2014 Fiscal Year Research-status Report
人体の中枢器官をめぐる論争史をとおしてみた西洋古代の人間観の展開に関する実証研究
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25370003
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
今井 正浩 弘前大学, 人文学部, 教授 (80281913)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | エラシストラトス / ヒッポクラテスの「脳中心主義」 / トリプロキア(「三重撚糸体」) / 生命プネウマと心的プネウマ / 『神聖病論』 / ストア派の「魂」論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,人体の中枢器官をめぐる論争史をとおしてみた西洋古典古代の人間観の展開を同時代の古典ギリシア語・ラテン語の原典資料等の内容分析をとおして実証的に解明しようというものであった. ヒッポクラテスが登場した紀元前5世紀からヘレニズム期の論争史の文脈にそって,人体の中枢器官の位置・構造・機能の解明という重要な論点をめぐって,医学と同時代の哲学がそれぞれはたした役割を明確化するとともに,医学と哲学との間の相互的影響関係について,その内実を明らかにすることが,本研究の主眼であった. 上記の目的に基づく研究の第2年目にあたる平成26年度においては,研究の基本的視座をヒッポクラテスの時代からヘレニズム期へと移行させた.とくにヘロピロスとともに,ヘレニズム期の医学の進展に大きな貢献をなしたとされるエラシストラトスの医学思想とその特長に焦点をあてた.エラシストラトスは,トリプロキア(「三重撚糸体」=理論存在としての静脈・動脈・神経が三重に撚り合わさって構成されるもの)を人体の原理的な構成要素にあたるものとして導入するとともに,生命プネウマと心的プネウマを区別したうえで,前者は動脈に含まれる一方で,後者は神経内を流れて,人間の知覚や随意運動をつかさどるという新しい人体モデルを提示したとされている. 本研究においては,これらの「説明原理」に基づく人体モデルが,脳中心主義に立ったヒッポクラテスの医学的伝統に依拠しており,エラシストラトスの医学思想は,多くの点においてギリシア古典期の医学思想の伝統に理論的起源をもっているという事実を明らかにした.同時に,心臓中心主義に立ったストア派の「魂」(プシューケー)論との思想的関係についても,その一端を明確にした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,申請時の研究計画調書に提示した研究計画・研究方法にそって,おおむね順調に進展していると判断される. エラシストラトスの人体モデルは,これまでの研究史においては,その「斬新」な側面のみが医学史上の評価対象となってきた.これに対して,本研究では,一見して「斬新」に見えるこの医学者の人体モデルが,多くの点において,ヒッポクラテス以来の医学思想の伝統を受け継いでいるという事実を明らかにすることによって,本研究進展に大きな一歩を踏み出すことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の最終年度にあたる平成27年度においても,申請時の研究計画調書に提示した研究計画・研究方法にそって,当初の研究スケジュールに遅延が生じないかたちで,滞りなく作業を進めていく予定である. 平成27年度においては,ヘレニズム初期における「神経の発見」という医学史上,最大の発見に基づいて,おもに医学者たちによって提示された新しい人体モデルに対して,同時代の哲学者たちがどのように応答しようとしたかを明らかにすることをとおして,ギリシア古典期からヘレニズム期にかけての人体の中枢器官をめぐる論争史の全容を解明する予定である.
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Causes of Carryover |
本研究課題に基づく研究期間の第2年目にあたる平成26年度において,本研究に必要な関係資料・図書類の購入が,当該年度の予算執行に間に合わなかったために,次年度への繰越金(30万円)生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の研究計画にそって,遅延のないかたちで本研究を進めていくことができるように,年度当初のできるだけ早い時期に,関係資料・図書類の入手に努めるたい.それと同時に,本研究の研究成果を学会等において,滞りなく公表していくことができるように,タイムスケジュールの管理等により一層留意したい.
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