2013 Fiscal Year Research-status Report
古典期アテナイにおける哲学史編纂:フィロソフィアを巡る系譜論的視座の形成
Project/Area Number |
25370009
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
和泉 ちえ 千葉大学, 文学部, 教授 (70301091)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ギリシア哲学 / ペリパトス学派 / 哲学史編纂 / 系譜論 / 古典文献学 / 古典期アテナイ / マケドニア / エウデモス |
Research Abstract |
研究初年度は,考察対象となる原典資料の収集と閲覧を速やかに行い,その読解と論点整理に集中した. 1.ペリパトス学派によって組織的に展開されたギリシア哲学史編纂作業の全体像を全面的に再検討した.まず第一に,F. Wehrli(1967-1969)によって編集されたペリパトス学派の諸断片を,古典文献学的手法に基づき精査した.またL. Zhmud(2006)を手掛かりに,エウデモス『幾何学史』・『数論史』・『天文学史』の成立過程の細部を洗い出し,当時の典拠資料の伝搬経路を再検証すると共に,ペリパトス学派における学説史編纂の理念および方針に関与する思想史的諸潮流および学問的権威の生成過程について考察を加えた.更にW. Fortenbaugh (1992)よる諸解釈を批判的に吟味しながら,テオフラストス諸著作に関連する古代の断片的諸証言を精査した.初年度は,これらの基礎作業を着実に遂行しつつ,ペリパトス学派が展開する学問系譜論の全容に対する批判的再検討を可能にする座標軸を設定した 2.古典期アテナイで活躍した弁論家諸家が提示するギリシア的諸学問の系譜論的見取り図を再検討した.特にマケドニアに対して相反する態度をそれぞれ表明するイソクラテスとデモステネスに着目し,彼らが展開する系譜論的文化論の各々の特徴を個別的および包括的に比較検討し,マケドニアと親密な関係を結ぶペリパトス学派の哲学史の枠組みとの関連性について継続的に考察を加えた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
関連する基礎的文献の収集作業が順調に進み,並行して継続した諸注釈を踏まえての原典読解・解釈の蓄積も,おおむね着実に進展することが可能であった.
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Strategy for Future Research Activity |
上記の成果を踏まえ,ペリパトス学派以前のアテナイの知的状況を取り巻く学問伝統の力学関係に目を向け,あくまでも原典資料それ自体を丁寧に再解釈する作業を着実に積み重ねることに集中する.具体的な計画内容は以下の通りである. 1.ペリパトス学派とは対照的に「哲学の起源」を巡る系譜論的見取り図を提唱しないプラトンにおいて,アテナイ周辺諸地域の学問伝統に関する評価は如何なるものであったのか,その手掛かりをプラトン諸対話篇の中に求め,マケドニアが台頭する以前のアテナイを取り巻く文化勢力地図の描出を試みる.特に上記諸対話篇は,前五世紀の地中海世界において文化的新興勢力として頭角を現したアテナイが,エジプト,シリア,バビロニア,クレタ,スパルタ,ペルシア等々の古来の諸文化圏に由来する学問的諸成果と如何に対峙したのか,その知的接触と受容の次第を巡る当時の力学関係について有力な手掛かりを提供する. 2.トゥキュディデスが描出するアテナイ文化史およびヘロドトスが描出するギリシア文化史を,古代地中海世界におけるアテナイの知的系譜の展開という観点において再解釈し,その見取り図を提案する. また,ギリシア文化の異民族起源説を提唱するヘロドトスの歴史観とペリパトス学派の哲学史を比較検討し,特にフェニキア人を祖先に持つミレトスのタレスを敢えて「哲学の創始者」に据えたアリストテレスの動機の在処について多角的に分析を加える.
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