2013 Fiscal Year Research-status Report
1820年代のオリジナルフォルテピアノによるシューベルト4手連弾作品研究
Project/Area Number |
25370169
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
山名 仁 和歌山大学, 教育学部, 教授 (00314550)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | オリジナルフォルテピアノ / シューベルト / 連弾 / ファゴットペダル / トルコペダル / モデラートペダル / ダブルモデラートペダル |
Research Abstract |
本年度はシューベルトの4手連弾作品における6種のペダルの使用法を中心に研究をおこなった。その結果以下の4点が明らかとなった。1.シューベルトの4手連弾作品の成立は、現在のピアノからは失われてしまった4種類のペダル機構(モデラート、ダブルモデラート、ファゴット、トルコ)の機能と密接な関連性がある。特に連弾作品においてのみ可能となる2人の奏者の4本の足を駆使したペダル使用法によって初めて多様な演奏が可能となる事が明らかとなった。2.トルコペダルの使用法については以下の3点の新しい知見が得られた。①fからPまでの段階的な強弱法。②ダンパーペダルの音響効果を伴う場合と伴わない場合の演奏効果の相違。③トルコペダルを打ち込んだ後にそのまま踏み続ける場合と急速にペダルを上げる場合との演奏効果の相違。3.ファゴットペダルに関してはシュタイヤー=ルビモフの先例があるが、6種のペダルを併用させる事によってさらに多様な使用法が考えられ、使用個所についてもより多くの事例を提示できる可能性が明らかとなった。4.現代のピアノ演奏法の常識を超えた強弱記号(pppからfff)は、モデラートあるいはダブルモデラートとシフトペダルを同時あるいは別々に使用し、その組み合わせ等によって段階的にピアニッシモ方向にダイナミックレンジを広げていくことによって表現可能である事が明らかとなった。 以上の演奏法は第一回目の録音セッションで記録されている。本年度の主な録音曲目は以下の通りである。 D773〈アルフォンソとエストレッラ〉のための序曲 、D813創作主題による8つの変奏曲、D814 4つのレントラー 、D818ハンガリー風ディヴェルティメント、D819 6つの大行進曲 よりEs, g, h, D824 6つのポロネーズ (2) D, A, E、D859 大葬送行進曲 ロシアのアレクサンドル1世の逝去に寄せる、他
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
○フォルテピアノに設置されている6本のペダルの使用法についてはおおよそ確定することができた為、その成果を検証する為の録音作業に1年目の3月から入る事ができた。当初は2年目に録音セッションを開始する予定であったことをふまえると、前倒しで計画が進んでいるといえる。 ○シューベルトの全 4 手連弾作品の演奏時間等に関するカタログ作成は終了し、3回の録音セッションにおける録音のための時間配分計画の立案も作成済みである。 ○オーケストラ作品と4手連弾編曲作品との関連に関する研究はやや遅れている。これは同一作品の他の作曲家による編曲との比較の必要性が出てきたためである。本研究においてはこの比較によってシューベルト自身による4手連弾編曲法の特徴がより明確になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
○6本のペダルの多様な組み合わせによる多彩な表現の有意性を立証するための2回目の録音セッションの準備をすすめる。またペダルの組み合わせについては楽譜への記譜法を新たに考案し、具体的にその成果について提示する。また全作品について楽譜を提示していくことは難しいため、効率よくこの情報を共有できる方策についても考案する。 ○2年目はオーケストラから連弾への編曲作品を多く取り上げ、シューベルトの編曲の際の工夫を明らかにする。その際に上記「現在までの達成度」にあるように、同一作品の他の作曲家による編曲との比較を行い、シューベルト自身による4手連弾編曲法の特徴を明らかにし、この成果を踏まえつつ《ザ・グレート》 D944 (1825年)の4手連弾編曲に着手する。 ○シューベルトの管弦楽作品と4手連弾作品との音楽構造および演奏効果の類似性を明らかにする。編曲の際には、シューベルトが細かく書き分けた強調記号、アーティキュレーション記号について調べ、さらに6種ペダルの使用法と音域について注意深く編曲を行う。完成した《ザ・グレート》D944の4手連弾編曲版はソナタ《グラン・デュオ》D812と対比させ、管弦楽曲的な表現の類似性について検証する。 ○本研究により明らかとなった演奏法と「ハイドン研究」によって明らかとなった演奏法とを比較し、管弦楽作品の 4 手用編曲の需要の高まりとチェンバロ、クラヴィコードが淘汰される過程との 相関関係を明らかにする。 ○研究成果のより効果的な発信方法として録音と詳細なブックレットの作成を考えている。録音のセッションは今年度を含めてあと2回である。
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