2014 Fiscal Year Research-status Report
黄砂の簡易トレーサーとしてのリチウム同位体の有効性評価
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25340100
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
坂田 昌弘 静岡県立大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (20371354)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 黄砂粒子 / 越境輸送 / リチウム同位体 / 化学トレーサー / ストロンチウム同位体 / 後方流跡線解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年度に測定を行った大気エアロゾルは、約2週間連続捕集されたものであり、その間に黄砂粒子がアジア大陸の広い地域から輸送されてくるため、試料中の黄砂粒子とその発生地域を個別に対応させることは困難である。そこで、平成26年度は、両者の対応が可能かどうかを判断するため、長崎県平戸市の観測地点(連携研究者が設置・管理)において、黄砂粒子の輸送量が増大する2012年3月7日から3月21日に24時間捕集された試料を用いて、存在形態別Li濃度(1%HNO3可溶性およびHF可溶性Li濃度)とそのLi同位体比(δ7Li)を測定した。 その結果、1%HNO3可溶性Li濃度と総Li濃度には、大きな日間変動が存在し、総Li濃度に対する1%HNO3可溶性Li濃度の割合は、8~40%の範囲内で変動していることがわかった。また、1%HNO3可溶性LiとCa濃度間には正の相関(r2=0.40, P=0.016)があることから、Liはエアロゾル中の炭酸カルシウム相に存在していることが示唆された。一方、HF可溶性Liは、ケイ酸塩鉱物の主要元素であるFe(r2=0.95, P<0.001)やAl(r2=0.92, P<0.001)との濃度間に高い正の相関が認められた。このように、大気中のLiは、濃度だけでなくその存在形態も日間で大きく変動していることがわかった。現在、1%HNO3可溶性およびHF可溶性Liのδ7Liの測定を行っており、その結果を基に両者の値に明確な違いがあるのかどうかを明らかにする。また、後方流跡線解析の結果(実施済み)と併せて、それらのδ7Liの日間変動が黄砂粒子の発生源や輸送経路に関係付けられるのかどうかを調べる。 その他、平成26年度には黄砂トレーサーとしての有効性が報告されているSr同位体について、MC-ICP-MSによる精密測定(平成27年度に実施)に必要な分離条件を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大気エアロゾルのLi同位体比の測定精度を向上させるためには、陽イオン交換樹脂を用いて、分析溶液(試料分解溶液)中の共存成分(特にNa)からLiをほぼ完全に100%分離する必要がある。また、MC-ICP-MSによるSr同位体比の精密測定においても、Srを陽イオン交換樹脂で分離後、さらにSr分離用樹脂(Srレジン)を用いて精製しなければならない。これらの分離条件の最適化に予想以上の時間を要した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、研究を加速し、当初の計画通りに研究を実施する。 まず長崎県平戸市の24時間捕集試料(2012年3月7日から3月21日)について、1%HNO3可溶性およびHF可溶性Li濃度とそのδ7Liとの関係を調べる。次に、後方流跡線解析およびSr同位体比測定の結果を用いて、δ7Liの日間変動が黄砂粒子の発生源や輸送経路に関係付けられるのかどうかを調べる。以上の結果を基に、黄砂の簡易トレーサーとしてのδ7Liの有効性とその限界について総合的に評価する。
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Causes of Carryover |
陽イオン交換樹脂およびSr分離用樹脂によりSr同位体を分離する際に、条件の最適化に予想以上の時間を要したため、当該年度中にその分析までには至らなかった。これにより、Sr同位体の測定に関わる消耗品等の費用が掛からなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は研究を加速し、当初の目標を達成するため、①LiおよびSr同位体測定のための消耗品費(アルゴンガス、前処理用酸類、サンプル容器等)、②国内旅費(MC-ICP-MSによりSr同位体を測定するために使用する旅費、学会等で研究成果を発表するために使用する旅費等)、③謝金等(論文の英文校閲費)、④その他(国内学会参加費)に使用する。
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