から平成24年までが「タジキスタンにおけるゾロアスター教遺構の発掘調査及び仏教との交渉についての研究」、そして平成25年からが「タジキスタン拝火教遺構の発掘調査及び阿弥陀仏の起源としてのミトラ神についての研究」である。それらの中央アジア調査も残り3年となるにあたって、これまでの統括的研究を進めていきたい。課題の変化が示すように、ゾロアスター教に焦点をあてた研究から、それを背景とした仏教文化の展開、さらには阿弥陀仏信仰へと具体化してきた。これからの3年間は阿弥陀仏信仰を中心に考察を進める。 昨年度計測した石窟遺構の測量データも岡田教授に依頼、3D画像として提示し、一番奥の壇と龕から構成されるニッチ構造については3Dプリンターを使ってミニチュア模型を作成する予定である。西域北道に散在する石窟寺院の構造と比較する材料ともなり、さらには石窟寺院形式の伝播を考える上で重要な資料となるだろう。 また、過去十年間の発掘調査報告をまとめ、写真と図版を加えて出版することにしたい。カラ・イ・カフィルニガン遺跡発掘調査は平成18年度の地下レーダによる予備調査から平成25年度発掘調査までの8年間にわたって実施してきた。すべての記録・資料を公開することによって、これまでに十分な研究がなかった中央アジアの文化的背景についての情報を提供できるものと考えている。各年度の調査報告を網羅した報告書を作成し出版する予定である。これと関連して、出土文物の図録を作成・出版する予定である。本年度、タジキスタンにおいては図録集を出版している。ただし、ロシア語版であり部数も限られているので、これを日本語版として来年度末を目途に作成・出版したい。
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Causes of Carryover |
91735円の繰り越しは、今年度において3Dプリンタ購入のために研究成果の出版を見送ったために発生したものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度中に現地発掘調査についての過去8年間の報告書を出版する予定であり、その支出に充てたいと考えている。
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Research Products
(6 results)