2014 Fiscal Year Research-status Report
1820年代のオリジナルフォルテピアノによるシューベルト4手連弾作品研究
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25370169
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
山名 仁 和歌山大学, 教育学部, 教授 (00314550)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | オリジナルフォルテピアノ / シューベルト / 連弾 / ペダルの使用法 / ファゴットペダル / トルコペダル / モデラートペダル / ダブルモデラートペダル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究協力者として筒井はる香氏を迎え、19世紀前半のウィーンにおける音色変換のためのペダル装置の変遷について、これまでほとんど論じられてこなかった連弾文化との関連から研究をすすめた。 まずオーストリアの楽譜出版社であるハスリンガーの出版目録を調査し、連弾とソロの作品の比率を算出することによって連弾文化の興隆と衰退の年代を特定した。その結果、1803年~26年までの連弾作品の数は、ピアノ作品全体の20%未満に止まっていたが、1826から35年には30%前後占められるようになり、1836年~40年代、50年代には再び20%未満に減少することが明らかとなった。 これに対しグラーフとシュトライヒャーに限った場合ではあるが、連弾作品が増加した1826年頃~35年頃までの間、ペダルの本数が増え、その後、連弾作品の減少とともにペダルの本数も減っていくことが明らかとなった。そして5~6本ペダルのピアノでは、中央周辺にダンパーペダルがついている場合が殆どであり、4本ペダルの場合でも一番左側にダンパーペダルがある場合が見受けられ、これらのダンパーペダルの位置は、左側に座る奏者が、右足でダンパーペダルを踏むことを想定しており、連弾を想定したピアノであったことが明らかとなった。これらペダルの位置関係については、本研究者が提案する、連弾奏者が一つの足で同時に2本のペダルを踏み、6本のペダルを自在に操作していくという演奏法と密接に関連しており、この成果は現在インターネット上で映像によって公開されている。 本年度の録音した曲目は以下の通りである。D1 幻想曲、D9 幻想曲。D608 ロンド、D617 ソナタ、D624 フランスの歌による8つの変奏曲、D812 ソナタ 別名グラン・デュオ、D968 アレグロ・モデラート、アンダンテ、D968b 2つの性格的行進曲2、D602 3つの英雄的行進曲
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
○フォルテピアノに設置されている6本のペダルの使用法については、本年度の文献等によるペダル位置の調査を踏まえ、確定することができたと言える。その成果を検証する為の録音セッションは本年度も行われており、当初は2年目から録音セッションを開始する予定であったことをふまえると、前倒しで計画が進んでいるといえる。○管弦楽作品の4手用編曲の需要の高まりとチェンバロ、クラヴィコードが淘汰される過程との相関関係については、研究協力者との「1810~30年代ヴィーン式ピアノのペダルと連弾文化の関連について」の研究によって明確な方向性が確立されたといえる。○この成果を踏まえ、シューベルトの《ザ・グレート》の4手連弾用編曲に関する研究は現在停止している。これは本年度のハスリンガーの作品目録の調査から、当時、オーケストラ作品を含め様々な形態のアンサンブル作品が連弾用に編曲されている実態が明らかとなり、管弦楽作品の4手用編曲の需要の高まりとチェンバロ、クラヴィコードが淘汰される過程との相関関係を明らかにする為には、シューベルトの作品に限定するのではなく、当時の連弾への編曲状況に対し、総括的な視点を持った研究が優先されるべきであると判断したためである。
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Strategy for Future Research Activity |
○6本のペダルの多様な組み合わせによる多彩な表現の有意性を立証するための3回目の録音セッションの準備をすすめる。ペダルの組み合わせについては楽譜への記譜法を新たに考案し、具体的にその成果について提示する。楽譜を提示する曲目としては現在「6つの大行進曲より第4番D819-4」が候補に挙げられている。これに加え他の作曲様式による作品の絞り込みが次年度の課題である。○ハスリンガーの出版目録の内容分析の成果を踏まえ、その他のオーストリア文化圏の楽譜出版目録の収集とその内容の分析をすすめ、管弦楽作品の4手用編曲の需要の高まりとチェンバロ、クラヴィコードが淘汰される過程との相関関係を明らかにする。○シューベルトのオリジナル4手連弾作品とハスリンガーの出版目録に多数見受けられる連弾編曲作品との関係を明らかにする。 ○研究成果のより効果的な発信方法として録音と詳細な報告をかねたブックレットの作成を考えている。
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Remarks |
これらの映像は、平成26年11月8 日および9日、九州大学大橋キャンパスにおいて開催された日本音楽学会における発表の際に用いられた映像資料の一部である。発表者である山名敏之および研究協力者である山名朋子による演奏である。
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