2013 Fiscal Year Research-status Report
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25370343
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
博多 かおる 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60368446)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | バルザック / 音楽と文学 / オペラ / ベルリオーズ |
Research Abstract |
第一に、バルザック作品のコンコルダンスを使用しつつ、作品の読み直しをもとに、『人間喜劇』における音楽作品への言及を概観した。その結果、扱うべき主題が、いくつかの分野に分かれることが理解された。まず、作家の<哲学研究>に関連する、音楽と記憶、音と物質、音楽的実践と理論の問題である。次に、用いられる楽器とそれが持つ歴史的・文化的象徴性、社会階層の問題である。さらに、音楽と政治・宗教権力の問題、音楽家の社会的地位が取り上げられうる。加えて、文学作品に音楽作品を引用することによって作品が得る次元、その解釈の問題である。これらの問題の射程を吟味するために、19世紀の他の作家との比較を行い、音楽と文学が相互に与えた影響の変遷についても考察を深めた。 その上で研究計画にもとづき、宗教音楽については、中編小説『フェラギュス』で言及されるベルリオーズの『レクイエム』を研究対象とし、作品の構造と音楽言語を分析した。ベルリオーズの作品における、声や楽器の音の意味のみならずそのインパクトを引き出す試み、リズムとポリフォニーの革新などが、バルザックの小説における多声的な構造や、各人物の語調を生かす試みなどと響き合っていることを理解した。 さらに、『ゴリオ爺さん』に引用された5曲のオペラとオペラ・コミック作品について、スコアをもとに分析を進めた。従来、当時流行のオペラだったために引用されたと考えられていた作品についても、これらの音楽の断片の引用が、複雑な意味の重なりやアイロニーを生み出し、人物関係を照射し、社会構造を浮き彫りにしていることが明らかになった。また、ナポレオンと登場人物との隠れた関係についてはすでに部分的に先行研究もあるが、一人の登場人物がナポレオンになぞえられるのみならず、ナポレオンにまつわる歌の引用によって、重層的な歴史観が表現されていると論を展開することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的に沿って、課題を整理した上で、今後の研究の方針が立てられ、本年度の研究実施計画をおおむね実践できている。バルザックの小説に含まれた社会観察と音楽作品の関係、音楽言語と小説の言語の相互作用の一端について有意義な発見があり、これを早急に論文にする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、ナポレオン期から七月王政期に射程を広げて、19世紀のオペラ、オペラ・コミック作品とバルザックの小説の関係について調査を続ける。その際、『ルヴュ・ミュージカル』のような当時の刊行物にあたり、バルザックの作品に示された音楽観と当時の作品受容の重なり、あるいはずれをさらに精密に調査した上で論じていく。 次に作曲家・演奏家と、演奏の形態(作品演奏と即興)について考察を行う。この研究から、音と想念の伝達に関する分析を引き出すことができると予想される。分析にあたっては、声と各楽器による伝達の差異、それぞれの手段がもつ象徴と音についての想念を正確に把握し、バルザックの作品における「音」と「音楽」の概念を明確にする作業が必要である。重要な概念である「流体 fluide」と音の関係についての調査もそこに含まれる。 さらに、小説の言語と音楽言語、音楽的手法の関わりについては、引き続き、バルザックの作品中で言及されている音楽作品の分析や、書簡の分析をもとに、複数の作曲家を射程に入れて多角的に研究を進める。
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