2015 Fiscal Year Annual Research Report
タジキスタン拝火教遺構の発掘調査及び阿弥陀仏の起源としてのミトラ神についての研究
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25300041
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
蓮池 利隆 龍谷大学, 仏教文化研究所, 客員研究員 (50330022)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 至弘 龍谷大学, 理工学部, 教授 (30127063)
佐野 東生 龍谷大学, 国際文化学部, 教授 (60351334)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 東洋史 / 阿弥陀仏信仰 / ゾロアスター教 / ミトラ神 / 唯識思想 / 如来像思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
3Dプリンターによる復元は一体の作業に5~6時間を要する。また、出土したままの未補正の状態では一般への提示には説得力を欠くと思われる。これらの理由から補正・欠損部補修を加えた陶土素焼きのレプリカを作成した。基本的処理については理工学部岡田教授から教示を得た。 菩薩像の一部補正を加えたレプリカは作成済みである。工程としては、先ず3Dプリンターで作成したプラスチック製のレプリカを加工する。薄れた輪郭、例えば眉根やまぶた、唇などをヤスリ等で刻む。また、鼻梁などの磨滅した部分はエポキシ樹脂系のボンドで盛りあげ、成形する。この補正済みプラスチック・レプリカから工芸用簡易陶土(ヤコ・オ-ブン陶土「紅陶」瀬戸産蛙目粘土使用)を使用して、型を作成する。焼成加工すれば何度も塑像を成型することが可能となる。復元塑像には以下の文書を添付して配布している。 「タジキスタン出土吐火羅菩薩(原寸大一部補正)科研費(課題番号25300041)助成による成果発表、吐火羅(トハーラ)は中央アジア一帯の古い呼び名で、トハーラ族の故地でした。クシャーン朝やソグド商人もその子孫です。タジキスタン出土の遺物(8世紀前後)は仏教美術にも影響を与えたと思われます。3Dスキャナーを使って原像を作成し、一部補正を加えて型を取りました。表面の図は補正前のものです。型で耕作用オーブン陶土を加工して180度で40分焼成しました。」 また、神像の欠損部補修を加えたレプリカについては、頭部が欠けているミトラ塑像と同遺跡から出土したミトラ神像(完形)の頭部を合成して作成する。ただしその工程の途中にあり、WebサイトからフリーソフトAutodesk Mesh mixer をダウンロード、二体の塑像の3Dデータ(stlファイル)から合成した神像を作成している。3Dプリンターのソフトにもデータを読み込ませ、作成可能な段階にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究題目「タジキスタン拝火教遺構の発掘調査及び阿弥陀仏の起源としてのミトラ神についての研究」に挙げたミトラ神は、仏教では良く知られた弥勒菩薩、「弥勒」の語源である。弥勒に対応する梵語マーイトレーヤがミトラから派生した語であることは言語学的に確かめられている。さらに音写による訳語「弥勒」がミトラのイラン語形ミフルから転訛したミーローであることには注目すべきである。そのような弥勒菩薩が『無量寿経』においては、釈尊の教法を後世に伝えるために委託(付嘱)する相手となっている。さらには同経中、ゾロアスター教の留置天(ハミスタガーン)と関わると思われる疑城胎宮の教説は釈尊と弥勒菩薩の対話の中で示される。ここに、弥勒という語をゾロアスター教との関連を示す指標として想定できるように思う。クシャーン朝下の宗教的背景が大きな影響力をもっていたことを考慮すれば、阿弥陀仏信仰という限定された問題としてではなく、大乗仏教という大きな枠組みの中でゾロアスター教との交渉を考える必要がある。その指標として弥勒という語を想定することができる。 本来、大乗仏教の教義において、最初から深遠で精緻な教義が展開したとは考えられない。仏教が異宗教と出合い融合する。それによって、多くの人々が仏教に帰依することとなる。そして、仏教と異思想が融合するとき、当然のこととして不整合面が生じたことであろう。その矛盾を止揚(会通)するために深遠で精緻な教義が展開したのである。例えば、華厳教義には「三界虚妄但是一心作」の所説に基づき、全てが心からの顕現であるとする。汚染された衆生と清浄なる仏とは同じく一心の現れに他ならないと説くのである。あるいは、その汚染と清浄の二元性はさらに精緻さを加えて、縁起と性起の教義へと展開する。これがゾロアスター教の善悪二元論と仏教が融合、その止揚・会通の結果だと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
阿弥陀仏の起源としてミトラ神を挙げて進めてきた研究ではあるが、ここに至って、ゾロアスター教の影響が大乗仏教全般に関わることが明らかとなってきた。そのような中、2012年に、国際文化学部佐野教授のイラン調査に同行した際、コム宗教大学(イラン)付属図書館において『ブンダヒシュン(原初の創造)』のデジタル資料を入手していたことが今後の方策として意味を持ってきた。佐野教授からはイスラーム・シーア派とゾロアスター教との関連性についての指摘を受け、ゾロアスター教文献研究の必要性を感じているところでもあった。現在、『ブンダヒシュン』の翻字・転写、及び和訳を進めている。この文献は、ゾロアスター教の天地創造譚であるために固有名詞が多用されており、文体としても冗長な印象を受けるものの、随所にゾロアスター教の教義を垣間見ることができる。特に重要な概念として多用されるのが「混合」である。アフラマズダーによる原初の創造においては善であったものに、邪悪さが混入されることで混合物としての現実世界が創造されたと説くのである。イスラームでは人間は誕生した時点では善なるものであり、大人になるにしたがって悪に染まっていくと説く。この点にイスラームとゾロアスター教の共通点を見出すことができる。しかし、さらに重要なのは大乗仏教にも同様な教義があることである。無着・世親の唯識思想では依他起性・遍計所執性・円成実性の三性説が説かれる。縁起によって生起した依他起性が執着によって汚染されて遍計所執性となり、執着を滅することであるがままの真理としての円成実性になる。この見方は4世紀前後において如来蔵思想へと展開する。以上の観点から、イスラームの神秘主義と仏教の如来蔵の共通点を今後の研究課題とすることもできるであろう。国際文化学部ではイランのイスラーム系大学との交流を図っているがその重要なテーマともなるのが神秘主義である。
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Causes of Carryover |
中央アジアにおけるIS組織の活動拡大にともない、タジキスタンにおいても治安面での問題が生じている。現地における発掘調査は様ざまな点で危険をともなうため、昨年度から実施を見合わせている。このため、発掘作業員と研究者への謝金支出が0円となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでの発掘で出土した文物とタジキスタン博物館展示品の3Dデータを収集するために約120万円の3Dスキャナーを購入する。タジキスタンにおける調査はドシャンベ市内の博物館内において継続して実施する。
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Research Products
(12 results)