2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370086
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
金関 猛 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (20144727)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 精神分析 / ジークムント・フロイト / マルタ・ベルナイス / 書簡研究 / 恋愛論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年3月に著書『ウィーン大学生フロイト―精神分析の始点』を上梓した。これによって精神分析の基盤が厳密な実証主義にあることを立証した。しかし、大学生としてのフロイトが研究していたのは、生理学であり、神経解剖学である。そうした学問研究と人間の心の探究、無意識の科学としての精神分析とはなおも距離がある。医学研究を離れ、精神分析の創始へと向かうフロイトの道程において、マルタ・ベルナイスとの恋愛体験が大きな意味をもつと考え、本年度は、マルタとの『婚約書簡(Brautbriefe)』の精読に努めた。これはフロイトとマルタのと往復書簡(全1539通)を収めるもので、全5巻で完結が予告されているが、現在は第3巻までしか刊行されていない。この書簡集は精神分析の生成を考察するうえで、計り知れない価値をもつ資料である。フロイトとマルタはウィーンとハンブルクに引き離され、4年3ヶ月の婚約期間を過ごす。その間、フロイトはその恋愛のなかで自分自身の心身において激しい情動のうねりを体験するのである。フロイトはマルタ宛の手紙で、自分自身を制御できないと告白し、人間の心の「内奥」を探究したいのだと打ち明ける。そこにはすでに精神分析の胎動を見いだすことができる。この書簡集は現在刊行中であり、これに関する論考は、筆者の知る限りいまだ発表されていない。目下、これについての論文をすでに執筆し、28年7月に刊行される『岡山大学文学部紀要』で発表する予定である。 上記の研究とともに、精神病と精神分析の関連を確認するため、D・P・シュレーバーの『回想録』の改訳に取り組み(2002年平凡社版の改訳)、解説論文「理性は狂気の一形態なのか」を執筆した(28年10月、中央公論新社刊)。また所属学部の講演会でこれに関する研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は最終年度に予定していた著書の刊行を昨年度に行うことができた。それによって明らかにされた知見に基づいてさらに研究を進めている。当初の計画では、当時の神経学、心理学、哲学等がどのような影響をフロイトに及ぼしたのか、そして、そうした影響下でフロイト精神分析が成立したのか、その過程を明らかにしようとしていたが、そうした学問的影響とともに、フロイト自身の個人的な恋愛体験が精神分析の成立に大きな役割を果たしたことを明らかにしつつある。今年度はそれを明らかにするために、おもに『婚約書簡』を精読し、分析することに時間を費やした。それとともにこの書簡集に論文も執筆したが、公表時期は来年度となった。また、これとは別にシュレーバー研究により、精神医学、脳科学と精神分析の関係について知見を深めることができた。こうした観点から判断して、研究は当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
ジークムント・フロイト/マルタ・ベルナイス『婚約書簡(Brautbriefe)』の精読と分析を進展させ、これに関して、論文を執筆するとともに、所属学会で研究発表をする。そのことにより精神分析成立の過程を明らかにする。
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Research Products
(2 results)