2014 Fiscal Year Research-status Report
夏目漱石の文芸と美術との相関―漱石文庫資料による実証的研究
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25370225
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Research Institution | Wayo Women's University |
Principal Investigator |
仁平 道明 和洋女子大学, 人文社会科学系, 教授 (00042440)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 夏目漱石 / 美術 / 東北大学附属図書館 / 漱石文庫 / 美術雑誌 / “The Studio” / 美術館図録 / 剥ぎ取り |
Outline of Annual Research Achievements |
夏目漱石の美術への関心と文芸との関わりについては、これまで諸氏の研究によって、主として世紀末芸術の影響が指摘されてきたが、それらの成果は漱石が受容したものの一部に偏っている。東北大学附属図書館の漱石文庫資料のうち、漱石がロンドン滞在中だけでなく帰国後も継続して購入し続けた美術雑誌『ザ・ステューディオ』、ロンドン滞在中に訪ねた美術館の図録等の詳細な検討によって、より広い範囲の美術との深い関わりがあったことが見えてくる。本研究は、漱石文庫の美術関係資料の調査とそれを用いた文芸等との比較研究によって、漱石の美術への多様な関心と漱石文芸との関わりについて実証的に解明することを目的としている。平成26年度は、前年度に続いて、『ザ・ステューディオ』及び漱石が滞英中に訪れた美術館で入手したと考えられる図録等の調査と写真撮影を行い、さらに、『ザ・ステューディオ』及び美術館図録の漱石によるものと考えられる剥ぎ取りによって欠落している部分について、海外から当該資料を取り寄せ、漱石が関心を寄せていたと考えられる美術・絵画、美術家・芸術思潮等がどのようなものだったのかということを、前年度に続いて調査した。また漱石の日本・東洋美術関係への関心についても、漱石文庫の資料に加えて他の資料、図書の調査・研究を継続し、明治37年、明治38年頃漱石が描いた絵葉書等によって、水彩画模写による西洋絵画を中心としたものから次第に日本・東洋のものへと移っていっている過程を確認している。 なお本年度は、図書館指定の専門業者による資料の撮影がすすまず、メモの代替として認められたデジタルカメラによる撮影を行った。 そのような作業を踏まえ、平成26年度は、国内での論文の公表に加えて、海外における講演等による成果発表も行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で主な調査の対象としている東北大学附属図書館の漱石文庫所蔵『ザ・ステューディオ』は、全体の調査がほとんど行われたことがなく、基礎的な調査報告もない状態である。したがって、これまでに研究・調査の蓄積が全くといってよいほどなく、長年にわたって漱石が購入、購読を続けた大部数の『ザ・ステューディオ』を調査するのに多くの時間がかかっている。また、当該雑誌は、既に約100年を経過して劣化が甚だしく、頁をめくるごとに資料が傷む状態である。そのため、資料の破損を防ぐべく、扱いにはきわめて慎重な、細心の注意が必要であり、1冊の資料の調査にもかなりの時間を要する。 本研究で企図している漱石の関心のある美術・絵画、美術家を確実に知るための手がかりとなる、剥ぎ取られたページの内容の調査のためには『ザ・ステューディオ』の同じ号を確認する必要があるが、国内で当該号を所蔵する図書館はほとんどなく、また直接の閲覧調査が困難である。そこで、イギリス等、海外から取り寄せて入手し、比較、確認する必要があるのだが、そうして入手したものにも、予想していた以上に、剥ぎ取られた部分のあるものが多く、確認のために必要な完本の入手に時間がかかっているため、比較の作業が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
東北大学附属図書館の漱石文庫所蔵『ザ・ステューデイオ』(“The Studio”)及び漱石がロンドン滞在中に行ったナショナル・ギャラリー、テート・ギャラリー等の図録とその剥ぎ取りによる欠落、そこからうかがえる漱石が関心をもった美術・絵画、美術家・芸術思潮等の確認等の調査をさらにすすめるために、漱石文庫の訪問調査の回数を増やし、また当該雑誌の同じ号及び美術館の図録等の入手についても、複数の古書店に依頼して比較に堪える状態のよい資料の入手に努めるとともに、調査、研究の終了した部分から、判明した結果を、論文、口頭発表、講演等で発表していきたい。 さらには、研究成果を海外にも発信し、参考となる意見を得るために、海外における学術シンポジウム、研究フォーラム等を開催すべく、海外の大学、研究機関の研究者と研究についての打合せを行う等、協力関係を深めて、その準備をすることとしたい。なお平成27年のことになるが、既に5月2日に、台湾高雄市の文藻外語大学において開催された同大学日本語文系主催の国際研究フォーラム「国際研究フォーラム――文芸と教養」の企画について本研究代表者が助言し、計3本の漱石に関する講演、研究発表が行われたが、そのうち2本は漱石と美術に関するものであった。また研究代表者による基調講演の一部に漱石と美術、特に『ザ・ステューデイオ』(“The Studio”)の受容に関する内容が含まれている。また本研究代表者の助言によって、平成28年4月30日に、台湾大学において夏目漱石に関する国際シンポジウムを開催することが予定されており、その国際シンポジウムにおいても、漱石と美術に関する研究を国際的に進展すべく、そのテーマによる発表が入るよう助言している。
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Causes of Carryover |
東北大学附属図書館の漱石文庫の調査が、東日本大震災後の補修のための工事の継続、改修工事等によって遅れたことに加えて、漱石旧蔵の『ザ・ステューデイオ』(“The Studio”)及び漱石がロンドン滞在中に行ったナショナル・ギャラリー、テート・ギャラリー等の図録等の剥ぎ取られた部分やとその部分を備えた『ザ・ステューデイオ』(“The Studio”)及び図録等を入手してその内容を確認する作業が遅れていることによる。それは、『ザ・ステューデイオ』(“The Studio”)及び漱石がロンドン滞在中に行ったナショナル・ギャラリー、テート・ギャラリー等の図録等は、漱石文庫の漱石旧蔵のものの剥ぎ取られた内容を確認し、さらに海外から入手した資料によって比較し、そこにある美術・絵画、美術家・芸術思潮等がどのようなものだったのかということを明らかにする必要があるが、その完全な資料の入手が困難なためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、漱石文庫の漱石旧蔵資料の剥ぎ取られた部分の確認に使用できる完本の海外からの資料の入手について、複数の古書店等への依頼を行って資料を購入・入手し、経費の本年度における適切な額の使用に努める。また前記の事情によって遅れていた東北大学附属図書館の漱石文庫調査の回数を増やして、研究の進展を図ることとする。さらに、最終年度である平成27年度は、当該年度における研究成果の発表のための国内及び海外での講演、研究発表に努めるとともに、次年度以降、研究成果の海外への発信のための国際シンポジウム開催準備のための打合せ等にも適切に使用することを予定している。
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Research Products
(2 results)