2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370043
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
松本 浩一 筑波大学, 図書館情報メディア系, 教授 (00165888)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 哲学 / 道教儀礼 |
Research Abstract |
25年度は、まず第1に宋代の道教普渡儀礼文献について、テキストを電子化し、日本語訳しながらその構成を明らかにすることを目標にしていたが、入力についてはほぼ予定通りに完了したが、分析の対象として『無上黄ろく大斎立成儀』(以下「立成儀」)を基本に置くこととし、まずそのテキストを入力・日本語訳した上で構成を明らかにし、さらに正薦の儀礼および仏教の普渡儀礼との比較を行うこととした。しかしその作業の成果を論文にまとめる際に、「立成儀」の普渡儀礼の構成を明らかにするだけでかなり長大なものになったため、その部分だけで論文はいったん完結することとし、『図書館情報メディア研究』に投稿した。正薦の儀礼および仏教の普渡儀礼との比較については、前者についてはほぼ終了しているので、夏季休暇中にこの論文も完成したいと考えている。道教の普渡儀礼の構成は仏教の普渡とほぼ同様のストーリーを持っており、これに錬度や成仙を保証するための文書の授与など、道教独自の儀礼が追加された形になっている。この普渡の儀礼が基になって、正薦の儀礼が成立したことが考えられる。南宋中期から元代にかけて活躍した著者の残した、普渡や黄ろく斎のための青詞・疏文については、著名な著者については収集したが、さらに広い範囲で収集することに努めたい。 台湾北部の普渡儀礼については、普渡の中で行う手印の分析を中心に、25年度は調査を進め、これに加えて台湾北部の道士の伝統、および中元節で挙行する中普と呼ばれる儀礼の構成を論じた論文の概要を、25年末の研究会で発表した。これに手を入れたものを6月末に完成し、『東方宗教』に投稿する予定である。また25年度の夏季休暇には香港でのフィールド調査を行い、潮州系の仏教・道教の儀礼、島嶼部の道教正一教系の儀礼などを調査したが、日程の関係で全真教系の儀礼については調査ができなかった。これについては26年度に期したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本件の目的は、一つには道教の普渡儀礼が基本的な形式を完成させた宋元時代に成立した儀礼書について、その構成と儀礼書による相違点を明らかにすることにある。25年度は比較的早期に成立した「立成儀」に説かれた普渡儀礼ついてその構成を分析し、その成果を論文にまとめることができたが、その作業に続いて、他の儀礼書に説かれた儀礼と比較する前に、正薦(両親など直接の救済の対象となる死者)のための儀礼、および仏教の普渡儀礼との関係を考察することにした。そのため他の儀礼書との比較は遅れたが、新しく設定した問題についての研究成果は、26年度の夏季休暇中に論文にまとめられる段階に達している。普渡儀礼執行の状況や目的、背景となる信仰の考察については、25年度は主として多くの文章を残した知識人の書いた青詞・疏文の資料を収集した。 もう一つの目的である、現在の台湾・香港の普渡の施行状況の調査については、現在主として教えを受けている台湾北部の李游坤道長の普渡儀礼については、主として手印とその伝統の系譜について調査した。手印は普渡儀礼の中では重要な位置づけを得ているが、特に台湾北部道士の手印は独自の構成を持っているため、その構成を明らかにすることを目的としたが、一方でその系統を明らかにする手がかりにすることができないかと考えたためこれに注目した。しかしその手印および普渡儀礼全体の構成については明らかにすることができ、また北部道士の系譜についても考察できたが、後者については手印を手がかりとした考察ではない。現在中国南部で行われている普渡儀礼については、25年度は香港の正一教系の儀礼などを調査することができたが、本研究では現状を調査する目的は、現在行われている普渡儀礼の種類を全体的に把握し、普渡儀礼の施行の目的を把握することにあるので、この方面の調査を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は25年度の研究で課題とした、「立成儀」に収められた普渡儀礼ための儀礼書と、正薦のための儀礼書との内容の比較、そして仏教の普渡儀礼との比較についての研究を仕上げることが、まず第一に求められる。次に宋元時代の儀礼書に関しては、以前に分析した金允中『上清霊宝大法』や『霊宝領教済度金書』中の「玄都大献玉山浄供儀」について、その時には取り上げなかった錬度・昇度の部分まで、「立成儀」との比較を行っていく。そして25年度に収集した青詞・疏文の分析を進める。その際には、普渡儀礼を挙行するに当たって、その最終的な目的はどのようなことに置かれているのか、祈願を発する対象(祈願が向けられる神々)は誰だと意識されているのか、著者が普渡儀礼をどのようにとらえていたのか、あるいは普渡の思想がどのような状況の中に現れ、どのように表現されているのかという問題に注目して分析を進めていきたい。そして『全宋文』を対象に、25年度よりさらに多くの青詞・疏文を収集していく。 また現状の調査においては、この後者の問題に関連して、現在では中元節の普渡に際して、信者の人たちはこの儀礼をどのようにとらえているのか、普渡を実施する宗教者(道士や僧侶など)を挙行する祠廟や団体の側ではどのように決定していくのかなどを明らかにしたい。そして25年度は調査のできなかった、『先天斛食済煉幽科』などを使用した全真教系の普渡儀礼について、台湾あるいは香港で調査を行い、その構成を把握したうえで、今まで調査を進めてきた台湾北部の普渡儀礼、あるいは台湾南部の普渡儀礼との相違点や関連などについて考察を行っていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
26年度以降に使用する予定であった、道蔵資料の『霊宝玉鑑』、『霊宝度人上経大法』などの文献を入力するための謝金として考えていた部分が、研究代表者自らが入力を進めることにより、文献内容の把握もできると考えて、自ら入力・校正を行ったため、謝金がかなり節約できることになった。残額の多くがその部分に由来している。 26年度は儀礼のための文献の入力だけでなく、25年度に収集した普渡儀礼に関連する青詞・疏文を入力することを考えているが、その部分はもともとの予定にはなかったため、25年度の残額がそのまま使用できると考えている。
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