空胴共振器型加温アプリケータ内の電磁界分布を利用した非侵襲温度計測

2014 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 25350580
• Research Institution: Hiroshima National College of Maritime Technology
• Principal Investigator: 大和田 寛 広島商船高等専門学校, 電子制御工学科, 准教授 (80350726)
• Project Period (FY): 2013-04-01 – 2017-03-31
• Keywords: ハイパーサーミア / 非侵襲温度計測

Outline of Annual Research Achievements

本研究の目的は，がんの温熱療法（ハイパーサーミア）の治療効果向上のため，治療時における体内の温度変化分布を画像化して計測する技術の開発である．
がん組織を43℃前後に加温して治療を行うハイパーサーミアにおいて，その加温効果（治療効果）を確認するためには，熱電対や光ファイバ等の温度プローブを生体内に刺入する必要がある．現在のところ，非侵襲に生体内の温度変化分布を計測する手法としては，MRIを利用した方法等があるが，計測装置が大掛かりになってしまうこと等の理由から，臨床応用に耐え得るような非侵襲温度計測法は実現されていない．本研究の目的は，誘電率の温度依存性と加温装置内の電磁界分布の特性を利用して，生体内の温度変化分布を非侵襲に画像化して計測する手法の開発である．
今年度の研究計画は，温度変化分布再構成画像の空間分解能や計測感度等に関する検討，および実験的検討で使用するための空胴共振器や計測システムの設計・試作に関する検討である．数値解析による検討の結果，電磁界分布（位相や振幅情報等）を利用した画像再構成による逆推定によっても温度変化分布画像が得られる可能性を示し，また温度変化分布画像の高精度化のため，画像再構成フィルタ等の解析パラメータに関する検討を実施した．この電磁界分布の情報による新たな時系列波形の解析手法や，従来の位相情報を利用した温度変化推定結果との比較および感度や精度向上の可能性等の詳細については現在さらに検討中であり，本件に関する新たな知見が明らかになり次第，研究成果を公表する予定である．今年度は，研究計画書に記した多岐にわたる検討事項の優先順位を考慮し，また新たに導入した電磁界解析用並列計算システム等を効率的に利用して，研究を進める予定である．

Current Status of Research Progress

4: Progress in research has been delayed.

Reason

本年度は研究計画に基づき，温度変化分布再構成画像の空間分解能や計測感度等に関する検討，および実験的検討で使用するための空胴共振器や計測システムの設計・試作に関する検討等を実施する予定であった．しかし，温度変化分布推定の高感度化・高精度化のために，新たに高周波電磁界時系列波形の振幅情報の利用を検討したこと，またこれにより高周波電磁界の時系列波形解析方法等の信号処理手法について検討する必要性が生じたこと，さらに高精度な画像再構成のために，共振器内の電磁界を励振するための波形に関して，再検討する必要性が生じたこと等により，温度変化分布推定アルゴリズムの検討に当初想定していたよりも多くの時間を要している．このため，実験的検討で使用するための空胴共振器や計測システムの設計・試作に関する検討までには至っていない．また，これらの電磁界分布の数値解析には，多大な計算機リソースを必要とする三次元有限差分時間領域法（FDTD法）を利用しているが，この計算にも時間を要しており，研究が遅れている理由の一つである．
なお，温度変化分布再構成画像の空間分解能や計測感度等に関する検討では，これまでは温度変化推定に位相情報のみを用いていたが，電磁界時系列波形の振幅情報を利用した分布推定によっても，温度変化分布が得られる可能性を明らかにした．この振幅情報による新たな時系列波形の解析手法や従来の位相情報による推定結果との比較，および感度や精度向上の可能性等の詳細については引き続き検討中であり，本件に関する新たな知見が明らかになり次第，研究成果を公表する予定である．

Strategy for Future Research Activity

以上の進捗状況を踏まえ，温度変化分布推定アルゴリズムに関する数値解析による検討を行い，実験的検討で使用するための空胴共振器や計測システムの設計・試作に必要な仕様の策定等を速やかに実施する予定である．本検討課題では研究計画に記したように検討項目は多岐にわたるため，解析の優先順位を考慮し研究の効率化を図る必要がある．さらに，臨床応用の可能性や問題点等について検討するため，複雑な生体組織に対応した解析モデルを用いて，温度変化分布再構成画像の空間分解能や計測感度等に関する検討も実施する予定である．
また本研究費で新たに導入した解析システムの構築をさらに拡充し，計測システムの仕様策定に必要な数値解析等を行う予定である．この導入した解析システムは並列計算が可能であり，特に多大な計算機リソースが必要となる三次元有限差分時間領域法（FDTD法）の計算時間が短縮できるため，研究の効率化が期待できる．
なお，現在は振幅情報による温度変化推定の可能性について主に検討を行っているが，この検討と同時に研究計画書に記載した他の検討項目についても数値解析を実施する予定である．これらの解析結果によっては，さらにアルゴリズムの再検討が必要になる可能性もあり，これにより試作システムの仕様に変更が生じる可能性もあるため，研究計画の変更等についても柔軟に対応する予定である．
以上のような，より高精度な温度変化分布推定アルゴリズムの実現を目標とした様々な数値解析による検討を行ったため，当初の計画より研究が遅れているが，今年度以降は，研究計画書に記した多岐にわたる検討事項の優先順位を考慮し，さらに解析効率化のため新たに導入した電磁界解析用並列計算システム等を効率的に利用して研究を進める予定である．

Causes of Carryover

次年度使用額が生じた理由は，次年度の研究計画に基づき，非侵襲温度計測法の実験的検討に必要な計測システム構築のための計測機器類を購入するためである．
本研究では，非侵襲温度計測法の実験的検討のために，任意波形発生装置，光電界センサ，高速AD変換器等の計測装置が必要であり，また空胴共振器やインピーダンスマッチング回路等の周辺回路の設計・製作等も必要である．次年度以降，これら実験的検討で使用する空胴共振器や計測システム設計に関して数値解析による検討を行い，必要な仕様等を決定する予定である．

Expenditure Plan for Carryover Budget

翌年度分の助成金の使用計画について主なものとして，高周波電磁界時系列波形の計測に必要な高速AD変換器等の導入を予定している．
本研究では，共振器内の電磁界時系列波形を解析して電界の振幅や位相変化を検出する必要があるが，共振器内の電磁波の周波数は数百MHzであるので，高速なAD変換装置が要求される．これまでの数値解析の結果から，スペクトル移動等の信号処理技術を用いて低速なAD変換器でも計測可能であることが明らかになっているが，より高精度な計測のためには高速なAD変換器の使用が望ましいため，サンプリング周波数1GHz以上の高速なAD変換器を導入する予定である．また，現在実施している数値解析による温度変化分布推定アルゴリズムの高精度化についても，解析の効率を向上させ研究の進捗を進めるため，現在の数値解析システムの拡充を計画している．