2017 Fiscal Year Annual Research Report
Basic Studies on the Foundation of Sigmund Freud's Psychoanalysis
Project/Area Number |
25370086
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
金関 猛 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (20144727)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 精神分析 / ジークムント・フロイト / 医学史 / ウィーン文化 / フリードリヒ・ニーチェ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、フロイト精神分析の生成をその根源にまで遡って明らかにするところにあった。フロイト精神分析の「始まりの書」とされるのは1895年出版の『ヒステリー研究』である。そのときフロイトはすでに39歳だった。それまでのフロイトは、おもに神経学者として脳科学研究に取り組んでおり、精神分析に直結するような研究はなされていなかった。そこで、本研究においては、神経学から精神分析への転向の原点をウィーン大学のフロイトの学生時代に見いだそうとした。 上記の目的のために執筆されたのが、『ウィーン大学生フロイト』(中央公論新社、2015年)である。ウィーン大学医学部に入学したフロイトは、唯物論的実証主義をたたき込まれた生理学の学徒であった。在学中に執筆された3本の論文は、多くの研究者に高く評価されていた。また、人文学にも関心を抱き、フランツ・ブレンターノの哲学の講義を受けるとともに、ウィーン大学の読書協会で様々な友人と交流し、とりわけニーチェについても多くを学んだ。このような実証主義に基づく自然科学と人文学の幅広い知見、そして、フロイトの言う「不条理への感覚」―心の不条理を洞察する感覚―が精神分析の出発点となった。他方、当時は脳科学の黎明期であり、心の現象を脳の作用に還元することは技術的に不可能であった。心の不条理を解明する科学としての精神分析への志向はすでにウィーン大学生フロイトに見いだされる。自著では厳密な実証主義が精神分析の基盤をなすことを立証した。 これに引き続き、ウィーン大学卒業後のフロイトに注目し、マルタ・ベルナイスとの往復書簡『婚約書簡(Brautbriefe)』を対象として研究を進めた。婚約者マルタとの恋愛の中でフロイトは激しい情動に翻弄される。フロイトはまさに自ら心の不条理を体験していたのである。こうした体験が精神分析の創始に直結するという研究を目下継続している。
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Research Products
(6 results)