2013 Fiscal Year Research-status Report
歌唱時の身体感覚の解明:MRIによる発声器官の可視化と音響分析を中心とした試み
Project/Area Number |
25370117
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Showa University of Music |
Principal Investigator |
羽石 英里 昭和音楽大学, 音楽学部, 教授 (70350684)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岸本 宏子 昭和音楽大学, 音楽学部, 教授 (10107336)
河原 英紀 和歌山大学, システム工学部, 教授 (40294300)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 歌唱 / 身体感覚 / MRI / 音響特性 / 声楽教育 |
Research Abstract |
「歌うこと」をめぐる最大の課題のひとつとして、演奏者自身が自らの発声の状態を視認できないことが挙げられる。そのため、歌手は歌唱時の状態を主観的な、場合によっては比喩的な言語表現(例「体をあけて」「息をまわして」等)を用いて説明する。しかし、そのように表現された感覚が、実際にどのような解剖学的・生理学的・音響学的現象と結びついているかは明らかにされていない。このことは、歌手が自らの歌唱時の状態を客観的な視点で評価・修正することを難しくするだけでなく、歌唱技術を後進に指導したり、歌唱時の状態を第三者に伝えることをしばしば困難にしている。そこで、本研究では、ソプラノ歌手を中心に、歌唱時における身体感覚とそれに対応する解剖学的・生理学的・音響学的現象との対応関係を検証し、歌唱のメカニズムの解明とそれによる演奏技術の向上への貢献を目指している。さらに、これらの結果は、声楽の専門家だけでなく、広く一般に向けた健康的な発声法指導へも繋がることが予想される。 平成25年度は、歌手および声楽を学ぶ者へのインタビューを行なってきた。その過程で、望ましい歌唱時の身体感覚や歌唱技術を表す言語表現を収集するとともに、歌手自身が歌唱の状態を確認するために可視化を希望する身体部位について調査し、複数の歌手に共通する主観的な要素を確認してきた。また、それらの表現を反映・集約すると思われる身体器官に的を絞って磁気共鳴画像撮像法(MRI)を用いて可視化し、画像分析を行なった。さらに、歌唱時の音声を分析し、その音響特性を抽出している。これらと並行して、インタビューやMRI撮像への参加者やその他歌唱・声楽教育等に携わる者も含めた意見交換会およびMRI画像の勉強会を開催し、研究者側(音楽療法、音楽学、声楽、音響学、耳鼻咽喉科学、音声学など)も含めた学際的かつ広い視点から研究の方向付けを行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
歌手を対象とした主観的な身体感覚についてのインタビューでについては、望ましい歌唱時の身体感覚を言葉で説明してもらい、その際可視化できたら良いと考える身体部位を特定してもらった。その結果、複数の歌手が注目した「横隔膜の動き」に絞ってMRI撮像実験を実施した。横隔膜は主要な呼吸筋であり、声楽教育でも長年その重要性が指摘されてきた。これまで、その活用の状態は肺活量や体内の圧力などを測ることで間接的に観察されてきたが、今回のようにMRIにて可視化することは、先進的な試みといえよう。 MRI撮像実験は歌唱音声録音とあわせて2回にわたって行った。第1回後に、被験者の同意を得て匿名性を確保したうえで、MRI画像分析についての勉強会と研究者会議を開いた。勉強会には当事者である歌手、声楽を学ぶ学生、当該研究を担う異分野の研究者(音楽療法、音楽学、声楽、音響学、耳鼻咽喉科学、音声学など)等が参加し、横隔膜の動き等について、どのような点に着目して分析することが歌唱技術の向上や教育に実質的な意義をもつか等について、活発な意見交換を行った。これを受けて研究者会議では今後の撮像方法や分析方法の技術的な側面についての専門家同士の知見を交換し、第2回目の撮像を行った。インタビューの25年度前半の途中経過については学術誌に報告した。また、MRI画像と歌唱音声の分析結果の一部については、5月末からアメリカのフィラデルフィアで開催されるVoice Foundationの学術大会において口頭発表としての採択が決定している。Voice Foundationは歌唱研究では世界を牽引する主要学会のひとつであり、第一線の研究者との意見交換も予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度以降も歌手へのインタビューおよびMRI撮像、歌唱音声録音を継続し、その分析をすすめる。発声時の横隔膜の動きや声道の状態については個人差も大きい可能性が25年度の経過から考えられる。したがって、当初、声楽の初心者については25年度と同じ被験者の継続的参加を考えていたが、26年度以降は新たな被験者に参加協力を依頼し、個人差についての情報も検討する予定である。また、25年度は主にイタリアオペラを専門とするソプラノが対象であったが、今後はドイツ系等の教育を受けたソプラノも含めるとともに、参考データとしてテノール等他の声種のデータも採取する可能性がある。なお、25年度にMRI被験者として協力した声楽教育者が自身の横隔膜の動画を声楽のレッスンで学生に見せたところ、その場で発声の改善が見られたという報告もあった。したがって、引き続き歌唱技術の可視化について歌唱の専門家や学生の意見を聞く機会を設けるとともに、さらに広く一般社会に還元する方向で成果発表の機会を考えていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
14,024円の次年度使用額については、実験に同行した研究者の数や実験費用等など、それぞれの項目ごとに過不足が生じた結果である。 25年度中の成果発表のため、26年度には海外での研究発表を予定している。MRI撮像についても当初より被験者の数を増やしてデータをとる予定なので、交通費や謝金がかかることが予想される。次年度使用額はそれらに繰り入れたいと考えている。
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Research Products
(3 results)