2014 Fiscal Year Research-status Report
古典期アテナイにおける哲学史編纂:フィロソフィアを巡る系譜論的視座の形成
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25370009
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
和泉 ちえ 千葉大学, 文学部, 教授 (70301091)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ギリシア哲学 / ペリパトス学派 / 哲学史編纂 / プラトン / アリストテレス / ソクラテス / コスモロジー / 論証法 |
Outline of Annual Research Achievements |
ペリパトス学派とは対照的に「哲学の起源」を巡る系譜論的見取り図を提唱しないプラトンにおいて,アテナイ周辺諸地域の学問伝統に関する評価は如何なるものであったのか.その手掛かりをプラトン諸対話篇(特に『法律』・『エピノミス』・『ティマイオス』・『クリティアス』・『ソピステス』・『テアイテトス』・『クラチュロス』・『パイドン』・『パルメニデス』等)の中に求め,マケドニアが台頭する以前の古典期アテナイを取り巻く文化勢力地図の描出を試みた.上記諸対話篇各々の設定および登場人物の出自そして対話の中で言及される諸言説に関する再検討を重ね,前五世紀の地中海世界において文化的新興勢力として頭角を現したアテナイが,エジプト,シリア,バビロニア,クレタ,スパルタ,ペルシア等々の古来の諸文化圏に由来する学問的諸成果と如何に対峙したのか,その知的接触と受容の次第を巡る当時の力学関係について考察した. また上記諸対話篇は,ピュタゴラス学派やエレア学派由来の学問方法論と密接な関係を有する種々の論証法を,当時のアテナイの知識人たちが如何に受容し,哲学のための方法論として展開させていったのか,その過程に関する断片的手掛かりを提示する.特にエレア派ゼノン由来の論証法・基礎定立に基づく議論展開の方法論を如何にソクラテス自身が習得したのか,その過程について『パルメニデス』と『パイドン』から抽出される諸論拠を比較検討することによって,根本的に新たな視点から検討を加えた. さらにプラトン『ティマイオス』が提示するコスモロジーの文脈を,シュラクサイの政治家ヘルモクラテスとピュタゴラス学派の関係およびアテナイの政治家クリティアスとソクラテスの関係という二つの座標軸の中で再検討し,ペロポネソス戦争前後における宇宙論の政治的意義を考察すると共に,プラトン『ティマイオス』執筆動機について新たな解釈を提起した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本邦の西洋哲学研究分野においては特に専任の女性教員が少なく,男女共同参画推進の政策の影響により学外・諸学会での諸公務を女性であるがゆえに任される局面が飛躍的に増大した.このような多忙な状況に直面し,当初予定していた計画通りに研究に集中し存分に学究生活を遂行するに足る時間の確保という点において,日々格闘せざるをえなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
アリストテレス『形而上学』第一巻が描出するギリシア哲学史の編纂過程について全面的に考察を加える.特にリュケイオンのテオフラストス『形而上学』,そしてアカデメイアのクセノクラテスおよびスペウシッポスの諸断片に焦点をあて,プラトン後期思想とピュタゴラス学派の思想の実質的影響関係を文献学的諸論拠と共に再検討する.またさらに,前五世紀後半ー前四世紀におけるマケドニア,アテナイ,イオニアの政治的・文化的力学関係を関連する当時の原典諸文献に基づき再構成し,ペリパトス学派的視座に基づく哲学史に内在する様々な要素を描出する.
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