2014 Fiscal Year Research-status Report
善と美の関係再構築に向けて-マルティン・ゼールにおけるよき生の倫理学を手掛かりに
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25370021
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
後藤 弘志 広島大学, 文学研究科, 教授 (90351931)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 西洋倫理学 / 自然の美学 / 人格主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
該当年度における研究実績は、主に以下の2件である。 1.ドイツ哲学会第23回研究大会コロキウム招待講演:"Die Rezeptionsgeschichte des Personbegriffs in der Moderne Japans" (2014年10月1日、ミュンスター大学) 2.ミヒャエル・クヴァンテ著『ドイツ医療倫理学の最前線:人格の生と人間の死』翻訳出版(高田純監訳、盛永審一郎・長島隆・村松聡・後藤弘志訳、リベルタス出版、2014年12月11日発行) この内、1は、明治期における人格概念の受容史を辿ることを目的としたものである。明治20年代中ごろまでに登場したPersonないしPersonalityの訳語候補を渉猟した上で、井上哲次郎および中島力造の尽力によって「人格」という訳語が定着するに至った経緯を確認した。そして、同時期に中島らによって導入されたT. H.グリーンの人格主義倫理学と江戸期儒学の修身論とのはざまに繰り広げられた井上、中島の格闘の中から、近代初頭における人格概念の日本的受容=変様の一断面を明らかにした。三年間にわたる当該研究課題の遂行において、この業績は、現代における善と美の関係の再構築に不可欠な「人格の自律」概念を、日本的文脈の中に繋ぎ止めるための鍵となるものであり、ドイツおよび中国での出版が予定されている。 また、2は、人格の自律の具体的場面として医療倫理の現場に焦点を当てた、ドイツ応用倫理学分野における気鋭の研究者による好著の翻訳である。担当箇所は中でも終末期医療に関する倫理的問題を扱っており、美しく死ぬという日本的美学=倫理学を論じるための重要な視点を与えてくれるものである。この作業は、期待される研究成果の第三点に掲げた、衛生観念・美的是認/否認の感情などと混然一体となった原始的道徳感情の「現象学」構築に繋がるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
計画の進捗が予定よりも遅れている大きな要因として、平成26年度から平成27年度の二年間を任期として引き受けた教務委員長(教務・入試担当)という職務による多忙さを挙げざるを得ない。現在国立大学法人が直面している大学改革の推進および調整役として、この役職には少なからぬしわ寄せが生じているからである。 平成25年度においては、計画全体の理論的基礎となるゼールの美学思想の特徴づけを行うことをめざしていたが、平成26年度の目標に掲げたゼールにおける〈善と美〉ないし幸福と道徳の関係理解、そしてその基礎となる〈よき生〉概念の考察を優先した。そこで平成26年度においては当初計画に立ち戻り、ゼールの美学上の主著『現象することの美学 (Aesthetik des Erscheinens)』(Frankfurt/M., 2003)に展開された、美は知覚されるものか、感覚や想像力はどのような役割を担っているのか、個々の対象のみならず出来事や雰囲気、景観も美的知覚の対象となるのかといった問いをめぐるゼールの立場を整理した。また、ゼール倫理学を西洋哲学史の中に位置づけるに当たって重要となる三つの観点、すなわち 1.カント、シラーにおける道徳性と魂の美しさ、2.シャフツベリー、ハチスンら道徳感覚学派における道徳の美学的基礎付け、3.ニーチェ、フーコーにおける倫理の美学化の内、1に着目して、ゼールの依拠する「現象の戯れ」概念の背景を辿る作業を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度当初において掲げた、ゼール美学を美学史上に位置づけるという課題に着手することはできた。なかでも「現象の戯れ」概念に依拠するゼール美学とカント、シラーの倫理学・美学との比較検討は、ゼールにおける善と美の関係理解の中核となるという感触を得ることができた。そこで最終年度である平成27年度においては、とくに同概念を認識論的および道徳的「無関心性」という観点と結び付けて、ゼールにおける善・正・美の独立性と相関性の解明という目標へ可能なかぎり近づいてみたい。
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Research Products
(2 results)