2013 Fiscal Year Research-status Report
黄砂の簡易トレーサーとしてのリチウム同位体の有効性評価
Project/Area Number |
25340100
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
坂田 昌弘 静岡県立大学, 付置研究所, 教授 (20371354)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 黄砂 / 越境輸送 / リチウム同位体 / 化学トレーサー / 人為発生源 |
Research Abstract |
本研究では、黄砂の簡易トレーサーとしてのリチウム同位体(δ7Li)の有効性を評価するため、まず日本の大気エアロゾルの主要な構成成分である人為発生源からの各種粉じん(石炭灰、ごみ焼却灰、自動車粉じん、日本の表層土壌、中国黄土)について、Li濃度、Li濃縮係数およびδ7Liを測定することにより、それらの発生源データを取得した。その結果、Li濃度は、石炭灰試料だけが著しく高い値を示したが、それ以外の試料は地殻の平均濃度に近い値であった。また、Li濃縮係数は、ごみ焼却灰、日本の表層土壌および自動車粉じん試料は約1であり、石炭灰および自動車粉じん試料は2~3の値であった。一方、δ7Liは石炭灰および日本の表層土壌試料の多くは、中国の黄土試料とともに負の値を示したが、ごみ焼却灰および自動車粉じん試料はいずれも正の値であった。 次に、長崎県松浦市で採取された大気エアロゾル試料(約2週間連続捕集)のLi、Al濃度およびδ7Liを測定し、それらの変動要因を解析した。その結果、大気中のLi濃度とAl濃度は類似した月別変化を示し(r2=0.85, p<0.001)、黄砂の出現により3、4月に著しく増大した。また、冬季のエアロゾルには高いLi濃縮係数と高い正のδ7Liが観測された。後方流跡線解析により、冬季における大気エアロゾルはほぼ全て中国北部(北緯30度以北)から輸送されてきたことがわかった。これらの結果は、冬季における高いLi濃縮係数と高い正のδ7Liの原因が、中国大陸から輸送された土壌粒子、すなわち黄砂にあることを示唆している。このことから、黄砂発生地域である中国大陸内部の乾燥地域では、岩石風化により地下水中に7Liが6Liよりも優先的に溶出し、大気の乾燥化に伴う地下水上昇により土壌表層にLiを含む塩(炭酸塩や岩塩)が析出した可能性が考えられる。平成26年度は、本仮説の妥当性について検証を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画に沿って実施することができ、当初に期待された成果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に測定を行った大気エアロゾルは、約2週間連続捕集されたものであり、その間にエアロゾルはアジア大陸の広い地域から輸送されてくるため、試料中の黄砂粒子とその発生地域を個別に対応させることは困難である。そこで、平成26年度は、長崎県平戸市の観測地点(連携研究者が設置・管理)で24時間捕集した試料について測定・解析を行う。また、中国大陸内部における同位体比の地域分布が明らかとなり、黄砂トレーサーとしての有効性が報告されているSr・Nd同位体について、MC-ICP-MSによるそれらの精密測定に必要な分離条件や最適な測定条件を検討する。
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